1994年の日本の女性史

1994年（平成6年）は、日本の女性にとって多くの注目すべき出来事が起きた一年でした。この年は「国際家族年」と定められ、家族のあり方が改めて問われる中、社会における女性の役割や権利についても様々な動きが見られました。

スポーツ界では、プロテニスプレーヤーの伊達公子選手が全豪オープンでベスト4に進出し、世界ランキングを7位まで上げるなど、世界の舞台で活躍する女性アスリートの存在感が一層増しました。

社会活動も活発に行われました。3月には国際婦人デーに合わせたイベント「おんなたちの祭り」が開催され、女性たちの連帯が示されました。また、働く女性が直面する法的問題に対応するため、「働く女性のための弁護団」が女性弁護士たちによって結成されました。さらに、「不払い労働と世界システム」というテーマの国際セミナーが東京で開催され、労働におけるジェンダー課題にも光が当てられました。8月には、第1回東京レズビアン・ゲイ・パレードが行われ、セクシュアルマイノリティの可視化と権利を求める動きが見られました。

法制度や行政の面でも変化がありました。7月には、政府の婦人問題企画推進本部が廃止され、より幅広い視点から男女平等の推進を目指す男女共同参画推進本部が設置されることが決定しました。教育分野では、この年からすべての高等学校で家庭科が男女ともに必修となり、男女間の学習内容の垣根が取り払われました。また、夫婦の姓に関する議論も進み、総理府が行った世論調査では、選択的夫婦別姓制度の導入を望む声が27%に上り、特に20～30歳代では40%が賛成するなど、若い世代を中心に制度の見直しを求める意識が高まっていることが明らかになりました。

安全対策の面では、大阪府警察と神奈川県警察に女性だけで構成される特捜隊「ライトウィンズ」が設けられ、女性の視点を活かした捜査体制が強化されました。一方で、社会における差別やヘイトクライムも顕在化しました。朝鮮学校の女子生徒が制服であるチマチョゴリを切り裂かれる嫌がらせ事件が相次ぎ発生し、民族衣装に対する偏見や暴力が大きな問題となりました。また、永野法務大臣が過去の従軍慰安婦問題を「公娼」と述べたり、南京大虐殺を否定するような発言をしたりして辞任に至るなど、歴史認識と女性への人権侵害に関する政治家の不適切な発言が波紋を広げました。

文化・出版分野では、『アンネの日記』の完全版が出版され、それまで削除されていた性に関する記述や母親に対する率直な批判部分が復元され、作品の全体像が明らかになりました。育児に関しては、男性の育児参加を促す目的で男性版母子手帳ともいえる『父子手帳』が発売され、短期間で多くの部数を売り上げました。百貨店では、男性用トイレにベビーキープが設置されるなど、育児に積極的に関わる男性が増えつつある社会の変化に対応する動きも見られました。

この年は、若い世代の価値観の変化も注目されました。博報堂生活総合研究所の調査では、当時の若者（第二次ベビーブーム世代）の特徴として「まさつ回避」傾向とともに、異性との関わりに消極的な「無性化」や男女間の区別が曖昧になっている点が指摘されました。また、厚生省の報告からは、寝たきりの高齢者の介護を、男性の場合は主に妻が、女性の場合は娘や嫁といった女性家族が担う割合が高いという実態が改めて示され、家族内における女性のケア労働の負担が大きい状況が浮き彫りになりました。

さらに、教育現場では女子生徒の制服に関する大きな変化の兆しが見られました。全国の中学校・高等学校で、それまで体育の授業等で広く着用されてきたブルマーの見直しが進められたのです。生徒側から肌の露出が多すぎるという声があったことや、ブルマーが性的な好奇心の対象と見なされるようになったことが背景にありました。この年、いくつかの県でブルマー着用廃止が決定されると、その動きは数年のうちに全国へと波及していくことになります。

宇宙への進出もありました。7月には向井千秋さんが日本人女性として初めてスペースシャトルに搭乗し、宇宙飛行士として歴史に名を刻みました。航空業界でも、日本航空が定期便のパイロットとして初めて女性を採用するなど、女性の活躍の場が広がりました。

一方で、この年の女子学生は就職が非常に困難な状況に直面し、「就職氷河期」と呼ばれる厳しい時代を経験しました。社会全体が不況の影響を受ける中で、女性の雇用問題も深刻化しました。

1994年は、このように女性の社会進出、権利の向上、多様性の受容が進む一方で、根強い差別や新たな社会問題も明らかになった、変化と課題が混在する一年だったと言えるでしょう。様々な分野で女性たちの存在が社会に影響を与え、また社会の変化が女性たちの生活に影響を与えた年でした。

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