4フィート6インチ軌間

1372mm軌間の歴史と特徴

1372mm軌間は、鉄道のレール間隔を指す「軌間」の一つで、4フィート6インチに相当します。この軌間は、19世紀初頭のスコットランド、特にラナークシャー地方の鉄道で最初に採用されました。そのため、英語圏では「スコッチゲージ」とも呼ばれています。当時、イングランドでは4フィート8インチ（1422mm）の軌間が用いられており、鉄道会社ごとに異なる軌間が採用されていましたが、19世紀後半には、車両の相互乗り入れを促進するため、標準軌と呼ばれる統一された軌間が広まりました。1372mm軌間の鉄道は、1840年代初頭に標準軌の鉄道建設が始まるとともに、徐々にその姿を消し、1846年にはイギリスで法的に使用できなくなりました。

スコットランドにおける1372mm軌間

19世紀初頭から中期にかけて、スコットランドでは複数の旅客鉄道が1372mm軌間で建設されました。主なものとして、アードロサン・アンド・ジョンストーン鉄道、モンクランド・アンド・キルキンティロック鉄道、バロチニー鉄道、エジンバラ・アンド・ダルケイス鉄道、ガーンカーク・アンド・グラスゴー鉄道、ウィショウ・アンド・コルトネス鉄道、スラマンナン鉄道、ペイズリー・アンド・レンフルー鉄道などが挙げられます。これらの鉄道は、技術者トーマス・グレインジャーやジョン・ミラーによって建設され、後に標準軌へと改軌されました。特に、ロバートスティーブンソン・アンド・カンパニーが製造したセントロロックス号は、スコッチゲージの機関車として知られています。

スコットランドにおけるその他の軌間

スコットランドでは、1372mm軌間の他にも、1384mmや1676mmの軌間も使用されていました。ダンディー地方では、1384mm軌間のダンディー・アンド・ニュータイル鉄道、ニュータイル・アンド・クーパーアンガス鉄道、ニュータイル・アンド・グラミ鉄道が建設されました。また、1676mm軌間のダンディー・アンド・アーブロース鉄道とアーブロース・アンド・フォーファー鉄道は、トーマス・グレインジャーとジョン・ミラーによって建設され、1435mmでは狭く、2140mmでは広すぎると判断された結果、採用されました。

日本における1372mm軌間

1372mm軌間は、スコットランドでの使用がなくなった後、1882年に開業した日本の東京馬車鉄道が採用したことで、東京圏を中心に広く使用されるようになりました。この経緯から、日本では「馬車軌間」または「東京ゲージ」とも呼ばれています。東京馬車鉄道がこの軌間を採用した理由は不明ですが、ニューヨークの馬車鉄道を参考にしたという説は、ニューヨークの馬車鉄道が標準軌を採用していたことから誤りであるとされています。東京馬車鉄道は、後に東京電車鉄道となり、電気鉄道化されてからもこの軌間を維持しました。さらに、東京市街鉄道や東京電気鉄道も1372mm軌間を採用し、これら3社は合併して東京鉄道となり、その後東京市に買収されて東京市電（後の都電）として運営されました。都電への乗り入れや中古車両の購入を検討した同業他社も1372mm軌間を採用し、その中には王子電気軌道や城東電気軌道のように、後に都電に組み込まれたものもあります。

日本における1372mm軌間の現存路線と過去の路線

現在、1372mm軌間の路線は、京王電鉄（井の頭線を除く全線）、東急電鉄（世田谷線のみ）、東京都交通局（都営地下鉄新宿線と都電荒川線）、函館市企業局交通部（函館市電）によって運営されています。都市高速鉄道としては、京王電鉄と都営地下鉄新宿線が採用しています。特に京王電鉄は、創業時に都電への乗り入れを計画したことや、軌道法に基づいて敷設を開始したことなどから1372mm軌間を採用しました。都営新宿線は、京王線との相互乗り入れを考慮し、1372mm軌間を採用しました。

過去には、京浜急行電鉄（京浜電気鉄道時代の一時期）、京成電鉄、新京成電鉄、東急玉川線（玉電）、横浜市交通局（横浜市電）、西武鉄道（旧）大宮線などが1372mm軌間を採用していました。これらの路線は、時代とともに改軌や廃止が行われ、現在ではそのほとんどが姿を消しています。特に、京浜急行電鉄や京成電鉄は、都電との乗り入れを目的として一時期この軌間を採用していましたが、後に標準軌に改軌されました。

1372mm軌間の特殊性

1372mm軌間は、東京周辺で広く採用された一方で、日本国内はおろか世界的にも他の地域での使用例が非常に少ないため、「東京ゲージ」と呼ぶ専門家もいます。この特殊な軌間は、歴史的な経緯と東京の都市構造によって育まれた、日本独自の鉄道遺産とも言えるでしょう。

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