AN/SLQ-32

AN/SLQ-32 電子戦装置：概要と進化

AN/SLQ-32は、アメリカのレイセオン社が開発した艦載電子戦装置です。敵のレーダーやミサイルからの攻撃に対し、自艦を防護することを目的としています。電子戦支援（ESM）機能と電子攻撃（ECM）機能を備えたモデルがあり、アメリカ海軍や沿岸警備隊の艦艇に広く搭載されています。

開発の経緯

1960年代、アメリカ海軍はAN/WLR-1電波探知装置を使用していました。しかし、ソ連が対艦ミサイルの開発を進めたことから、AN/WLR-3レーダー警報受信機（RWR）やAN/ULQ-6電波妨害装置（ECM）が追加されました。その後も改良が重ねられましたが、1967年のエイラート撃沈事件を契機に、既存のシステムでは対艦ミサイルの探知が遅れ、有効な対処が困難であることが判明しました。

この反省から、1972年に新型電子戦装置DPEWSの開発が承認され、ヒューズ社とレイセオン社の競合を経て、1977年にレイセオン社との契約が締結されました。そして1979年、AN/SLQ-32は初期作戦能力を獲得し、オリバー・ハザード・ペリー級フリゲートに初めて搭載されました。

設計の特徴

AN/SLQ-32は、モジュラー設計を採用しており、艦種や大きさに応じて柔軟な構成が可能です。主たるアンテナは、特徴的なタワー型構造に集中配置されており、艦橋構造の両舷に設置されます。このタワーは動揺修正機構を備えています。また、情報処理にはAN/UYK-19コンピュータが使用されています。

本装置は、対応する周波数を3つのバンドに区分しています。

バンド1：0.25〜2 GHz
バンド2：2〜10 GHz
バンド3：6〜20 GHz

ESM（電子戦支援）機能

タワー型構造には、方向探知（DF）用アンテナ群が配置されています。最上段にはバンド3、その下段にはバンド2の方向探知用アンテナが配置されています。また、タワー正面には準無指向性アンテナが配置されています。1985年には、バンド1の方向探知性能向上のための改修も行われました。

ECM（電子対抗手段）機能

ESM用アンテナ群の下方には、ECM用のアンテナが装備されることがあります。これはバンド3を対象としており、多数のホーンからなるリニアアレイ・アンテナで構成されています。送信機としては進行波管（TWT）が用いられ、高出力を実現しています。

動作モードとしては、妨害、欺瞞などがあり、目標に応じて個別に指定できます。また、SLQ-32(V)2に対してECM能力を付与するサイドキック改修も行われました。

バージョン

SLQ-32には、用途と世代に応じて様々なバージョンが存在します。

SLQ-32(V)1：RWRとしての機能に限定された初期モデル
SLQ-32(V)2：フル機能を備えた電波探知装置
SLQ-32(V)3：ECM機能を追加したモデル
SLQ-32(V)4：大型艦向けに構成サブシステムを2セット搭載したモデル
SLQ-32(V)5：サイドキック改修を施したモデル
* SLQ-32(V)6/7：SEWIP計画によって開発された最新モデル

SEWIP（水上電子戦能力向上計画）

近年、ロシアや中国の対艦ミサイル能力が向上したため、SLQ-32の陳腐化が指摘されるようになりました。これに対応するため、SEWIP計画が開始され、SLQ-32の近代化が進められています。ブロック1から始まり、ブロック2ではESM機能の強化、ブロック3ではアクティブECM機能の強化が行われました。

SEWIPは、対艦弾道ミサイル（ASBM）を含む中国の対艦ミサイル能力への対抗策として、アメリカ海軍にとって非常に重要な計画と位置づけられています。

このように、AN/SLQ-32は、時代の変化に対応しながら進化を続け、現代の海戦において重要な役割を果たしています。

もう一度検索