Adobe InDesign

Adobe InDesign：DTPソフトウェアの進化形

Adobe InDesignは、アドビ社が開発・販売するデスクトップパブリッシング（DTP）ソフトウェアです。かつては紙媒体の印刷物制作のためのページレイアウトソフトとして誕生しましたが、デジタル化の進展に伴い、HTML5コンテンツや動画、音声などを含むデジタルコンテンツ制作にも対応できるよう進化を遂げてきました。

InDesign誕生の背景

アドビ社は以前、DTPソフトウェアとしてAdobe PageMakerを販売していました。しかし、後にデファクトスタンダードとなったQuarkXPressに対抗することができませんでした。その状況を打破するため、PageMakerでは対応できないニーズに応えるべく、1999年にInDesignが開発されました。Adobe IllustratorやAdobe Photoshopとの強力な連携性を特長とし、市場投入後、大きな話題を呼びました。特に、QuarkXPressがMac OS Xへの対応に遅れたこと、InDesignがMac OS XとOpenTypeフォントに完全対応したことが、InDesignのシェア拡大に大きく貢献しました。InDesign CS3以降は、日本市場においてもデファクトスタンダードとしての地位を確立しつつあります。

InDesignは、DTPソフトウェアの先駆けとなったPageMakerと同じく、元々はAldus社の製品・プロジェクトでした。アドビ社はAldus社と合併したことで、これらの製品をリリースすることになったのです。当初、アドビ社はPageMakerとInDesignを使い分けていく方針でしたが、InDesign 2.0以降、PageMakerの新規開発は終了し、Mac OS X対応バージョンも開発されませんでした。

既存のPageMakerユーザー向けには、PageMakerファイルからInDesignへの変換機能やトレーニングソフトなどを提供する「Adobe InDesign PageMaker Edition」も販売されました。また、PageMakerからのInDesignへのアップグレードプログラムも提供され、多くのユーザーがInDesignへ移行しました。

2013年以降は、InDesignはAdobe Creative Cloudの一部として「InDesign CC」として提供されています。Creative Cloudは、複数のアプリケーションを統合したサービスで、サブスクリプション方式での利用となります。

InDesignの特長

InDesignは、他のDTPソフトウェアと比較して強力なグラフィック処理能力を備えています。多くのDTPソフトウェアでは、画像を挿入する際にはEPS形式やTIFF形式などに変換する必要がありますが、InDesignはIllustratorやPhotoshopのネイティブデータをそのまま表示・出力できます。これは、CorelDRAWなど一部のソフトウェアでしか実現できない高度な機能です。

さらに、ドラッグ＆ドロップ操作でデータをInDesignに取り込むことができ、半透明画像の取り扱いも可能です。ドロップシャドウ処理を施した文字の再編集も容易であるため、デザイナーから高い支持を得ています。

日本語版では、かつて「SING外字ソリューション」という外字作成機能がありました。Illustratorで作成した外字をInDesignに追加することが可能でしたが、OpenTypeフォントの普及により、この機能はCS5以降で削除されました。

従来、デザイン性の高いレイアウトはIllustratorで行われることが多かったのですが、IllustratorはCS5.1まではページ管理機能がなかったため、複数ページのデータ管理には手間がかかっていました。InDesignは複数ページの管理が容易であるため、作業効率の向上に貢献しました。現在ではIllustratorでも複数のページ（アートボード）を扱えるようになっているため、両ソフトを使い分ける柔軟性が高まりました。

InDesignは単体でPDFとEPUBの出力に対応しているため、オンラインパブリッシングにも適しています。特にCS5.5では、EPUB書き出し処理をC++で実装するなど、電子出版制作への対応が強化されました。

バージョンと機能強化

InDesignは、1999年のバージョン1.0のリリース以来、継続的にバージョンアップを繰り返しており、最新のバージョンでは、HEIC、HEIF、WEBP、JP2Kなどの新しいグラフィックフォーマットに対応するなど、常に最新技術を取り入れています。また、AIによる画像拡張やテキストプロンプトによる画像生成などの機能も追加され、デザインの可能性を広げています。

日本語版InDesign

日本語版InDesignは、日本の市場ニーズに合わせて大幅に改良されており、複雑な日本語の組版ルールにも対応できます。これは、QuarkXPressなど他のソフトウェアに先行した大きな強みであり、日本市場でのシェア拡大に貢献しました。日本語処理の完成度においても、InDesignはQuarkXPressを上回っています。

バージョン互換性

日本語版InDesignは、テキストエンジンに独自の処理システムを用いているため、下位バージョンとの互換性には注意が必要です。バージョンアップに伴い、テキストエンジンの変更により、同じ文書でも組版結果が異なる場合があります。下位バージョンで読み込むには、IDML形式で保存する必要がありますが、それでもレイアウトの完全な同一性は保証されません。そのため、作成者と印刷会社で使用するInDesignのバージョンを事前に確認することが重要です。多くのユーザーが複数のバージョンを併用している状況も踏まえ、アドビ社はかつてバージョンアップ後1年間は旧バージョンも使用できるようにしていました。しかし、その後も旧バージョンの利用が必要となるケースが多いため、ユーザーの中には、バージョンアップではなく、新しいライセンスを購入して旧バージョンを使い続けるというユーザーも少なくありません。

Creative Cloudへの移行に伴い、バージョン管理の状況も変化しつつありますが、依然として、複数のバージョンを使い分けているユーザーが多く存在します。これは、InDesignの高度な機能と複雑な日本語組版への対応能力の高さが、ユーザーに旧バージョンを使い続けさせる理由の一つと言えるでしょう。

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