2011年ロシア反政府運動

2011年12月4日のロシア下院選挙における不正疑惑をきっかけに、ロシア各地で大規模な反政府デモが発生しました。この運動は、1991年のソビエト連邦崩壊後、ロシア国内で発生した最大規模の抗議活動とされています。当初は選挙不正への抗議が中心でしたが、次第にプーチン政権の退陣要求へと発展しました。

発端：下院選挙の不正疑惑

2011年12月4日に行われたロシア下院選挙では、欧州安全保障協力機構（OSCE）から派遣された監視団が、選挙の不正を指摘しました。具体的には、与党「統一ロシア」への投票を促すための行政機関の介入、一部野党の登録拒否、開票作業における票の水増し、政権批判的な報道機関へのサイバー攻撃などが報告されました。また、インターネット上では、統一ロシアに雇われた人物が複数の投票所で繰り返し投票する様子を捉えた動画が公開され、不正疑惑はさらに広がりました。

ドミトリー・メドベージェフ大統領は、選挙は公正に行われたと主張しましたが、野党側はこれを強く反発。ロシア共産党のゲンナジー・ジュガーノフ委員長は、この選挙をソ連崩壊後最も不正に満ちたものだと批判しました。また、アメリカのヒラリー・クリントン国務長官も懸念を表明し、徹底的な調査を要求しました。これらの動きを受けて、12月5日以降、野党勢力による反政府デモが呼びかけられることとなりました。

背景と目的

反政府運動の主な目的は、下院選挙における不正疑惑の解明と、選挙結果の見直しでした。しかし、デモ参加者たちの要求はそれだけに留まらず、プーチン・メドベージェフ政権の退陣、ウラジーミル・チューロフ中央選挙管理委員会委員長の解任、政治犯の釈放なども含まれました。与党統一ロシアは下院選で過半数を維持したものの議席数を大きく減らしており、プーチンによる長期強権統治に対する国民の不満が背景にあったと考えられています。プーチン自身はデモに明確な目標がないと批判しています。

推移：大規模デモの展開

12月5日夜、モスクワでボリス・ネムツォフ元第一副首相らが呼びかけた集会には数千人が参加し、プーチンの退陣を求めました。警察は5万人規模の警官を投入し、デモの鎮圧を図り、ネムツォフを含む約300人を拘束しました。同様のデモは、プーチンの出身地であるサンクトペテルブルクでも発生し、約200人が拘束されました。これらのデモは、アラブの春のデモと同様に、TwitterやFacebookを通じて拡散されました。

12月10日には、モスクワで過去20年間で最大規模となる反政府デモが開催され、主催者発表で5万人、警察発表で2万5千人が参加しました。モスクワ以外でも10以上の都市でデモが行われ、参加者は15万人規模に達したとされています。また、ウクライナの女性権利団体FEMENや、在日ロシア人も抗議活動に参加しました。デモはロシア国内だけでなく、ロンドン、パリ、プラハなどの欧州各都市でも予定されました。

12月24日には、再びロシア全土で大規模なデモが発生し、モスクワには12万人（主催者発表）が集まり、12月10日のデモを上回る規模となりました。この頃から、デモの目的は選挙不正の追及からプーチン批判へと変化しました。

2012年2月4日には3度目となる大規模デモが実施され、モスクワでは氷点下20度を下回る寒さの中、数万人が参加しました。このデモは、大統領選挙まで1ヶ月となるタイミングで行われましたが、選挙に出馬予定のロシア共産党委員長は参加しませんでした。

2月26日には、モスクワで数万人が参加し、「人間の鎖」によってクレムリンを囲むというデモが行われました。このデモは無言で行われ、公平な大統領選挙を要求するものでした。

大統領選挙後のデモと収束

2012年3月4日の大統領選挙では、プーチンが圧勝しました。しかし、OSCEや野党勢力は選挙に不正があったと主張し、3月5日に大規模なデモが発生し、再選挙を要求しました。このデモでは、550人以上が拘束されました。その後もデモは継続されましたが、参加人数は減少し、運動は徐々に収束に向かいました。

政府系のメディアは、反政府運動が欧米諸国の支援を受けていると報道し、デモ参加者が金銭を受け取っているとする番組を放送しました。これにより、3月18日のデモでは偏向報道への抗議も訴えられました。5月6日には、プーチンの大統領就任式前日に大規模デモが行われましたが、一部が暴徒化し、警察との衝突が発生。多数が拘束されました。就任式当日にもデモが発生しましたが、参加者は少なく、運動は下火になりました。

政権側の反論

プーチン大統領は、一連の抗議デモがアメリカの扇動によるものだと批判しました。メドベージェフ大統領は、デモの趣旨には賛同しないものの、選挙不正疑惑の調査を指示しました。また、プーチン大統領はデモ自体は合法的に行われる限り問題ないとしつつ、大統領選挙では投票所に監視カメラを設置して公正さを確保すると表明しました。

シンボルとスローガン

反政府運動のシンボルとして、公正さを表す白いカーネーションやリボンが用いられました。また、スローガンとしては「プーチンなきロシアを」などが使われました。

著名人による言及

アンゲラ・メルケル独連邦首相は、ロシア政府にデモ参加者への弾圧を行わないよう要請しました。また、ジョン・マケイン米上院議員は、アラブの春がプーチンに近づいていると表現しました。ガルリ・カスパロフやアレクセイ・クドリン前財務相もデモで演説を行いました。

2011年のロシア反政府運動は、選挙不正疑惑をきっかけに、長年のプーチン政権への不満が噴出した事件でした。デモは、ロシア国内にとどまらず、国際社会の注目も集めましたが、政権の強硬姿勢とメディアによる否定的な報道もあり、徐々に収束していきました。

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