ATX電源

ATX電源とは

ATX電源（ATX Power Supply Unit、略称PSU）は、ATX規格に準拠したコンピュータ用電源ユニットです。デスクトップPCで最も一般的な電源であり、商用電源（AC100V/220V）をPC内部で使用可能な直流（12V/5Vなど）に変換し、各パーツへ電力を供給します。本記事では、ATX電源の基本から、派生規格であるSFX電源までを詳しく解説します。

ATX電源の概要

1995年、インテル社がAT規格の後継としてATX規格を制定しました。ATX電源はこの規格に基づいて設計され、マザーボードの取り付けねじ位置、PCケースの開口部形状、供給電圧、制御信号、コネクタなどが規定されています。ただし、供給電流値は規定されておらず、製品によって供給能力に幅があります。

初期のPCでは、CPUやGPUの消費電力が少なかったため、電源ユニットはPCケースとセットで販売されていました。しかし、Pentium 4以降、電源ユニット単体での販売が一般的になりました。

一般的なATX電源ユニットは、金属製の筐体で覆われており、背面にはAC入力ソケットがあり、内部には出力用の配線やソケットがあります。冷却ファンが1つまたは2つ搭載されており、内部の熱を外部へ排出します。内部にはスイッチング電源回路とヒートシンクがあり、過電流や過電圧に対する保護回路も備わっています。

ATX電源ユニットは、自作PCや修理用途で単体販売されており、総出力、電力変換効率、静音性、信頼性、ケーブルの取り回しやすさなど、様々な要素によって価格が異なります。安価な製品は2千円程度から、高価な製品は数万円まであり、高価格帯の製品は保証期間が長い傾向があります。

AT規格の電源との大きな違いは、シャットダウン時の動作です。AT電源はシャットダウン時に手動で電源を切る必要がありますが、ATX電源は自動で電源が切れます。

ATX電源の仕様

ATX電源には、様々な規格があります。

ATX: Pentium 4以前に主流だった規格。
ATX12V: Pentium 4以降の規格で、マザーボードに4ピンの補助電源コネクタを追加。
ATX12V Ver2.x: Intel Core 2以降の規格で、メイン電源コネクタが24ピンに変更され、SATA電源コネクタが必須化。
CFX12V: Compact Form Factor向けの12V電源コネクタ付き電源ユニット。
ATX12VO: +12Vのみを供給する規格で、省電力化とコスト削減を目的としている。
EPS12V: サーバーやワークステーション向けの規格で、複数CPUやGPUに対応。
FlexATX: 小型PC向けの電源ユニット。
LFX12V: Low Profile Form Factor向けの12V電源コネクタ付き電源ユニット。
NLX および miniNLX: NLXフォームファクタ向けの電源ユニット。
PS3: SFX電源ユニットの一種で、ATX電源の奥行きを短くしたもの。
SFX および SFX12V: 小型PC向けの電源ユニット。SFX12Vは、SFXに4ピンの＋12V補助電源コネクタを追加したもの。
TFX12V: Thin Form Factor向けの12V電源コネクタ付き電源ユニット。

ATX電源のサイズには、標準的なATXサイズ、奥行きが長いATX largeサイズ、さらに長いATX-EPSサイズがあります。

供給電圧の種類と許容誤差

ATX電源は、以下の電圧を供給します。

+5VDC, ±5%
-5VDC, ±10% (過去のISAバスなどに使用)
+12VDC, ± 5%
-12VDC, ±10%
+3.3VDC, ±5%
+5VSB, ±5%

EuP Lot6

欧州連合のErP指令により、ATX電源はオフモードと待機モードでの消費電力がそれぞれ1.00Wを超えないことが求められます。

ATX電源のコネクタ

ATX電源には、様々な出力コネクタがあります。

PCメイン電源コネクタ: マザーボードに電力を供給する20ピンまたは24ピンのコネクタ。
ATX12V 4ピンコネクタ/EPS12V 8ピンコネクタ: CPUに電力を供給するコネクタ。ハイエンドCPUではEPS12V 8ピンコネクタが使用される。
ペリフェラル4ピンコネクタ: HDDやDVDドライブなどの周辺機器に電力を供給するコネクタ。
FDD 4ピンコネクタ: フロッピーディスクドライブに使用されていた小型コネクタ。
シリアルATA電源コネクタ: SATA接続のHDDやSSDに電力を供給するコネクタ。
PCI Express電源コネクタ: PCI Express接続のグラフィックカードに電力を供給する6ピンまたは8ピンのコネクタ。
12VHPWR: PCI Express 5.0で定義されたビデオカード用のコネクタで、最大600Wの電力を供給。

選定上の留意点

ATX電源の選定には、以下の点に注意が必要です。

給電能力: 電源容量が不足するとPCの故障の原因になるため、余裕のある容量を選ぶ。
電力変換効率: 定格出力の50%付近で最も効率が良くなるため、使用するPCの消費電力に合わせて適切な容量を選ぶ。
+5VSB: シャットダウン後も待機電力を供給しているため、PC内部に触れる際は主電源をオフにするか電源プラグを抜く必要がある。
品質と安全マーク: 各国の品質・安全規格に準拠しているかを確認する。
寿命: 寿命が近づいた電源ユニットは、PCパーツを巻き添えにして故障する可能性があるため、定期的な交換を推奨。

80 PLUS

80 PLUSは、電源の電力変換効率を示す規格です。AC115V入力時において、負荷20%, 50%, 100%の各状況下で規定された変換効率を満たしていることが求められます。80PLUS認証は、電源の品質を示すものではありません。

Haswell対応問題

Haswell世代以降のCPUでは、+12Vの負荷が非常に小さい場合に+3.3V/+5Vの負荷が大きいと出力が不安定になるため、Haswell対応を謳った電源ユニットを選ぶ必要があります。

SFX電源

SFX電源は、小型PC用の電源ユニットで、ATX電源よりも小型で、-5V出力が省略されています。出力は100Wから400W程度です。一部製品には、ATX電源互換のマウンタが付属しています。

SFX電源のサイズ

SFX電源には、いくつかのサイズがあります。

SFX(A): 幅100 × 高さ50 × 奥行き125 mm
SFX(B): 幅100 × 高さ63.5 × 奥行き125 mm
SFX(C): 幅125 × 高さ63.5 × 奥行き100 mm
SFX(D): 幅100 × 高さ63.5 × 奥行き125 mm
* SFX(L): 幅125 × 高さ63.5 × 奥行き130 mm

まとめ

ATX電源はPCの重要なパーツであり、適切な製品を選ぶことでPCの安定稼働と長寿命化に繋がります。本記事を参考に、ご自身のPC環境に合ったATX電源を選んでください。

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