AMR-WB+

AMR-WB+ (Extended Adaptive Multi-Rate Wideband) について

AMR-WB+ は、音声符号化方式である AMR-WB を拡張し、より広帯域なオーディオ信号に対応できるようにしたものです。AMR-WB の全ての機能を含みつつ、音楽などの一般的なオーディオ信号も高品質に符号化できるよう進化しています。

特徴

広帯域対応: 50Hzから最大19.2kHzの帯域幅をサポートし、より原音に近い音質を実現します。
多様なサンプリング周波数: 入出力のサンプリング周波数は16kHz, 24kHz, 32kHz, 48kHzから選択でき、内部処理のサンプリング周波数も12.8kHzから38.4kHzの間で選択可能です。
モノラル/ステレオ対応: モノラルでは5.2～36kbps、ステレオでは6.2～48kbpsのビットレートで符号化が可能です。
高い圧縮効率: 低域成分は従来の方式で符号化し、高域成分はバンド幅拡張技術を用いて効率的に符号化します。
音声・音楽両対応: 音声符号化に適したACELPアルゴリズムに加え、音楽などのオーディオ信号に適したTCXアルゴリズムも搭載しています。
標準化: 3GPP TS 26.290 で仕様が定義されており、日本国内では ARIB STD-T63-26.290 として同じ仕様が定義されています。
低遅延: 標準的な符号化遅延は 60～90ms と低く、リアルタイム通信にも適しています。

技術詳細

アルゴリズム

AMR-WB+ の核となるのは、音声符号化に強い ACELP と、音楽などの一般的なオーディオ信号に強い TCX という2つのアルゴリズムを、入力信号に応じて切り替える点です。

ACELP (Algebraic Code Excited Linear Prediction): 音声信号の符号化に優れたアルゴリズムで、AMR-WBでも使用されています。
TCX (Transform Coded Excitation): 離散コサイン変換を用いた変換符号化の一種で、音楽など一般的なオーディオ信号の符号化に適しています。


符号化の処理は以下の手順で行われます。

1. 前処理: 入力信号を低域と高域の2つの信号に分割します。
2. ACELP/TCX符号化: 低域のモノラル信号をACELPまたはTCXで符号化します。符号化アルゴリズムはクローズドループまたはオープンループで選択します。
3. 高域成分の符号化: 高域成分のスペクトルエンベロープとゲインを符号化し、復号時には低域成分から高域成分を予測復元します。
4. ステレオ符号化: ステレオ信号は、両チャネルを合成したモノラル信号と、差分を表す補助パラメータとで効率よく符号化します。

符号化の選択

入力信号の内容に応じて、ACELPとTCXのどちらのアルゴリズムを使用するかを切り替えます。ACELP は 256 サンプル単位で、TCX は 265, 512, 1024 サンプル単位で処理されます。

クローズドループ: 全ての組み合わせで符号化を行い、歪みが最も少ない組み合わせを選択します。
オープンループ: 入力信号を直接分析し、符号化アルゴリズムを決定します。

高域成分の符号化

高域成分は、スペクトルエンベロープとゲインのみを符号化し、復号時に低域成分から予測復元します。これにより、効率的な符号化を実現しています。

ステレオ符号化

ステレオ信号は、モノラル信号と補助情報を用いて効率的に符号化します。補助情報は、低域成分の超低域周波数と中域成分に分けて符号化されます。

ビットレート

AMR-WB+ は、モノラルとステレオで異なるビットレートに対応しています。

モノラル: 5.2～32 kbps
ステレオ: 6.2～48 kbps

ビットレートは、内部処理のサンプリング周波数と1フレームあたりのビット数から算出されます。

用途

AMR-WB+ は、3GPPで定義された以下の携帯電話向けサービスや、デジタル放送で使用されています。

パケットスイッチドストリーミングサービス (PSS)
マルチメディアブロードキャスト/マルチキャストサービス (MBMS)
マルチメディアメッセージングサービス (MMS)
デジタルビデオブロードキャスト-ハンドヘルド (DVB-H)

ライセンス

AMR-WB+ の特許は、ノキア、エリクソン、ボイスエージの各社が保有しており、ボイスエージ社がライセンス管理を行っています。パーソナルコンピュータ上でのモノラルデコーダー以外の利用にはライセンス料が発生します。

関連情報

標準規格: 3GPP TS 26.290, ARIB STD-T63-26.290
RTPペイロード形式: RFC 4352
参考文献:
3GPP TS 26.290
S. Bruhn et al., "AMR-WB+: A New Audio Coding Standard for 3rd Generation Mobile Audio Services"
RFC 4352
関連技術: 音声符号化, Adaptive Multi-Rate (AMR), AMR-WB, G.718, G.719, HE-AAC
外部リンク:
3GPP codecs specifications
3GPP TS 26.290
RFC 4352
* RFC 4281

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