2017年クルディスタン地域独立住民投票

2017年 クルディスタン地域独立住民投票

2017年 9月25日にイラクのクルディスタン地域において実施された、イラクからの分離独立の可否を問うための住民投票です。この投票の結果、9割以上が独立への賛成票を投じました。

背景

中東を中心に広い範囲に居住するクルド人は、国家を持たない最大の民族として知られています。イラクにおいては、1970年からクルド人に対する自治が認められ、同国北部にクルディスタン地域と呼ばれる自治区が設けられました。1992年にはクルディスタン自治政府（KRG）が設立され、現在に至るまで独自の議会や政党が存在しています。しかし、独立への動きは、イラク中央政府にとどまらず、自国のクルド系住民への影響を懸念する隣国のイラン、トルコ、シリアなどからも強い反対を受け続けてきました。

2014年7月1日、当時の自治政府議長（大統領）マスード・バルザニは、英国放送協会（BBC）のインタビューで、数ヶ月以内に独立の是非を問う住民投票を実施する意向を表明しました。同年6月にISILが一方的な国家樹立を宣言し、イラクが事実上分裂状態に陥ったことを理由に、クルディスタン地域で住民投票を行うのに好機であるとの見方を示しました。さらに7月3日には、自治議会に対し、独立の是非を問う住民投票の準備を進めるよう正式に要請しています。

その後、クルディスタン地域はISILとの激しい戦闘に注力し、住民投票の計画は一時保留されました。しかし、この戦いを通じてクルド人は一定の存在感を高め、民族意識の昂揚とともに独立への機運が地域全体に広がっていきました。

実施への動きと反対

2017年6月7日、バルザニ議長は同年9月25日に住民投票を実施することを改めて発表しました。投票はクルディスタン地域だけでなく、帰属を巡る争いがあるキルクークをはじめ、マフムール、シンジャール、ハーナキーン（カナキン）を含む計4箇所でも実施されることが明らかにされました。バルザニ議長によれば、この住民投票は、クルド人の独立への強い願望を国内外に示すことを主眼としていました。

2017年8月には、イラク中央政府と自治政府の間で帰属が争われるキルクークにおいても、県議会が住民投票に参加することを決定する決議を採択しました。しかし、投票に反対するトルコ外務省は、この決定を「過ち」と非難し、キルクーク本来の住民であるトルクメン人やアラブ人は決議採択をボイコットしていると指摘しました。

住民投票の実施に対し、イラク議会では少なくとも3人の議員が裁判所に対し異議申し立てを行いました。9月12日には、クルド人議員が欠席する中で、イラク議会が住民投票の延期を求める決議を採択しました。中央政府のハイダル・アル＝アバーディ首相は、投票が強行され混乱が生じた場合は軍事介入も辞さない構えを示し、9月18日にはイラク最高裁判所が、違憲審査が完了するまで投票を延期するよう命じるなど、中央政府は反対の姿勢を鮮明にしましたが、自治政府はこの決定に従いませんでした。さらに、隣国のトルコやイランだけでなく、国際連合やアメリカといった国際社会も、住民投票ではなく交渉による問題解決を自治政府に求めました。しかし、バルザニ議長は「自らの運命は自ら決定する」と述べ、国際社会の声に耳を傾けることはありませんでした。対照的に、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はクルド独立を支持する立場を表明しています。

投票実施と結果、その後の展開

投票は2017年 9月25日に実施されました。選挙権は18歳以上の男女に与えられ、有権者数は約533万8000人でした。投票は午前8時から始まり、当初午後6時までの予定でしたが、実際には午後7時まで延長されました（現地時間）。結果は投票終了から72時間以内に発表されるとされていましたが、翌26日にも明らかになる見込みでした。

最終的な投票結果は、賛成が92.73％、反対が7.27％という圧倒的な賛成多数でした。投票率は72.16％を記録しました。バルザニ議長は9月26日にテレビ演説を行い、圧倒的多数の賛成票が得られたことを宣言し、イラク中央政府に対して対話を呼びかけました。

しかし、中央政府は対話に応じることなく、自治政府への圧力を強めました。10月12日には、住民投票に関与した選挙管理委員会の主要メンバーらに対して逮捕状を請求しました。住民投票の強行に対し、イランはイラクの要請に応じ、領空の閉鎖や軍事演習の実施など、制裁措置を講じました。混乱が深まる中、10月29日、バルザニ議長は11月1日の任期満了をもって議長を退任する意向を表明し、混乱の収束を図る姿勢を見せました。そして、11月20日、イラク最高裁判所は、この住民投票は憲法違反であり、その結果は無効であるとの判決を下しました。

世論

イラク国内のクルド人は、概して独立を支持する傾向にありました。そのため、住民投票が実施されれば、賛成多数となるであろうと予測されていました。実際に、投票結果はその予測を裏付けるものとなりました。

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