1992年の鉄道

1992年（平成4年）の鉄道

1992年（平成4年）は、日本の鉄道にとって、新しい時代の幕開けを感じさせる出来事と、長年親しまれてきたものが姿を消すという対照的な動きが混在した、記憶に残る一年となりました。全国各地で路線の開業や延伸、新駅の設置が進み、利用者にとっての利便性が向上しました。同時に、技術の進歩を反映した最新鋭の車両が数多く投入され、今後の鉄道の方向性を示す年でもありました。しかし、残念ながら運行の安全に関わる重大な事故も発生し、鉄道事業における安全確保の重要性が改めて問われることにもなりました。

新たな鉄路の誕生と歴史の終焉

この年の最も大きな出来事の一つとして挙げられるのが、7月1日に開業した山形新幹線です。奥羽本線の一部区間を標準軌に改軌し、在来線特急から新幹線「つばさ」へと生まれ変わりました。これにより、東北地方へのアクセスが大幅に改善され、地域経済にも大きな影響を与えました。同じく7月には、北海道の空の玄関口へのアクセスを担う千歳線空港支線が開業し、現在の新千歳空港駅が開設されています。

3月には、風光明媚な海岸線を走る阿佐海岸鉄道阿佐東線（海部〜甲浦間）が開業し、新しい旅のルートが生まれました。4月には、京成電鉄との直通運転を見据えた千葉急行電鉄千葉急行線（千葉中央〜大森台間）が部分開業しています。都市部では、7月に仙台市営地下鉄南北線が泉中央駅まで延伸するなど、インフラの整備が進みました。

一方で、長年の歴史に幕を下ろした路線もありました。10月には、かつて北九州地域の基幹交通であった西日本鉄道北九州本線の大部分（砂津〜黒崎駅前間）が廃止され、多くの停留所と共に姿を消しました。3月には新潟交通電車線の一部区間が、4月には函館市交通局の東雲線が廃止されるなど、地方都市や路面電車の再編も進んでいます。また、岩手開発鉄道日頃市線は、4月から旅客営業を終了しました。

新しい駅も全国各地で開業しました。3月にはテーマパーク「ハウステンボス」の開業に合わせてJR九州のハウステンボス駅が誕生。アクセス向上を図るため、同時に大村線の早岐〜ハウステンボス間が電化されました。JR東日本では吾妻線に小野上温泉駅が開業しています。このほか、わたらせ渓谷鐵道、真岡鐵道、西日本鉄道、水島臨海鉄道、東京モノレール、山万など、各地で利便性向上のための新駅が設置されました。また、京葉線の千葉港駅が千葉みなと駅に改称されるなど、駅名が変更された例も見られました。

ダイヤ改正と車両の進化

サービスの向上や新線開業に合わせ、全国で様々なダイヤ改正が実施されました。特筆すべきは、4月に運転を開始した京浜急行電鉄の「京急ウィング号」です。着席通勤特急の先駆けとして注目を集めました。11月には南海電気鉄道が特急「りんかん」（難波〜橋本間）の運転を開始し、高野線特急のサービスを拡充しています。京王帝都電鉄相模原線でも特急が新設されました。一方、東武東上線の秩父鉄道への直通特急は姿を消しました。鉄道会社間の直通運転では、京成電鉄と千葉急行電鉄の相互直通が始まった一方で、新京成電鉄と北総開発鉄道の間では終了しています。

1992年は、鉄道車両の技術革新が進んだ年でもあります。東海道新幹線には、最高速度270km/hを誇る新型車両300系が登場し、速達列車「のぞみ」として運転を開始しました。山形新幹線用の400系と共に、今後の新幹線網を担う車両として期待されました。JR各社からは、JR東日本の215系（湘南ライナーなどで活躍）、JR西日本の特急形681系、JR九州の787系（「つばめ」などで活躍）、JR四国の特急形8000系など、多様な新型車両がデビューしました。私鉄でも、京王電鉄の8000系、西武鉄道の6000系、近畿日本鉄道の特急形22000系など、デザインや性能を刷新した車両が多数登場し、利用者の快適性やイメージアップに貢献しました。高速試験車両として、JR東日本の「STAR21」やJR西日本の「WIN350」が登場し、更なる高速化に向けた試験が開始されています。また、引退した車両が地方鉄道に譲渡され、第二の人生を送るケースも多く見られました。

安全への課題

鉄道運行において最も重要な安全ですが、残念ながらこの年は複数の事故が発生しました。4月には山陽本線（JR神戸線）の須磨〜塩屋間で、沿道の道路からの落下物と衝突し、寝台特急「さくら」が脱線大破するという痛ましい事故が発生しました。その他、6月には関東鉄道常総線、営団地下鉄日比谷線、東海道線来宮駅構内などで列車の衝突事故が報告されています。9月には成田線で踏切事故も発生しており、これらの事故は鉄道事業者に対し、安全対策の徹底と運行管理の見直しを促すものとなりました。

受賞車両

その年の優れた車両に贈られる賞では、小田急電鉄のロマンスカー20000形「RSE」がブルーリボン賞を、JR東日本の253系「成田エクスプレス」とJR九州のキハ200系がローレル賞を受賞しました。また、京王帝都電鉄の8000系がグッドデザイン商品に選ばれるなど、デザインや機能性が高く評価された車両もありました。

1992年は、新しい時代に向けて鉄道が大きく変化し、進化を遂げた一方で、過去の歴史が終わりを告げたり、安全という永遠の課題に直面したりと、鉄道界の様々な側面が凝縮された一年であったと言えるでしょう。

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