ADSL

ADSL（非対称デジタル加入者線）の概要

ADSLは、既存のアナログ電話回線（ツイストペアケーブル）を利用して高速インターネット接続を実現する技術です。1990年代にスタンフォード大学とベルコア社が開発したxDSL規格の一つで、上り（アップリンク）と下り（ダウンリンク）の通信速度が非対称であることが特徴です。一般家庭でのインターネット利用では、Web閲覧や動画視聴など下り方向のデータ量が多いことから、下り通信速度を優先的に高速化することで効率的なデータ通信を実現しています。

ADSLの技術

ADSLは、音声帯域（0.3～3.4kHz）以外の高い周波数帯域を利用することで、アナログ電話との同時利用を可能にしています。OFDMなどのデジタル変調技術や誤り訂正技術を用いることで、高速なデータ通信を実現しています。

複数の規格が存在し、G.992.1（G.dmt）やG.992.2（G.Lite）などが初期の代表的な規格です。その後、Annex A、Annex B、Annex Cなどの拡張規格や、S=1/2、フルビットローディング、ハイビットローディング、ダブルスペクトラム方式、クワドラプルスペクトラム方式といった技術革新により、通信速度は大幅に向上しました。

多くのADSL回線では、アップリンクを低周波数帯域、ダウンリンクを高周波数帯域に割り当てる周波数分割複信方式を採用しています。また、エコーキャンセラを用いてアップリンクとダウンリンクの周波数をオーバーラップさせることで、通信速度の向上と安定性の確保を図っています。

ADSLの機器

ADSL通信には、以下の機器が用いられます。

ADSLモデム: 利用者宅と交換局の双方に設置され、ADSL信号の送受信を行います。一部のモデムはIP電話機能やブロードバンドルーター機能を内蔵しています。
DSLAM: 交換局側に設置され、複数のADSLモデムからの信号を集約します。
スプリッタ: 電話回線とADSL回線を分離・結合する機器です。音声帯域を電話機に、データ帯域をADSLモデムに振り分けます。ADSLモデムに内蔵されている場合もあります。

ADSLの普及と衰退

日本では2000年代前半に急速に普及しました。月額定額料金による常時接続が可能になったことで、ダイヤルアップ接続からブロードバンド接続への移行を促進しました。しかし、2000年代後半からは、光ファイバー（FTTH）やモバイル通信の高速化により、利用者は減少していきました。

NTT東日本・西日本は2023年1月31日をもって、「フレッツ・ADSL」の提供を終了しました。他の事業者もサービス提供を終了しており、ADSLは事実上、終焉を迎えています。

ADSLのサービス提供上の問題点

ADSLには、以下の問題点がありました。

未提供地域の存在: ブロードバンド接続は法的に全域での提供が義務付けられていないため、特に過疎地ではADSLが利用できない地域がありました。
通信速度の不安定性: 既存の電話回線を流用しているため、通信速度や安定性は回線状況に大きく左右されました。距離、ノイズ、分岐接続などが通信速度の低下要因となります。
複雑な契約: アクセスライン提供事業者とインターネットサービスプロバイダとの二重契約が必要であり、契約手続きが複雑でした。
保安器との互換性: ADSLに適合しない保安器を使用すると、電話やFAXの利用中に回線が切断される可能性があります。
ISDNからの切替えに伴う問題: 日本方式のISDNとADSLは同時利用できないため、ISDNからアナログ電話への切替えが必要でした。これにより、通話サービスの低下や追加費用が発生する場合がありました。
* 光収容による問題: 伝送路の途中で光ケーブルへ変換されている場合（光収容）、ADSL通信ができない場合があります。

ADSLの歴史

1997年、長野県でADSLの接続実験が行われました。1999年には、東京めたりっく通信（現・ソフトバンク）などが商用サービスを開始しました。2001年はブロードバンド元年と呼ばれ、ADSLは急速に普及しました。しかし、その後は光ファイバーやモバイル通信の発展により、利用者が減少していきました。

まとめ

ADSLは、ブロードバンドインターネット接続技術として重要な役割を果たしましたが、光ファイバーやモバイル通信の発展により、その役割を終えつつあります。この記事で紹介したADSLの技術や歴史、問題点を理解することで、現代の通信技術の進化をより深く理解することができるでしょう。

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