2025年シックス・ネイションズ・チャンピオンシップ

2025年シックス・ネーションズ・チャンピオンシップ

大会概要

2025年のシックス・ネーションズ・チャンピオンシップは、男子ラグビーユニオンの国際大会として、1月31日から3月15日までの期間に開催されました。この大会は、ラグビー欧州の伝統的な強豪国であるイングランド、フランス、アイルランド、イタリア、スコットランド、ウェールズの6カ国代表が参加し、互いに総当たりで戦うものです。主催はシックス・ネーションズ・ラグビーが務め、ギネス社が冠スポンサーとして「ギネス男子シックスネーションズ」とも呼ばれます。ホーム・ネーションズやファイブ・ネーションズの時代を含め、数えて131回目、そしてシックス・ネイションズに拡大されてからは26回目の開催となりました。

2025年大会からは、新たにデザインされた大会ロゴが使用されています。男子大会のシンボルカラーはオレンジで、「M6N」という略称で表現されます。

大会形式とスケジュール

大会は全5ラウンド、各チームが5試合を戦う総当たり方式で行われます。特徴的なスケジュールとして、第2節と第3節の間、そして第3節と第4節の間には2週間のブレークが設けられました。その他のラウンドは1週間の間隔で実施されました。

順位は、試合結果に応じた勝ち点の合計で決定されます。勝利には4点、引き分けには2点が与えられ、さらにボーナスポイントとして、4トライ以上獲得した場合、または7点差以内の敗戦の場合にそれぞれ1点が加算されます。これらに両方該当する場合は2点が得られます。全勝したチーム（グランドスラム達成）には、順位逆転を防ぐ目的で特別に3点のボーナスポイントが付与されます。勝ち点が並んだ場合は、得失点差、総トライ数の順で比較し、それでも決着がつかない場合は同順位となります。

大会前の注目点とチーム状況

前年、前々年と大会を連覇していたアイルランドは、3連覇に挑む立場でこの大会に臨みました。しかし、ヘッドコーチのアンディ・ファレルが2025年のブリティッシュ・アンド・アイリッシュ・ライオンズのヘッドコーチとしてオーストラリア遠征を行うため、サイモン・イースタービーが暫定ヘッドコーチを務める異例の体制となりました。また、前年までパリのオリンピック準備のために異なる会場を使用していたフランス代表は、今大会では例年通りサン＝ドニのスタッド・ド・フランスをホームグラウンドとして使用しました。スコットランド代表では、開幕前にキャプテンのシオネ・トゥイプロトゥが負傷し、共同キャプテン体制での戦いを余儀なくされました。

新しい技術とルール変更

2025年大会では、前回大会に引き続きスマートマウスガードが使用されたほか、いくつかの新たな技術やルール運用が導入、または継続されました。

タッチファインダー: キックされたボールがタッチラインを越えたかどうかを、ピッチ上のビーコンが正確に測定し、副審の判定を補助するシステムです。ボールの正確な位置を特定する「スマートボール」の進化形として導入されました。
オンマイク: レフリーの音声がテレビ中継だけでなく、会場内にもリアルタイムで流されるようになりました。これにより、観客はレフリーの判断過程や選手とのやり取りをより明確に把握できるようになりました。
レッドカードの選択肢: 意図的な危険なプレーに対するフルレッドカードとは別に、テクニカルな違反などに対する20分間の退出で済む試験的な「20分レッドカード」ルールが継続して適用されました。
ピッチクロックの短縮: コンバージョンキックの制限時間が60秒以内に、スクラムやラインアウト形成の制限時間が30秒以内へと短縮され、試合時間の遅延防止が図られました。
9番選手の保護: ラック、モール、スクラムにおいて、ボールを捌く9番（スクラムハーフ）選手のプレーを妨害する行為に対する規制が強化されました。
TMO権限の追加: テレビジョン・マッチ・オフィシャル（TMO）は、トライの判定に関わるプレーだけでなく、トライに至る直前の2フェーズ内におけるオフサイド、モール妨害、タックル完了などの違反についても、映像による確認と判定に関与する権限が拡大されました。

大会中の主な出来事と記録

ウェールズの苦闘: ウェールズ代表は大会を通じて厳しい戦いを強いられました。開幕からテストマッチでの連敗が続き、第4節終了時点で16連敗、最終的には17連敗となり、テストマッチにおけるウェールズ代表の連敗記録、そしてシックス・ネーションズ参加国における連敗記録を更新しました。この不振により、ワールドラグビーランキングも設立以来過去最低の順位に落ち込み、第2節終了後にはヘッドコーチのウォーレン・ガットランドが退任を発表するなど、チーム状況は極めて厳しいものでした。

アイルランドの安定: アイルランドはスコットランドに対する連勝を11まで伸ばし、両国間で争われる「センテナリー・クウェイク」トロフィーを8年連続で保持しました。また、イングランド、スコットランド、ウェールズの3カ国すべてに勝利し、通算14回目のトリプルクラウンを達成しました。

イングランドの復調: イングランドはスコットランドとの伝統的な一戦である「カルカッタカップ」で勝利を収め、5年ぶりにトロフィーを奪還しました。また、フッカーのジェイミー・ジョージがイングランド代表として史上7人目となるテストマッチ100キャップを達成する節目を迎えました。

