2012年の日本競馬

2012年は、日本国内で近代西洋式競馬が初めて開催されてから150周年という記念すべき年にあたります。これを祝い、中央競馬を主催する日本中央競馬会（JRA）と地方競馬を統括する地方競馬全国協会（NAR）が連携し、年間を通じて多彩な記念事業を展開しました。中央競馬の全10競馬場での記念競走実施や、特定のレースにおける馬券払戻率の上乗せ、一部開催日の入場料無料化などが実施されました。また、地方競馬でも記念競走や関連イベントが催されたほか、過去のクラシック三冠馬をデザインした記念切手が発行されるなど、競馬界全体でお祝いムードに包まれました。

この年は、制度面でも重要な変化がありました。地方競馬の経営改善と活性化を支援するため、競馬法の一部が改正され、馬券の払戻率に関する規制が緩和。これにより、主催者が70%から80%の範囲内でより柔軟に払戻率を設定できるようになりました。また、中央競馬のインターネット投票システムであるIPATを利用した地方競馬の馬券発売が、当初予定より1日遅れの10月3日から開始されたことは、地方競馬にとって新たな販路拡大の機会となり、一部主催者では売上増加の効果が早速現れました。

中央競馬の開催日程も変更が見られました。東日本大震災の影響で前年の開催が中止されていた福島競馬場が4月に復旧・再開。また、関西地区の春・夏季開催順が変更されたほか、改正された競馬法に基づき1開催あたりの日数が柔軟に見直され、主要競馬場での開催日数が増加しました。競走面では、2歳新馬戦の開始時期繰り下げ、サマーシリーズへの「サマーマイル」追加、2歳牝馬限定の新設重賞「アルテミスステークス」の創設などが行われました。一方で、賞金減額や負担重量の見直しも実施されました。年間を通しての開催成績では、売上高・入場者数ともに前年を上回る結果となりました。

地方競馬全体としては、インターネット投票の普及などにより売上総額は前年をわずかに上回りましたが、入場人員は減少傾向が続きました。各主催者で様々な取り組みが行われる中、ばんえい競馬では、調整ルーム内での騎手による暴行事件が発生し、関係者が逮捕・処分されるという前代未聞の事態が起こりました。また、広島県の福山競馬では、累積赤字の解消が見込めないことから、2013年3月末での競馬事業廃止が正式に表明されるという厳しい現実も突きつけられました。一方で、南関東競馬では、中央競馬のフリー騎手に類する「騎手会所属騎手制度」が導入され、騎手活動の新たな選択肢が生まれました。

2012年には、珍しい出来事や記録達成も多数ありました。特に競馬ファンを驚かせたのは、中央競馬と地方競馬それぞれで、馬券の払戻対象となる着順で3頭が同着したことです。JRAでの3着3頭同着は史上初の出来事でした。払戻に関する記録としては、ワイドでJRA史上最高配当が2度更新されたほか、三連単でも高額払戻が相次ぎ、特に新潟競馬場ではWIN5を除く三連単で公営競技史上最高配当が記録されました。人馬の記録では、藤本匠騎手がばんえい競馬の歴代最多勝記録を更新、雑賀正光調教師が高知競馬で年間最多勝の日本記録を更新、戸崎圭太騎手が南関東競馬の年間最多勝記録を更新するなど、地方競馬で数々の金字塔が打ち立てられました。中央競馬では、幸英明騎手がJRA年間最多騎乗記録を更新、福永祐一騎手や幸英明騎手がJRA通算騎乗回数の最速記録を更新しました。また、重賞戦線では、オルフェーヴルやジェンティルドンナ、ゴールドシップといったスターホースが国内外で活躍し、特にジェンティルドンナが牝馬三冠を達成したほか、オルフェーヴルが凱旋門賞で僅差の2着となるなど、日本馬のレベルの高さを示しました。一方で、安田記念優勝馬の堀宣行調教師がインタビューを拒否し厳重注意処分を受ける、競馬開催中の落馬による騎手の大怪我、厩舎への窃盗被害など、競馬を取り巻く負の側面も露呈した一年となりました。

この年は、多くの騎手や調教師が現役を引退し、新たな道に進む関係者もいました。また、新たな免許を取得しデビューした若手や、厩務員から転身した異色の経歴を持つ合格者も現れ、競馬界の新陳代謝が進みました。年末には、JRAの青木芳之騎手が急逝されるという悲しい出来事もありました。近代競馬150周年の節目を迎え、制度変更や新たな試みが行われた一方、長年の課題や不祥事も浮き彫りとなり、明るい話題と影が交錯した一年でした。

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