パロアルト研究所

パロアルト研究所（PARC）

パロアルト研究所（Palo Alto Research Center、PARC）は、アメリカ合衆国カリフォルニア州パロアルトに拠点を置く研究開発企業です。1970年に、複写機大手のゼロックス社によって「アーキテクチャー・オブ・インフォメーション」の創出を目標として設立されました。その後のコンピュータサイエンスの発展に非常に大きな影響を与え、数々の画期的な発明や研究開発を行ってきました。

概要

PARCは、コンピュータサイエンスの分野で特に大きな影響を与え、マウス、Smalltalk、イーサネット、レーザープリンターなど、現代のコンピュータ技術に不可欠な技術を生み出しました。また、グラフィカル[[ユーザインタフェース]]（GUI）やユビキタスコンピューティングといった概念の研究開発も行っています。デバイス領域では、VLSI、半導体レーザー、電子ペーパーなどの研究も進めてきました。設立当初は、自由で開放的な研究環境が特徴とされていました。

2002年にはゼロックスの完全子会社となり、医療技術、「クリーン・テクノロジー」、ユーザーインターフェース設計、sensemaking、ユビキタスコンピューティング、エレクトロニクス全般、組み込みシステムや知的システムなど、幅広い分野での研究開発を行っています。

歴史

1969年、ゼロックスの主任科学者ジャック・ゴールドマンは、セントルイス・ワシントン大学の学長であった物理学者ジョージ・ペイクに、ゼロックスの2番目の研究センター設立への協力を依頼しました。ペイクは、その場所としてパロアルトを選び、ここにパロアルト研究所が建設されることとなりました。当時、ゼロックスの本社はニューヨーク州にあり、新たな研究所は地理的に離れていたため、科学者たちは比較的自由に研究を進めることができ、運営においても独自の裁量が与えられていました。

パロアルト研究所が西海岸に設立されたことは、1970年代において大きな利点となりました。近隣には、スタンフォード研究所（SRI）のオーグメンテイション研究センターがあり、DARPA、NASA、アメリカ空軍からの資金を受けて研究を行っていましたが、1970年代には縮小傾向にありました。その結果、PARCは優秀な技術者や科学者を獲得することができたのです。

PARCの本拠地は、スタンフォード・リサーチ・パークの一角、コヨーテ・ヒル・ロード3333番地に位置しており、スタンフォード大学が所有する土地にあります。そのため、スタンフォード大学の大学院生がPARCの研究プロジェクトに参加することも多く、逆にPARCの研究者がスタンフォード大学のセミナーやインターネット関連のプロジェクトに協力することもあり、両者の間で活発な交流が行われています。

初期のPARCがコンピュータ関連で大きな成功を収めた背景には、計算機科学研究室の責任者であったロバート・テイラーの卓越したリーダーシップがありました。

沿革

1970年7月1日：公式に開設（当初の所在地はポーター・ドライブ 3180番地）。
1972年：Smalltalkの最初のバージョンが利用可能になる。
1973年：Altoが動作を開始。
1973年8月：コヨーテ・ヒル・ロード3333番地に本拠の建設を開始（広さは10万平方フィート）。
1975年2月：コヨーテ・ヒル・ロード3333番地に本拠が竣工し、3月1日に開設。
1978年：研究員がワームを発明。
1979年：スティーブ・ジョブズとビル・ゲイツが見学に訪れる。
1982年：コヨーテ・ヒル通り3333で10万平方フィートの拡張が完了。
2002年1月4日：Xerox Palo Alto Research CenterからPalo Alto Research Center Incorporatedへと名称を変更し、独立した会社組織となる（ただし、ゼロックスの完全子会社）。

2002年以降、PARCは独立した子会社として、スポンサーや顧客からの資金援助を受けて研究開発を行うようになりました。2004年の時点ではゼロックスが最大の顧客でしたが、富士通との長期提携やスクリプス研究所との医療関係の共同研究なども進められていました。

