1999年8月11日の日食

1999年8月11日の日食

1999年8月11日に発生したこの日食は、観測された地域によって皆既日食または部分日食として見られました。最大食分は1.029を記録し、広範囲にわたる地域で太陽が月に覆い隠される様子が観測されました。

この日食の月の影（本影）は、まず大西洋上に出現しました。その後、ヨーロッパ大陸を東へ向かい、イギリスのコーンウォール、デヴォン、チャンネル諸島のガーンジー島の一部、フランス北部、ルクセンブルク、ドイツ南部、オーストリア、ハンガリー、セルビア北部といった人口密集地域を通過しました。特にルーマニアの北緯45.1度、東経24.3度の地点では、世界時11時03分に食の最大の瞬間を迎えました。ルーマニアを通過した影は、さらにブルガリア、黒海、トルコ、イラン、パキスタン南部、インドを横断し、ベンガル湾上でその旅を終えました。これは、大陸ヨーロッパでは1990年7月22日以来、そしてイギリスにおいては1927年6月29日以来となる、非常に久しぶりの皆既日食でした。

この日食が人口過密地帯を広範囲にわたって通過したことは、歴史上類を見ない規模での観測を可能にしたと考えられています。そのため、観測者の総数においては、史上最多の皆既日食となった可能性が極めて高いとされています。しかしながら、日食帯となったヨーロッパの多くの地域では、残念ながら厚い雲や雨といった悪天候に見舞われ、地上からの観測が困難な場所も少なくありませんでした。

それでも、この歴史的な天文イベントは大きな注目を集め、ヨーロッパの主要なテレビ局では大規模な特別番組が組まれ、日食の様子が実況中継されました。また、当時のロシアの宇宙ステーション「ミール」からも、地球の影に覆われた様子を捉えた貴重な映像が届けられ、世界中で視聴されました。

具体的な観測地では、イギリスのBBCは、皆既帯の西端にあたるコーンウォールから中継を行いました。多くの観測者がこの地に集結しましたが、期待されていた皆既日食は厚い雲に阻まれて見ることができませんでした。一方、比較的穏やかな天候に恵まれたイギリス海峡上空では、停泊中のフェリーなどから快適な観測が行われました。フランス北東部のヴジエでも良好な観測条件が得られましたが、ベルギーなどからの日帰り観測者による自動車の大渋滞が発生しました。ここで撮影された映像は、BBCの番組でも使用されています。

海抜ゼロメートル地帯からの観測だけでなく、航空機やインターネット中継など、多様な方法での観測も行われました。アメリカのサンフランシスコにあるエクスプロラトリウムは、トルコのアマスィヤからインターネットを通じて日食の様子をライブ中継し、遠隔地の観測者にもこの体験を届けました。また、ブルガリア科学アカデミーは、同国空軍のMiG-21戦闘機を特別に改造し、コロナの観測を試みました。このMiG-21は、高度13,000メートルをマッハ1.4から1.5の高速で飛行し、約6分間もの間、月の本影の中を追随しました。パイロット兼カメラマンは、200mmレンズのカメラや赤外線カメラ、Digital8ビデオカメラといった複数の機材で撮影を行い、貴重な観測データと映像を得ました。この飛行は、地元の通信会社Mobiltelがスポンサーとなりました。さらに、3機の超音速旅客機コンコルドも、皆既の影を追いかけるように飛行しました。最大時速2,200キロで影の中を進むことで、乗客数百人は地上よりもはるかに長い、およそ15分間にもわたって皆既日食を観測するという、極めて稀な体験をしました。

このように多くの人々が観測を試みた結果、社会的な影響も現れました。例えば、ドイツでは日食を観測しようとする車両によって、高速道路で数百キロメートルに及ぶ大規模な渋滞が発生し、その注目の高さを示す出来事となりました。

1999年8月11日の日食は、地理的な広がり、観測者数の多さ、そして地上から宇宙、さらには超音速機を用いた観測まで、多様な方法で記録された点において、20世紀最後を飾る特筆すべき天文現象として、多くの人々の記憶に残る出来事となりました。

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