2020年アブダビグランプリ

2020年アブダビグランプリ

2020年のフォーミュラ1世界選手権シーズンを締めくくる最終第17戦として、アラブ首長国連邦のヤス・マリーナ・サーキットで2020年12月13日に行われたレースです。正式名称は「Formula 1 Etihad Airways Abu Dhabi Grand Prix 2020」として開催されました。

この年は、世界的な新型コロナウイルスのパンデミックにより、F1のカレンダーも大きな影響を受けました。当初11月29日に予定されていたアブダビGPも、他の多くのレースと同様に一旦日程が白紙となりましたが、その後の調整を経て、当初の予定から2週間遅れの12月13日に開催されることになりました。

タイヤサプライヤーであるピレリは、このレースにハード（C3）、ミディアム（C4）、ソフト（C5）という比較的柔らかめのコンパウンドを用意しました。さらに、翌2021年シーズンに向けたタイヤ開発のため、各チームには翌年仕様のC4コンパウンドが1セットずつ配布され、金曜日に行われたフリー走行2回目（FP2）で最低8周の計測ラップを走行することが義務付けられました。

この最終戦では、来季からチーム名をアルピーヌに変更するルノーが、翌年からチームに復帰するフェルナンド・アロンソによるデモ走行を披露しました。アロンソが自身初のワールドチャンピオンを獲得した2005年にドライブしたルノーR25が登場し、ファンを沸かせました。

ドライバーラインアップにも注目が集まりました。前戦バーレーンGPで凄惨なクラッシュに見舞われ、両手に火傷を負ったロマン・グロージャン（ハース）は、残念ながらこの最終戦も欠場を余儀なくされました。これにより、5年間所属したハースでのキャリアは最終戦を待たずに幕を閉じました。一方、前戦サヒールGPを欠場していたルイス・ハミルトン（メルセデス）は、新型コロナウイルス感染からの回復が確認され、レースウィークの水曜日に陰性判定を受け、バーレーン、そしてUAE到着後の検査でも陰性となったことで、メルセデスに復帰することが決定しました。これに伴い、ハミルトトンの代役としてサヒールGPでメルセデスをドライブしたジョージ・ラッセルは、所属チームであるウィリアムズに戻りました。金曜午前のフリー走行1回目（FP1）では、翌年からハースに加入するFIA F2チャンピオンのミック・シューマッハがケビン・マグヌッセンに代わって、アルファロメオからはリザーブドライバーのロバート・クビサがアントニオ・ジョヴィナッツィに代わって走行しました。シューマッハにとっては、悪天候で走行できなかったアイフェルGP以来となるF1の公式セッション参加となりました。

フリー走行では、パワーユニット（PU）関連のペナルティが発生しました。前戦ウィナーのセルジオ・ペレス（レーシング・ポイント）は、使用制限数を超えるPUコンポーネント（エンジン、ターボチャージャー、MGU-H）に交換したため、またケビン・マグヌッセン（ハース）も使用制限を超えるエナジーストアとコントロールエレクトロニクスに交換したため、両者とも15グリッド以上の降格となり、決勝レースを最後尾からスタートすることが決定しました。FP1ではマックス・フェルスタッペン（レッドブル）がトップタイムを記録しましたが、ダニエル・リカルド（ルノー）は燃料ポンプのトラブルでタイムを残せませんでした。FP2ではメルセデス勢が1-2タイムを出しましたが、ラッセル車とライコネン車から白煙・炎上トラブルが発生し赤旗中断。翌年用タイヤテストやトラックリミット違反によるタイム抹消も相まって、多くのチームが予定していたロングランを十分に消化できませんでした。土曜日のFP3では、再びフェルスタッペンがトップタイムをマークし、チームメイトのアレクサンダー・アルボンが2番手につけ、レッドブルが速さを見せました。

迎えた予選は、土曜日の夕方、気温23度、路面温度29度のドライコンディションで行われました。ここでマックス・フェルスタッペンが、メルセデス勢を僅差で抑え込み、自身にとってこのシーズン初のポールポジションを獲得しました。これは通算3回目のポールポジションであり、メルセデスPUがこのシーズンすべてのレースでポールポジションを獲得するという記録を阻止しただけでなく、ヤス・マリーナ・サーキットにおいて、PUが導入された2014年以降初めてメルセデス以外のPUを搭載したマシンがポールポジションを獲得した歴史的な瞬間となりました。また、PUサプライヤーであるホンダにとっては、通算80回目のポールポジション達成となりました。ホンダPU勢は全体的に好調で、レッドブルのアルボンが4番手、アルファタウリのダニール・クビアトが7番手、ピエール・ガスリーが10番手（前戦のペナルティによりシャルル・ルクレールが降格したため9番手スタート）となり、全4台が予選トップ10に進出しました。コンストラクターズランキング3位を争うレーシング・ポイントは、ペレスが前述のPU交換ペナルティによりQ2敗退、ランス・ストロールが8番手。対するマクラーレンはランド・ノリスが5番手（予選4番手）、カルロス・サインツJr.が6番手と優位に立ちました。ルノー勢は2台ともQ2で予選を終えました。なお、フェラーリのシャルル・ルクレールは、前戦サヒールGPでの接触事故の責任を問われ、3グリッド降格ペナルティを受けています。

決勝レースは、日曜日夕方の17時10分にスタートしました。ポールポジションからスタートしたマックス・フェルスタッペンは、メルセデス勢に一度も先行を許すことなく、完璧なスタートを切りました。序盤の展開で最大のポイントとなったのは、8周目にセルジオ・ペレス（レーシング・ポイント）がマシントラブルによりコース脇にマシンを止め、リタイアしたことです。これによりセーフティカー（SC）が導入されました。このSCラン中、多くのマシンがピットストップを行いタイヤ交換を行いましたが、フェラーリの2台とダニエル・リカルド（ルノー）はピットに入らずステイアウトを選択しました。SC解除後も、フェルスタッペンは後続のメルセデス勢に大差をつけ、安定したペースで周回を重ねました。最終的に、フェルスタッペンは55周すべてをラップリーダーとして走り切り、自身初の全周ラップリーダーによるポールトゥーウィンを飾りました。一方、コンストラクターズ3位争いは最終戦で決着しました。レーシング・ポイントはペレスのリタイアが大きく響きましたが、対するマクラーレンはランド・ノリスが5位、カルロス・サインツJr.が6位に入り、見事にレーシング・ポイントを逆転し、コンストラクターズランキング3位を獲得しました。メルセデスは、この週末はMGU-Kの信頼性に懸念があったため、僅かにエンジンの出力を抑えて走行していたと言われています。ホンダPU勢は、優勝したフェルスタッペンの他、アルボンの4位、ガスリーの8位入賞により、3台が入賞を果たし、シーズンを良い形で締めくくりました。ダニエル・リカルドが55周目に記録した1分40秒926がファステストラップとなりました。

このレースは、シーズンを圧倒的な強さで駆け抜けたメルセデスとルイス・ハミルトンに対する、レッドブル・ホンダ、特にフェルスタッペンによる一矢報いる形での勝利となり、翌シーズンへの期待感を高める結果となりました。

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