2012年4月の低気圧

2012年4月の爆弾低気圧：日本を襲った記録的な嵐

2012年4月、日本列島は記録的な爆弾低気圧に見舞われました。この低気圧は、4月2日に発生し、急速に発達しながら日本海を横断、北海道を通過してオホーツク海へと進みました。4月3日から5日にかけて、九州から北海道にかけての広範囲で、暴風、大雨、高波による大きな被害が発生しました。最低中心気圧は957.8hPaを記録し、その猛威は各地に爪痕を残しました。

爆弾低気圧の発生と経過

この低気圧は、4月2日に中国の黄海沿岸部で発生した温帯低気圧が起源です。発生当初は1008hPaでしたが、黄海を東に進み、朝鮮半島を横断して日本海に入ると、4月3日の朝から急速に発達を開始しました。中心気圧は急激に低下し、3日15時には972hPaとなり、爆弾低気圧の定義を満たしました。この間、西日本を中心に暴風雨や高波が強まり、その影響は東へと拡大していきました。3日21時には964hPaまで低下しましたが、4日3時には低気圧東方の閉塞前線上に新たな中心が発生し、そちらにシフトしてさらに発達を続けました。

低気圧の中心は北海道を通過し北上、4日15時には樺太南東沖のオホーツク海上で最低気圧となる950hPaまで発達しました。その後はゆっくりと北東に進み、徐々に勢力を弱めていきました。低気圧の中心付近や南側、東側の寒冷前線上では発達した積乱雲が発生し、集中豪雨や突風をもたらしました。特に、鹿児島県奄美地方、兵庫県南東部、大阪府北部、京都府南部、高知県東部などで記録的な集中豪雨となりました。また、最大風速・最大瞬間風速の大きな地点は、低気圧の中心に近い北陸や東北の日本海側、北海道に多く見られましたが、和歌山市、山形県小国町、仙台市、明石市、日光市、八王子市などの内陸部や太平洋岸でも強風が観測されるなど、広範囲で風が吹き荒れました。75の観測地点で観測史上最大の風速を記録しました。

甚大な被害と記録

低気圧の急発達が予想された4月2日夕方には、気象庁が「台風並み」の暴風や高波に対する警戒を呼びかけ、事前の飛散防止対策や不要不急の外出を控えるよう促しました。この呼びかけは報道機関を通じて広く伝えられました。

しかし、首都圏では夕方から鉄道の運行制限や運休、航空便の欠航が相次ぎました。特に、帰宅ラッシュ時と強風のピークが重なる時間帯は交通機関の混乱が懸念されましたが、前年の東日本大震災や台風15号の教訓から、早期の「分散帰宅」が進み、混乱は比較的抑えられたとされています。東京都は企業に対して一斉帰宅の抑制を求めるという異例の措置を取り、他の県でも早期帰宅を促す動きが見られました。

この爆弾低気圧によって、国内では小屋の下敷きになる、強風にあおられて転落するなどして計5人が死亡、350人以上が負傷しました。新潟県では、延べ19万世帯が停電し、建物被害は約500件、ビニールハウス等の被害は約1000件に上りました。新潟市西区では、国道沿いの電柱約20本が倒壊するなどの被害も発生しました。東北地方でも、4日までに6県で最大30万世帯が停電し、住宅の屋根が飛ばされたり、車が横転するなどの被害が発生しました。また、韓国でも強風による物品の転倒や航空機の運休・遅延が発生し、1人が強風による転倒が原因で死亡しました。さらに、低気圧に向かって寒気が南下したため、ソウルでは4月としては1993年以来19年ぶりに雪が降りました。

爆弾低気圧発達の要因

この低気圧は、日本海を発達しながら東進し、日本に南寄りの湿った風と雨をもたらす典型的な日本海低気圧に分類されます。日本海上で発達する例は珍しくありませんが、この低気圧は2日21時から3日21時までの24時間で42hPaも低下しており、気象研究所によると、日本海低気圧としては「飛びぬけて大きな値」であり、1995年11月以来、約16年ぶりの急発達を記録しました。

気象研究所のモデル解析や再現等に基づく見解によると、この低気圧の急発達には以下の要因が考えられています。

発達初期の低気圧西側に気圧の谷（トラフ）が存在したこと。
上記の気圧の谷が、上空に行くほど気圧の低下が大きい強いものであったこと。
大気下層（高度500m付近）で、南から低気圧へ向かうエネルギーの大きい暖湿流があったこと。
低気圧西側は強い気圧の谷、東側は潜熱加熱を伴う上昇気流帯となったため、低気圧中心付近で傾圧が大きい強力な循環場が形成されたこと。
発達中期から後期の低気圧で、寒気核から暖気核へ、熱的非対称型から熱的対称型へという、熱帯低気圧の性質に近づくような構造変化が起きたこと。

これらの要因が複合的に作用し、短時間で記録的な発達を遂げたと考えられます。

関連情報

爆弾低気圧：急速に発達する低気圧の総称。
2013年4月の低気圧：2012年と同様に日本に被害をもたらした低気圧。
外部リンク：ワシントン大学大気科学研究所による対流圏界面の分布図。

今回の爆弾低気圧は、その発達過程や被害状況において、特異な事例として記憶されるべきでしょう。今後の気象変動への対策を考える上で、貴重な教訓となるはずです。

もう一度検索