9K38 イグラ

9K38 イグラの概要

9K38 イグラは、ソビエト連邦が開発した近距離防空用の携帯式ミサイルシステム（MANPADS）です。NATOではSA-18 グロースと呼ばれています。このシステムは、その初期モデルである9K310 イグラ-1から進化し、双方の軍事運用において重要な役割を果たしました。

開発の背景

1968年にソビエトはストレラ・ファミリーの運用を開始し、近距離防空能力を強化していきました。しかし、携行型ミサイルの射程が短いために多くの問題が発生しました。これを克服すべく、改良モデルの開発が求められ、ソ連国防工業省は1971年に新世代のMANPADSの開発を決議しました。

開発は順調には進まず多くの技術的な課題があったため、ソ連は簡易型として9K310 イグラ-1を先に制式採用しました。完全版の9K38 イグラは1983年に制式採用され、こちらはより高い性能を実現しました。

設計と技術

9K310 イグラ-1は、改良されたストレラ-3のシーカーを搭載し、様々な技術的な改良が加えられています。使用されている9M313ミサイルは、ストレラ-3の9M36に比べていくつかの進化を遂げています。具体的には、長波長赤外線対応のセンサーを採用し、IFF（識別・友軍識別）システムの改善により同士討ちの防止が図られました。また、照準プロセスの自動化とロケットモーターの大型化により、応答時間と射程が強化されています。

9K38 イグラは、9M39ミサイルを使用し、二つの異なる波長で誘導されることから、妨害への耐性も向上しています。これにより、敵の対空ミサイルシステムに対する隙を突くことが可能です。

運用実績

9K310が最初に実戦に投入されたのは湾岸戦争でした。1991年1月17日には、イギリス空軍のトーネードIDSを撃墜する戦果を上げました。その後も、スルプスカ共和国軍による1995年のボスニア・ヘルツェゴビナ空爆時に使用され、さらに他の紛争でも運用が確認されています。

また、2004年には弾頭を大型化し射程を延ばした9K338 イグラ-Sが登場し、こちらはSA-24 グリンチとして知られています。これらのシステムは多くの東側諸国や発展途上国に供給されました。

派生型

イグラシリーズから派生した型にはいくつかのバリエーションがあります。9K310 イグラ-1の輸出仕様であるイグラ-1E、Mi-24ハインドから発射可能な9M39 イグラ-1V、艦艇用のイグラ-M、さらには9K38 イグラの発展型であるイグラ-1Mなどがあります。また、シギートという固定式の発射装置や、3M47 グブカ・システムのような複合的なシステムも存在します。

このように、9K38 イグラおよびその関連システムは、短期間で多くの戦術的な変更や改良を適用することができる柔軟性を持っており、冷戦以降も様々な軍事環境で重要な役割を担ってきました。

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