2020年ナゴルノ・カラバフ停戦協定

2020年ナゴルノ・カラバフ停戦協定

2020年ナゴルノ・カラバフ停戦協定は、同年9月27日に勃発したナゴルノ・カラバフ紛争を終結させるために締結された合意です。11月9日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の仲介の下、アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領、アルメニアのニコル・パシニャン首相が署名し、モスクワ時間11月10日0時から停戦が発効しました。

背景

この停戦協定は、長年にわたるナゴルノ・カラバフを巡る紛争を一時的に終結させるためのものです。紛争は、民族的、宗教的対立を背景に、アゼルバイジャンとアルメニアの間で繰り返されてきました。

概要

停戦合意によって、アルメニアとアゼルバイジャンは捕虜と戦死者の交換を約束しました。さらに、アルメニア軍は12月1日までにナゴルノ・カラバフ周辺のアルメニア占領地域から順次撤退することになりました。また、ロシア陸軍から2000人規模の平和維持部隊が、アルメニア本土とナゴルノ・カラバフを結ぶラチン回廊沿いに5年間駐留することになりました。アルメニアは、アゼルバイジャン本土とナヒチェヴァン自治共和国間の輸送路建設を保証し、その輸送路管理はロシア連邦保安庁（FSB）国境警備隊が行うことになりました。

停戦協定項目

停戦協定は以下の9項目から構成されています。

1. 戦闘行為の停止: モスクワ時間2020年11月10日0時から、ナゴルノ・カラバフ紛争におけるすべての戦闘行為を中止します。
2. 領土返還: アルメニアは、アグダム県を2020年11月20日までにアゼルバイジャンへ返還します。
3. 平和維持部隊の展開: ナゴルノ・カラバフ境界線およびラチン回廊沿いに、ロシア陸軍の平和維持部隊1960人、装甲兵員輸送車90両、車両380両が展開されます。
4. 平和維持活動: ロシア陸軍平和維持部隊は、ナゴルノ・カラバフからのアルメニア軍撤退と並行して活動し、その駐留期間は5年間とします。当事国が駐留期間満了6か月前までに反対を通知しない限り、自動的に駐留期間が5年間延長されます。
5. 平和維持センターの設置: 紛争当事国の停戦合意の履行を監視するため、平和維持センターが設置されます。
6. 追加の領土返還: アルメニアは、キャルバジャル県を2020年11月25日まで、ラチン県を12月1日までにアゼルバイジャンに返還します。ただし、アルメニア本土とナゴルノ・カラバフ間のラチン回廊は現状のまま維持されます。今後3年以内にラチン回廊新ルートの建設計画を策定し、新ルートにはロシア陸軍の平和維持部隊が展開します。アゼルバイジャンは、ラチン回廊での人、車両、物資移動の安全を保証します。
7. 避難民の帰還: 国連難民高等弁務官事務所（UNHCR）の管理下で、避難民のナゴルノ・カラバフおよび隣接地域への帰還を促進します。
8. 捕虜交換: 捕虜、人質、その他拘束者、および遺体の交換を行います。
9. 経済・輸送制限の解除: 地域内におけるすべての経済および輸送制限を解除します。アルメニアは、アゼルバイジャン西部地域とナヒチェヴァン自治共和国間の人、車両、物資移動を保証し、ロシア連邦保安庁国境警備隊が輸送路管理を行います。当事国の合意に基づき、アゼルバイジャン本土とナヒチェヴァン自治共和国間の新しい輸送路建設が行われます。

停戦合意への反応

アルメニア: 停戦合意後、パシニャン首相は「敗北と見なさない」と発言しましたが、首都エレバンでは抗議デモが発生し、首相の辞任を求める声が上がりました。

アゼルバイジャン: アリエフ大統領は、停戦合意を「歴史的に重要なもの」とし、アルメニアの降伏と捉えました。

国際社会: 国際連合、欧州連合、テュルク評議会、イギリス、イラン、ジョージア、トルコ、パキスタン、モルドバ、ロシア連邦など、多くの国や国際機関が停戦合意を歓迎しました。各国は、紛争の平和的な解決に向けた継続的な努力を期待し、地域の安定を願う声明を発表しました。

余波

返還地域からの避難: 停戦合意に基づきアゼルバイジャンへ返還される地域では、アルメニア系住民が避難前に自宅を焼き払うなどの行為が見られました。

ロシア平和維持部隊の展開: ロシア軍は、停戦協定に基づき平和維持部隊をナゴルノ・カラバフ地域に派遣し、監視活動を開始しました。

トルコ軍の役割: アゼルバイジャン国内にロシアとトルコの合同停戦監視センターが設立されましたが、ロシアはトルコの関与を監視活動に限定し、平和維持部隊の展開には否定的な見解を示しました。

停戦違反: 2020年12月12日には停戦違反が報告され、アゼルバイジャン軍とアルメニア軍の間で戦闘が発生しました。

アゼルバイジャンによる事実上の破棄: 2023年9月19日、アゼルバイジャンは「対テロ作戦」を名目にナゴルノ・カラバフに侵攻し、事実上の降伏を強要しました。

脚注

出典: (ロシア大統領府の公式声明など)

外部リンク

ロシア大統領府の停戦協定テキスト

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