2001年の航空

2001年は、世界の航空業界にとって、未曽有の出来事によりその歴史に深く刻まれた一年となりました。特に9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件は、旅客機が悪意ある目的で利用されるという衝撃的な現実を突きつけ、その後の航空安全対策に抜本的な見直しを迫る契機となりました。

技術開発の分野では、いくつかの新たな動きが見られました。年明けの1月には、インドが長年にわたり開発を進めてきた国産の軽戦闘機、テジャスが記念すべき初飛行を成功させました。これは、自国の航空技術力を示す重要なマイルストーンでした。一方、ロシアでは9月、双発の短距離離着陸（STOL）能力を持つ双胴輸送機、スホーイ80が初めて空へ舞い上がっています。

商業航空機の分野では、製造ラインに変化がありました。長距離輸送で活躍したマクドネル・ダグラス社の3発ワイドボディ機、MD-11の生産が2月に終了し、一つの時代の終わりを告げました。また、将来の高速旅客輸送を目指す野心的な構想も発表されています。3月には、ボーイング社の民間航空機部門を率いていたアラン・ムラリー氏が、カナード翼を持つ斬新なデザインの高速長距離旅客機コンセプトを披露しました。後に「ソニック・クルーザー」と名付けられたこの計画は、音速に近いマッハ0.95以上の巡航速度を目指す意欲的なものでしたが、残念ながら翌年12月には開発中止が決定しています。

記録的な飛行も達成されました。4月には、アメリカの無人偵察機RQ-4 グローバルホークが、カリフォルニア州のエドワーズ空軍基地からオーストラリアまで、実に23時間23分に及ぶ無給油・無着陸飛行を成功させ、無人機による最長飛行記録を樹立しています。

航空会社の経営環境も変化に富んでいました。6月にはカナダで新しい格安航空会社（LCC）であるJetsgoが運航を開始し、市場に新たな競争をもたらしました。しかし、すべての航空会社が順調だったわけではありません。長年の歴史を持つベルギーのフラッグキャリア、サベナ・ベルギー航空が11月に経営破綻し、その運航に終止符が打たれました。また、欧州の主要航空会社間の連携も試みられましたが、必ずしも成功したわけではありませんでした。ブリティッシュ・エアウェイズとKLMオランダ航空の間で持ち上がった買収計画は、オランダとアメリカ間の航空協定による障害のため、11月に中止に追い込まれています。ブリティッシュ・エアウェイズは同時期に、尾翼に様々なデザインを施す「ワールドイメージ」キャンペーンを終了し、再びユニオン・ジャックをモチーフとしたデザインに統一するというブランド戦略の変更も行っています。

軍用機の分野では、次世代戦闘機の選定が大きなニュースとなりました。米軍の統合打撃戦闘機（JSF）計画において、ロッキード・マーティン社のX-35（後のF-35ライトニングII）が開発機種として正式に選定され、競合のボーイング社X-32は採用が見送られることとなりました。

航空事故も発生しています。11月には、アメリカン航空のエアバスA300型機がニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港を離陸した直後に墜落する事故（アメリカン航空587便墜落事故）が発生し、多くの犠牲者が出ました。

そして、この年の航空界に最も暗い影を落としたのは、9月11日の同時多発テロ事件です。アラブ系の過激派グループによって4機の旅客機がほぼ同時にハイジャックされ、うち2機がニューヨークの世界貿易センタービルに、1機がバージニア州のペンタゴン（国防総省本庁舎）に突入しました。もう1機は乗客の抵抗もありペンシルバニア州に墜落しました。この無差別テロにより、合計で2,977人（ハイジャック犯を含む）もの尊い命が失われました。

航空界における功績を称える賞としては、ハーモン・トロフィーがジェニファー・マレー氏とリチャード・アブルッツォ氏に贈られています。

2001年は、技術の進歩やビジネスの再編が進む一方で、テロという人為的な要因が航空の安全と発展に甚大な影響を及ぼしうることを痛感させられた、困難かつ変革の年でした。この事件は、その後の世界の航空保安体制のあり方を根本から変える契機となったのです。

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