2025年ソウル西部地方法院襲撃事件

2025年ソウル西部地方法院襲撃事件

2025年ソウル西部地方法院襲撃事件は、2025年1月19日未明に大韓民国のソウル特別市にあるソウル西部地方法院で発生した大規模な暴動事件です。

内乱罪の容疑で逮捕・拘束された現職大統領、尹錫悦に対する拘束令状が発布されたことに反発した一部の支持者らが、同地方法院に強行的に侵入し、建物や設備を破壊するとともに、現場にいた警察官や報道関係者に対して暴行を働くなどの行為に及びました。

背景

この事件に先立ち、尹錫悦大統領が突如発令した非常戒厳に対し、内乱の疑いが持たれていました。検察、警察、そして高位公職者犯罪捜査処（公捜処）から成る共同捜査本部は、度重なる出頭要請を大統領に試みましたが、大統領はこれに応じませんでした。

共同捜査本部はソウル西部地方法院に対し、大統領の逮捕令状を請求しました。令状発布を受けて1月3日に最初の逮捕執行が試みられましたが、大統領警護局による妨害に遭い失敗に終わりました。その後、1月15日に行われた2回目の逮捕執行により、尹錫悦大統領は身柄を拘束されました。

逮捕後、公捜処は尹大統領の拘束を維持するため、改めて裁判所に対して拘束令状を請求しました。これに対し、担当のチャ・ウンギョン部長判事は、容疑者が証拠を隠滅する恐れがあるとして、拘束令状の発布を決定しました。

事件の展開

拘束令状発布前（2025年1月18日）

拘束令状の発布を巡る尹大統領の被疑者尋問（令状実質審査）が行われていた1月18日、ソウル西部地方法院周辺では尹大統領の支持者らによる大規模なデモが発生しました。警察の概算によれば、その数は一時的に最大4万4000人に達したとされます。極右市民団体「大韓民国を正す国民運動本部」は、主催者であるサラン第一教会の全光焄牧師の主導のもと、集会場所を光化門から同地方法院前へと移し、デモに参加しました。

大韓民国の法律では裁判所から100メートル以内の区域での集会やデモは禁止されていますが、令状実質審査が始まった午後2時頃からデモ参加者が急増し、警察が設けた規制線が破られました。警察は再三にわたり解散命令を出しましたが、集会参加者らは従わず、裁判所側はバリケードを設置する対応を取りました。一部の支持者は現場の警察官や記者に暴力を振るい、また17名の支持者が塀を乗り越えて裁判所の敷地内に不法に侵入しました。

さらに、裁判所を離れようとした公捜処の車両2台がデモ隊に取り囲まれ、窓ガラスやタイヤが破損する被害を受けました。警察はこの日、不法行為を行ったとして合計40名を現行犯逮捕しました。

国民の力所属の尹相現議員は、令状審査の最中に裁判所前を訪れ、塀を越えて逮捕された17名について「関係者と話をした」「おそらくすぐに訓戒放免になるだろう」と発言しました。翌日の襲撃事件発生後、この発言が大統領支持者らを扇動したのではないかとの疑念が生じ、国会で取り上げられました。警察庁の李昊榮職務代行は、尹議員が江南警察署長に電話をかけ、「西部地裁の連行者がいるか」「うまく処理してください」と話していた事実を明らかにしました。

18日の午後7時33分、尹錫悦大統領はソウル西部地方法院を後にし、京畿道義王市にあるソウル拘置所へ移送されました。しかし、デモ隊はその後も解散することなく、ソウル西部地方法院前の麻浦大路の全10車線を占拠してデモを継続しました。

襲撃の発生と展開（2025年1月19日未明）

1月19日の午前2時50分頃（韓国標準時）、尹大統領に対する拘束令状が発布されたとのニュースが伝わると、現場にいた100人余りの支持者が「令状棄却」と叫びながら、警察の阻止を突破して裁判所の塀を乗り越え始めました。彼らは続いて裁判所の正門やガラス窓を破壊し、午前3時21分頃には建物内部への侵入に成功しました。

建物内部に入り込んだ暴徒たちは、拘束令状を発行したチャ・ウンギョン部長判事の居場所を探し求め、令状実質審査が行われた3階や、判事たちの執務室が置かれている6階および7階まで押し寄せました。

警察は直ちに警察機動隊を投入して鎮圧活動を開始しましたが、支持者らは自発的にバリケードを構築するなどして抵抗し、警察の接近を阻もうとしました。境内に侵入した支持者らは、警察が解散を試みると消火器を撒き散らすなどの激しい抵抗を見せました。

100人以上に及んだ建物内部への侵入者のうち、一部は現行犯逮捕されましたが、全ての侵入者を即座に制止することは困難でした。敷地の外郭で警察官に対する公務執行妨害行為を行う人々を鎮静化させる作業も難航を極めました。

警察は午前4時頃、建物内の侵入者を一旦は後門の方まで追い返すことに成功しました。しかしその約10分後には、再び後門からデモ隊が侵入し、警察は押し戻されました。デモ隊は壊れたタイルなどを投げつけるなどして激しく抵抗を続けました。警察はその後、さらに400人余りの警察力を追加投入しました。

粘り強い鎮圧活動の結果、警察は午前5時34分頃に再び建物内部の侵入者を後門まで追い詰め、最終的に午前5時50分頃には完全に敷地外へ排除することに成功しました。この事件の鎮圧には、合計で1400人余りの警察力が動員され、襲撃に関連して46名が現行犯逮捕されました。

報道機関関係者への暴力

この事件が発生し、混乱が続く中で、取材のため現場に赴いていた複数の報道機関の記者たちが、暴徒化した支持者らから暴行を受ける事態が発生しました。聯合ニュースの記者は暴行や脅迫の被害に遭い、KBSの記者も攻撃され、高価な映像送出機材が破損しました。MBNやMBCの記者らも同様に暴行を受け、取材用のメモリーカードを強奪されるなどの被害を受けました。

東亜日報の報道によれば、支持者らは現場の記者の胸ぐらを掴み、カメラを奪おうとしたり、拳を振るったりしたとされます。また、記者が現場から離れた後には、支持者らが周辺を通りかかった民間人を捕まえて「記者か」と尋問し、集団で暴行を加えたケースも報じられています。

各方面の反応

事件発生後、崔相穆大統領権限代行は、今回の不法で暴力的な事態に対して深い遺憾の意を表明しました。

法院行政処長の千大燁は、事件当日に現場のソウル西部地方法院を視察した後、本事件を「法治主義に対する全面的な挑戦行為」であると厳しく非難しました。翌20日に開かれた国会法制司法委員会の質疑において、千法院行政処長は、裁判所の7階にある判事室の中で、特に拘束令状を発布した担当判事の部屋だけが意図的に破損され、内部に侵入された痕跡があったことに言及しました。このことから、デモ隊が裁判所の内部構造を事前に把握しており、拘束令状を発布した特定の判事を攻撃する意図があった可能性を示唆しました。

警察当局は、尹錫悦大統領に拘束令状を発布したチャ・ウンギョン部長判事の身辺警護を強化することを明らかにしました。

大検察庁は本事件を「法治主義と司法体系を否定する重大犯罪」と位置づけ、これに対して厳正かつ迅速に対応するよう指示を出しました。また、ソウル西部地検には本件の専従捜査チームを設置し、徹底的な捜査を行うよう指示しました。

関連項目

2019年大韓民国国会議事堂襲撃事件
2021年アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件

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