フランスの躍進: フランス代表はイタリアとの対戦で、シックス・ネーションズ史上最多となる両チーム合計14トライを記録する試合を演じました。また、このイタリア戦では史上最高得点差での勝利を収めるなど、攻撃力の高さを見せつけました。ウェールズに対しては27年ぶりに無失点での勝利を達成するなど、安定した戦いを展開しました。

大会結果と優勝

2025年のシックス・ネーションズ・チャンピオンシップは、フランス代表が優勝を飾りました。

フランスはチームとしても圧倒的な攻撃力を示し、大会を通して合計30トライを記録。これは、2001年大会でイングランドが樹立した29トライというシックス・ネーションズのチーム最多トライ記録を更新するものでした。

個人およびチームの表彰

プレーヤー・オブ・ザ・チャンピオンシップ: 大会終了後、ファンの投票によって最優秀選手である「プレーヤー・オブ・ザ・チャンピオンシップ」が決定されました。候補者の中から、フランス代表のウインガー、ルイ・ビエル＝ビアレが選出されました。当時21歳だったビエル＝ビアレは、全体の65%という圧倒的な得票率を獲得しました。彼の最大の功績は、今大会で8トライを挙げ、2018年大会でジェイコブ・ストックデール（アイルランド）が記録した7トライを上回り、シックス・ネーションズにおける個人最多トライの新記録を樹立したことです。

チーム・オブ・ザ・チャンピオンシップ: 大会で最も活躍した選手たちによって構成されるベストフィフティーン、「チーム・オブ・ザ・チャンピオンシップ」も発表されました。主要な選手の活躍データには以下のようなものがありました。

ジャック・モーガン（ウェールズ、フランカー）: 合計88回のタックルを成功させ、シックス・ネーションズの大会史上最多記録を樹立しました。
ルイ・ビエル＝ビアレ（フランス、ウインガー）: 前述の通り、8トライで大会最多トライ記録を更新し、チーム・オブ・ザ・チャンピオンシップにも選ばれました。
ブレア・キングホーン（スコットランド、フルバック）: 大会を通して合計580メートル以上のゲインラインを突破し、2014年にマイク・ブラウンが記録したゲインメーターの大会記録を塗り替えました。
アントワーヌ・デュポン（フランス、スクラムハーフ）: 負傷により出場時間は限られましたが、2トライに加え、大会最多となる7つのトライアシストを記録しました。
トンマーゾ・メノンチェッロ（イタリア、センター）: 6回のターンオーバーを奪い、バックスとしては最多となる9回のタックル成功、そしてセンターとして最多の20回ディフェンダーを破る活躍を見せました。
ヒュー・ジョーンズ（スコットランド、センター）: 4トライを挙げたほか、52回のキャリー、65回のアタッキングラック成功と、センターとしては今大会最高のパフォーマンスを示しました。
* トミー・フリーマン（イングランド、ウインガー）: ルイ・ビエル＝ビアレに続き、今大会の全試合でトライを決めた3人の選手の一人となりました。

他にも、アタッキングラック成功数で貢献したアンドリュー・ポーター（アイルランド）、ハットトリックを含む5トライを挙げたダン・シーハン（アイルランド）、ディフェンダーを破った回数で目立ったウィル・スチュアート（イングランド）、ターンオーバーでブライアン・オドリスコールの記録に並んだマロ・イトジェ（イングランド）、ボールキャリーで高い確率で複数のタックルをかわしたミケール・ギヤール（フランス）、ターンオーバーとタックルで貢献したトム・カリー（イングランド）、そしてキャリーとディフェンスラックでフォワード最多を記録したグレゴリー・アルドリット（フランス）、プレースキック成功率88%を記録したフィン・スミス（スコットランド）などがベストフィフティーンに名を連ねました。

二国間トロフィー

シックス・ネイションズでは、特定の2カ国間で争われる歴史的なトロフィー（Rivalry Trophies）が複数存在します。勝利チームにはそれぞれのトロフィーが授与されます。スコットランドは参加した5試合すべてがこれらのトロフィーがかかった対戦でした。今大会では、イングランドがスコットランドからカルカッタカップを、アイルランドがイングランドからミレニアム・トロフィーを奪還しました。一方、スコットランドはイタリアからクッティッタ・カップを奪還し、ウェールズとのドッディ・ウィアーカップは保持を続けました。アイルランドはスコットランドに対するセンテナリー・クウェイクを、フランスはイタリアに対するジュゼッペ・ガリバルディ・トロフィーをそれぞれ保持しました。試合が同点で終了した場合は、その年のトロフィー勝者は不在となります。

放送と関連情報

日本国内では、WOWOWが大会全試合の放送および配信を行いました。イングランド、スコットランド、北アイルランドではITVとBBC、ウェールズではITV、BBC、S4C、アイルランドではRTEとVirgin Media、フランスではFrance TV、イタリアではSkyとRAIがそれぞれ大会を中継しました。また、大会の舞台裏に迫るドキュメンタリー「シックス・ネーションズ イン・タッチ」（2024年大会）の第2シーズンが、大会開幕直前の1月29日からNetflixで配信され、注目を集めました。

2025年大会は、新しい記録や技術導入、そして予期せぬチームの状況変化など、様々な側面でラグビーファンを魅了する大会となりました。

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