2007年ミャンマー反政府デモ

2007年ミャンマー反政府デモ（サフラン革命）

2007年、ミャンマー（当時は軍事政権下でビルマとも称された）において、国民による大規模な反政府デモが発生しました。特に仏教僧侶が中心的な役割を担ったことから、その僧衣の色にちなんで「サフラン革命」とも呼ばれます。

概要

この抗議活動は、2007年8月15日に始まりました。デモが拡大した直接の引き金となったのは、ガソリンなどの燃料価格が突如として大幅に引き上げられたことでした。過去2年間で既に9倍以上に高騰していたにもかかわらず、さらに500%もの急激な値上げが行われたことに、市民の不満が爆発したのです。

当初は学生や反政府活動家による小規模な動きでしたが、軍事政権はこれに対し、数十人を逮捕・拘留するなど迅速かつ厳格な弾圧を行いました。しかし、9月18日以降、数千人規模の仏教僧侶が抗議活動に加わったことで、デモは一気に勢いを増しました。これに対し軍事政権は、特殊部隊を用いて寺院を急襲し、抗議する僧侶を逮捕・拘束するなど、市民デモ隊に対しても発砲を含む強硬手段に訴え、鎮圧を図りました。

経過

最初の本格的なデモは9月5日、パコックで約300人の僧侶によって行われましたが、当局に強制的に解散させられ、僧侶数名が負傷しました。これに反発した数百人の僧侶は翌日、僧院を訪れた民兵を一時拘束し、期限付きの謝罪を要求しましたが、軍側はこれを拒否。その後、抗議活動はヤンゴン、シットウェ、パコック、マンダレーといった主要都市を含む全国に拡大しました。

9月22日には、ヤンゴンで約2000人、マンダレーで1万人もの僧侶がデモ行進を行い、規模はさらに拡大。自宅軟禁中だった民主化指導者アウンサンスーチー氏も、一時的に自宅前で僧侶たちに応じる姿を見せました。翌23日には尼僧も加わり、約1万5千人の僧侶と市民がヤンゴンの街を行進。全ビルマ仏教僧連盟は、軍事政権が退陣するまで抗議を続けると宣言しました。

9月24日、ヤンゴンでのデモ参加者は最大10万人にまで膨れ上がったと報じられました。有名なコメディアンや俳優も僧侶たちに支援を提供しました。アウンサンスーチー氏の自宅へ向かった僧侶団は警察に阻まれました。軍事政権はこれに対し、宗教大臣を通じて僧侶たちに警告を発しました。

9月25日、軍事政権はシュエダゴン・パゴダ周辺に軍用車両を配置し、デモ参加者への威嚇を開始。街中では「デモに参加しない、応援しない、違反者には措置をとる」という警告放送が行われました。アウンサンスーチー氏はこの日、再び拘束され、インセイン刑務所へ移送されたとの報道もありました。

9月26日には、ヤンゴンとマンダレーで夜間外出禁止令が出され、5人以上の集会が禁止されました。武装兵士や機動隊を乗せた車両が多数投入され、デモに協力的な著名人が次々と逮捕されました。シュエダゴン・パゴダ周辺では、軍がバリケードを築き、警棒や催涙ガスを用いて約700人の抗議者を排除。ヤンゴン市内でデモを行っていた約5000人の僧侶団に対し、治安部隊が発砲し、少なくとも僧侶3名と女性1名が死亡したと報じられました。

9月27日、治安部隊は全国の僧院を急襲し、ヤンゴンなどで多数の僧侶を逮捕しました。デモ隊に対しては解散まで10分の猶予が与えられた後、武力行使が行われました。この日、反体制ラジオ局は、日本人カメラマンを含む9人の一般市民が銃撃され死亡したと報じました。

国際社会からの圧力が高まる中、軍事政権は国連特使イブラヒム・ガンバリ氏の入国を許可しました。しかし、デモの鎮静化後、ヤンゴンの街は軍の報復を恐れる市民で閑散としました。

10月1日には、僧衣を剥ぎ取られた僧侶の遺体が川に浮かんでいるとの衝撃的な報道があり、多数の僧侶が拘束されている実態が伝えられました。

政府軍による制圧政策と犠牲者

軍事政権はデモ鎮圧のため、様々な手段を講じました。情報統制のために公共のインターネット接続を遮断したほか、デモ参加者の中にスパイを送り込んでいたことも明らかになっています。また、1988年の民主化運動の経験から、今回はデモ隊をビデオ撮影し、身元を特定した上で関係者を拘束するなど、より短期間での決着を図ったとされています。

鎮圧に投入された部隊には、1988年と同様に精鋭とされる第77軽歩兵師団が含まれていました。この師団は、特定の少数民族や孤児を中心に編成されており、市民への発砲をためらわないことで恐れられていたと言われます。

犠牲者の数については複数の情報があります。国営テレビはヤンゴンでの死者9名、負傷した兵士31名と報じました。国連特別報告官は31人が死亡、74人が行方不明とする報告書を公表しましたが、国際NGOはヤンゴンだけで確認された死者は20人に上り、数百名が消息不明になっていると報告しています。

日本人ジャーナリスト射殺事件

2007年9月27日、ヤンゴンでデモを撮影していた日本のビデオジャーナリスト、長井健司氏が、ミャンマー軍兵士に至近距離から銃撃され死亡しました。日本大使館員によってその死亡が確認されました。検死結果では、銃弾が肝臓を損傷させたことによる大出血が死因とされています。ミャンマー政府は流れ弾によるものと主張しましたが、銃撃の瞬間を捉えた映像からは、至近距離にいた兵士が直接発砲したように見えました。

この事件に対し、日本政府は遺憾の意を表明し、抗議を行いました。当時の福田康夫首相は制裁措置について慎重な姿勢を示しましたが、その後、日本の資金援助の一部（人材センター建設への約5.5億円）が中止されることが発表されました。

各国の反応

国際社会はこの事態に対し、様々な反応を示しました。

中国: 「内政不干渉」の原則を堅持しつつも、ミャンマー政府に対し事態の鎮静化を要請しました。
日本: 平和的な対話による国民和解と民主化への取り組みを強く期待すると表明しました。日本人ジャーナリストの死亡を受けては軍事政権に抗議し、資金援助の一部中止という措置を取りました。
* アメリカ合衆国: ジョージ・W・ブッシュ大統領は、「体制指導者とその財政的支援者」に対する経済制裁（資産凍結など）を発動し、ミャンマー軍事政権を強く非難するとともに、各国に断固たる政策を採るよう求めました。

サフラン革命は、ミャンマーにおける民主化への道のりの厳しさと、燃料価格高騰という経済的要因が政治的抗議に発展する可能性を示した出来事として記憶されています。
歴史に刻まれています。
歴史に刻まれています。

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