2023年には、米ゼロックスは子会社のPARCを、米スタンフォード大学を母体とする研究機関SRIインターナショナルに寄贈することを発表しました。

成果

PARCは、以下のような数々の画期的な成果を上げています。

マウス
レーザープリンター
コンピュータによるビットマップ画像生成
ウィンドウとアイコンを使ったグラフィカル[[ユーザインタフェース]]（GUI）
WYSIWYG方式のテキストエディタ
Interpress（解像度に依存しないグラフィカルなページ記述言語。PostScriptの原型）
イーサネット
Smalltalkとその統合開発環境（オブジェクト指向プログラミング）
液晶ディスプレイ
光ディスク
ユビキタスコンピューティング
アスペクト指向プログラミング
IPv6
Alto

PARCにおけるコンピュータ関連の成果を統合し、スタンフォード研究所で開発されたマウスを加えたものがAltoです。Altoには、現代のパーソナルコンピュータの基本的な要素がすべて備わっていました。さらに、イーサネットを統合することで、PARC Universal Packetの開発につながり、これは今日のインターネットの原型となりました。

GUI

ゼロックスは、PARCの成果の価値を十分に理解できなかったとよく言われます。特にGUIに関しては、その技術を十分に活用できなかったと指摘されています。しかし、実際には製品化も行っており、Xerox Starを発売しました。Starは、その後のシステム設計に多大な影響を与えましたが、高価だったため、商業的には成功しませんでした。

ロバート・クリンジリーは、著書『コンピュータ帝国の興亡』の中で、当時GUIを実現するのに必要なコストを考慮すれば、商業化には時期尚早であったとし、ゼロックスの判断は必ずしも間違いではなかったと述べています。PARCに在籍していたデビッド・リドルらは、Metaphor Computer Systemsを設立し、Starのデスクトップ概念を拡張したワークステーションを開発しました。その後、IBMが同社を買収しています。

Appleとの関係

最初にGUIを搭載した製品として成功を収めたのはAppleのMacintoshですが、これはPARCの成果に大きく影響を受けたものです。ゼロックスは、Appleの公開前株式の購入と引き換えに、Appleの技術者がPARCを訪問することを許可しました。その後、AppleがマイクロソフトをGUIの「ルック・アンド・フィール」の著作権侵害で訴えた際、ゼロックスも同様の理由でAppleを訴えました。しかし、ゼロックスの訴えは期限切れとして却下されました。

著名な研究者

PARCには、多くの著名な研究者が在籍していました。その中でも、チューリング賞を受賞したバトラー・ランプソン（1992年）とアラン・ケイ（2003年）が特に有名です。また、ACMソフトウェアシステム賞を受賞した研究成果として、Altoシステム（1984年）、Smalltalk（1987年）、InterLisp（1992年）、遠隔手続き呼出し（1994年）があります。さらに2004年には、ケイ、ランプソン、ロバート・テイラー、チャック・サッカーの4人が、Altoの開発に対して全米技術アカデミーからチャールズ・スターク・ドレイパー賞を授与されました。

その他の有名人

リン・コンウェイ：カーバー・ミードと共に『超LSIシステム入門』を出版。
チャールズ・ゲシキ、ジョン・ワーノック：ページ記述言語インタープレスを開発し、PARCを離れてアドビシステムズ（現アドビ）を設立。
ロバート・メトカーフ：イーサネットの発明者。
ランディ・パウシュ：一時的にPARCに勤務。
チャールズ・シモニー：WYSIWYGワープロを開発し、後にマイクロソフトに移ってからMultiplanなどを開発。
ゲイリー・スタークウェザー：レーザープリンタの発明者。後にAppleに移ってからカラーマネージメントシステムを発明。
ビル・イングリッシュ：マウスの開発者。
バン・ジェイコブソン
ラリー・テスラー：「カット」「コピー」「ペースト」の発明者。初のGUIを備えたWYSIWYGワープロGypsyの共同開発者。

関連する有名人

* スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ：ほぼ同時期にPARCを訪問し、それぞれMacintoshとWindowsを生み出すきっかけを得ました。

PARCは、その革新的な研究と開発によって、現代のコンピュータ技術の基盤を築いただけでなく、多くの著名な研究者や技術者を輩出してきました。その歴史と成果は、今後も語り継がれていくでしょう。

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