5人の天使に囲まれる聖母子

5人の天使に囲まれる聖母子

サンドロ・ボッティチェッリが25歳頃の1470年頃に制作したとされる『5人の天使に囲まれる聖母子』は、初期ルネサンスの巨匠の作品として知られています。ポプラ板にテンペラで描かれたこの絵画は、かつてはボッティチェッリの師であるフィリッポ・リッピの作品とされていましたが、その後の研究によりボッティチェッリの作品として認められました。ただし、全体的に補筆が多いため、作品の真贋判定は難しいとされています。

作品の構成と象徴

この絵画は、聖母マリアが幼子イエスを抱き、5人の天使たちに囲まれている様子を描いています。聖母マリアは地面に置かれたクッションに座っており、その姿は「謙遜の聖母」の形式を踏襲しています。マリアの表情はやや厳しく、硬い印象を与えますが、それは彼女が抱くイエスの将来の受難を予見しているかのようです。マリアとイエスが手に持つザクロは、キリストが贖おうとした原罪の象徴であり、その苦難を暗示しています。

背景には、純潔を象徴するユリを持つ若々しい天使たちが描かれています。特に注目すべきは、左手前の赤い服を着た天使が持つ王冠です。この王冠は、天国の女王としてのマリアを示唆しています。

作品の特徴と制作過程

この作品は、ボッティチェッリがフィリッポ・リッピの工房を離れて独立してから初期の作品と考えられています。構図にはまだ若干のぎこちなさが見られるものの、ボッティチェッリ特有の繊細なデッサンは随所に見て取れます。赤外線やX線を用いた調査の結果、ボッティチェッリが構図を大幅に修正したことが判明しており、特にマリアの足の位置やイエスの体勢が描き直されています。これらの修正は、ボッティチェッリがより洗練された表現を追求していたことを示唆しています。

所蔵と展示

この絵画は、1861年にフランス政府がローマのジャンピエトロ・カンパーナ侯爵のコレクションから購入し、1863年にパリのルーヴル美術館に収蔵されました。現在は、ルーヴル美術館のランス別館「時のギャラリー」にて展示されており、多くの美術愛好家を魅了しています。

作品のポイント

謙遜の聖母: マリアが地面に置かれたクッションに座る姿は、「謙遜の聖母」の形式を示しています。
象徴的なモチーフ: ザクロは原罪を、ユリは純潔を象徴しています。
天使たちの役割: 聖母を囲む天使たちは、それぞれ異なる象徴性を持っています。
修正された構図: 赤外線調査により、制作過程での構図修正が明らかになっています。

まとめ

『5人の天使に囲まれる聖母子』は、ボッティチェッリの初期の作品でありながら、その才能の片鱗を十分に感じさせる作品です。聖母マリアと幼子イエスの姿、そしてそれを囲む天使たちの描写は、見る者に深い感動を与えます。ルーヴル美術館ランス別館を訪れた際には、ぜひこの作品を鑑賞してみてください。

参考資料

ヴァンサン・ポマレッド監修・解説『ルーヴル美術館 収蔵絵画のすべて』、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2011年刊行、ISBN 978-4-7993-1048-9
中山公男・佐々木英也責任編集『NHKルーブル美術館IV ルネサンスの波動』、日本放送出版協会、1985年刊行　ISBN 4-14-008424-3

外部リンク

* ルーヴル美術館公式サイト、ボッティチェッリ『5人の天使に囲まれる聖母子』 (フランス語)

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