3M22 ツィルコン

3M22 ツィルコン（ロシア語: Циркон、NATOコードネーム: SS-N-33）は、ロシア連邦軍が運用する最新鋭の超音速巡航ミサイルです。2023年1月にロシア軍によって正式に実戦配備が開始されました。

このミサイルは、その開発段階から驚異的な高速性能が強調され、一時は「極超音速兵器」として広く喧伝されていました。しかし、その後の詳細な技術分析、特に実戦投入後の残骸解析を通じて、実際には超音速の速度域で巡航するミサイルであることが明らかになっています。

技術的特徴

ツィルコンの推進システムは、異なる方式を組み合わせた二段階構造を採用しています。発射後、初期段階では固体燃料ロケットブースターが作動し、ミサイルを超音速域まで一気に加速させます。このブースト段階を終えると、第二段階として液体燃料式のラムジェットエンジンに点火し、巡航速度での飛行を維持します。ラムジェットエンジンに使用される液体燃料は、デシリンやJP-10といったジェット燃料の一種であるとされています。

ミサイルの設計は、空力的に効率を高めるための揚力発生を目的とした中心体と、飛行中の機動性を向上させるための翼を備えていると考えられています。これにより、高速飛行時においても高い運動性能を発揮すると推測されています。

ロシア国防大臣セルゲイ・ショイグ氏の発言によると、ツィルコンの最大射程距離は1000キロメートルを超えるとされています。また、このミサイルは通常弾頭だけでなく、核弾頭を搭載することも可能な設計であると報じられており、その潜在的な破壊力を高めています。

ツィルコンの動力源に関しては、開発当初は「スクラムジェットエンジンを用いた極超音速巡航ミサイル」であると繰り返し紹介されてきました。しかし、2024年にウクライナでの実戦で使用され、一部が迎撃されたことで状況が変化しました。撃墜されたミサイルの残骸を専門家が詳細に解析した結果、ツィルコンがスクラムジェットではなくラムジェットエンジンによって推進されていること、そして巡航速度が極超音速ではなく超音速の範囲であることが技術的に確認されました。この事実は、ミサイルの実際の能力と初期のプロパガンダとの間に大きな乖離があったことを明確に示しています。

運用と実戦投入

ツィルコンを最初に実戦配備し、運用を開始した主要なプラットフォームの一つが、ロシア海軍の最新鋭フリゲート艦「アドミラル・ゴルシコフ」です。この艦は、ツィルコンの開発段階においても試験発射を複数回行っており、2022年5月の試験発射も担当しました。

2023年1月4日、ロシア連邦大統領ウラジーミル・プーチンは、「アドミラル・ゴルシコフ」に対し、ツィルコンを搭載した状態で大西洋やインド洋、そして地中海を含む広範な海域での任務に就くよう指示しました。これは、ツィルコンの実戦配備を国内外に広く示すとともに、その能力を誇示する狙いがあったと見られています。

ツィルコンは、2024年にウクライナ侵攻の過程で初めて実戦に投入されました。ロシア軍は、ウクライナ国内の目標に対し、このミサイルを少なくとも5発発射したことが確認されています。

ウクライナ空軍はこれらの攻撃に対し迎撃を試み、発射されたツィルコンのうち少なくとも2発を撃墜したと発表しました。撃墜されたミサイルの残骸はウクライナ側によって回収され、その後の技術的な分析の対象となりました。この残骸解析こそが、ツィルコンの実際の動力源がラムジェットであること、そして極超音速ミサイルではないことを確定させる決定的な根拠となりました。

実戦での迎撃事例は、ツィルコンが全く迎撃不可能ではないことを示唆していますが、その高速性能と機動性は依然として多くの既存防空システムにとって大きな脅威であり続けています。

3M22 ツィルコン