1991年の航空

1991年は、世界の航空業界にとって多くの歴史的な出来事が起こった年でした。軍事、商業、そして冒険飛行の各分野で特筆すべき進展や変化が見られました。

主な出来事

年明け早々、航空戦力の重要性が改めて認識される出来事がありました。1月16日、湾岸戦争が勃発し、多国籍軍による大規模な航空作戦「砂漠の嵐」が開始されました。この作戦では、精密誘導兵器を搭載した航空機が主要な役割を果たし、現代における航空優勢の意義を世界に示しました。その後、戦争は2月28日に終結しました。

商業航空の分野では、長年の歴史を持つ主要航空会社が経営破綻に追い込まれるという、象徴的な出来事が続きました。まず1月18日には、アメリカの大手航空会社の一つであったイースタン航空が、64年以上に及ぶ運行の歴史に幕を下ろしました。さらに年末の12月4日には、かつて世界の空をリードしたパンアメリカン航空（パンナム）が操業を停止し、73年の輝かしい歴史に終止符を打ちました。これらの航空会社の終焉は、航空業界における競争の激化と経済情勢の厳しさを浮き彫りにしました。

冒険飛行の分野では、目覚ましい記録が樹立されました。1月16日から18日にかけて、リチャード・ブランソンとペール・リンドストランドは、熱気球「ヴァージン・パシフィック・フライヤー号」に搭乗し、日本の都城市からカナダのイエローナイフまでの太平洋横断飛行を敢行しました。この飛行は、わずか2日間で約10,878kmという熱気球による世界最長飛行記録と、最高速度395km/hという速度記録など、複数の世界記録を塗り替え、大きな注目を集めました。

また、特筆すべき人道的な空輸作戦も実施されました。5月24日には、「ソロモン作戦」と呼ばれるイスラエルへの大規模な移民空輸が開始されました。この作戦では、約14,200人のエチオピア系ユダヤ人がわずか25時間の間にイスラエルへ移送されました。特に、イスラエルのエル・アル航空が使用したボーイング747型機は、一度に1,087名という驚異的な数の乗客を運ぶ記録を達成し、大型機の能力を最大限に活かした事例となりました。

新型機の初飛行

1991年は、将来の航空輸送や軍事作戦を担うことになる多くの新型機が初飛行を果たした年でもありました。

4月4日：水陸両用で探検用途が想定されたウィルソングローバル・エクスプローラーが初めて空へ飛び立ちました。
4月27日：ヨーロッパのヘリコプターメーカー、ユーロコプター（現エアバス・ヘリコプターズ）が開発した戦闘ヘリコプター、EC-665ティーガーが初飛行しました。
5月10日：カナダのボンバルディア・エアロスペースが開発したリージョナルジェット機、ボンバルディアCRJシリーズが初飛行しました。これは、その後の地域航空路線網の発展に大きな影響を与えることになります。
5月31日：スイスのピラタス・エアクラフトが開発した単発ターボプロップ輸送機、PC-12が初飛行しました。多用途性と経済性で後に成功を収めます。
9月15日：アメリカのマクドネル・ダグラスが開発した大型輸送機、C-17グローブマスターIIIが初飛行しました。優れた短距離離着陸能力を持つこの機体は、後にアメリカ空軍の主要な戦略・戦術輸送機となります。
10月25日：ヨーロッパのエアバスが開発したワイドボディ4発ジェット旅客機、エアバスA340-300が初飛行しました。長距離ノンストップ飛行 capability を特徴としていました。
12月23日：アメリカのカマン・エアロスペースが開発した特殊なローターシステムを持つヘリコプター、K-MAXが初飛行しました。主に外部吊り下げ貨物の輸送に特化した設計でした。

一方で、政治情勢の変化により開発が頓挫したプロジェクトもありました。ユーゴスラビア社会主義連邦共和国では、航空技術研究所(VTI)が進めていた、クリップトデルタ翼とカナードを備えた第4世代超音速マルチロール機「ノヴィ・アヴィオン」の開発が、同年におけるユーゴスラビアの解体という事態を受けて中止となりました。

航空に関する受賞

この年の航空分野での功績が認められ、複数の個人が栄誉ある賞を受賞しています。

FAI（国際航空連盟）ゴールド・エア・メダルはKyung O Kim氏に贈られました。
* イギリス飛行クラブ金賞は、熱気球による世界記録を樹立したリチャード・ブランソン氏とペール・リンドストランド氏に授与されました。

1991年は、軍事技術の進化、商業航空の構造変化、そして技術的なブレークスルーが同時に進行した、航空史において記憶されるべき一年と言えるでしょう。

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