BT-6

BT-6

BT-6は、日本の宇宙機器開発製造企業であるIHIエアロスペース（前身の石川島播磨重工業航空宇宙事業部の時代に設計・開発）が製造する、比較的小型の液体推進系エンジン、すなわちスラスターの一種です。特に、定格推力が約22ニュートンクラスに位置づけられる二液式のロケットエンジンとして知られています。このタイプのスラスターは、宇宙空間において人工衛星や探査機の精密な姿勢制御や、微細な軌道修正を行う際に不可欠な要素となります。

概要

BT-6の開発は、人工衛星が地球周回軌道や静止軌道へ投入される最終段階で用いられるアポジキックエンジンなど、主推進系の機能不全に備えるバックアップシステムとして信頼性の高い二液式スラスターを提供するという目的でスタートしました。メインエンジンのトラブル発生時にもミッションの継続を可能にする冗長性を担うべく、その開発が進められました。2001年には、実際の宇宙空間での使用を想定した厳格な燃焼試験が実施され、所定の性能と信頼性が確認されました。この評価を経て、翌年の2002年から商業製品としての販売が開始されています。市場投入後、BT-6はその性能と信頼性が認められ、様々な宇宙プロジェクトに採用されてきました。特に、世界有数の宇宙関連企業であるアメリカ合衆国のロッキード・マーティン社やオービタル・サイエンシズ社（現ノースロップ・グラマン・イノベーション・システムズ）といった主要顧客に対し、2009年6月までに合計40基以上が出荷された実績を持っています。これは、グローバルな宇宙開発コミュニティにおけるBT-6の評価と採用状況を明確に示すものです。

技術的特徴

BT-6の推進システムは、いくつかの重要な技術的特徴を有しています。推進剤を燃焼器へ供給する方式としては、高圧化したヘリウムガスなどの不活性ガスを利用して推進剤タンクから圧力をかけ、エンジンへ送り出す「圧送式サイクル」を採用しています。この方式は、ターボポンプなどの複雑な回転機械部品を持たないため、システムの構成が比較的単純であり、軽量化やシステムの信頼性向上に貢献します。使用される推進剤は、燃料と酸化剤の二種類から構成される二液式です。燃料にはヒドラジン（化学式：N₂H₄）が用いられ、酸化剤には一酸化窒素（NO）を3%添加した四酸化二窒素（化学式：N₂O₄、通常MON-3と呼ばれる）が採用されています。これらの推進剤は、宇宙機用としては比較的常温で貯蔵が可能であり、混合するだけで自然に燃焼を開始する性質（自己着火性、またはハイパーゴリック性）を持つため、別途点火装置を用意する必要がなく、宇宙空間での再着火が非常に信頼性が高いという利点があります。エンジンの主要な構成部品であるインジェクタ、すなわち推進剤を燃焼室に噴射するノズル部分は、優れた強度と軽量性が求められるため、チタン合金で作られています。また、推進剤の燃焼によって発生する超高温ガスに直接晒される燃焼器（燃焼室）は、高い融点と優れた耐熱性を持つニオブ合金が材料として選ばれており、過酷な宇宙環境での長期間の運用に耐えうる設計となっています。

主要諸元

BT-6スラスターの具体的な性能を示す主要諸元は以下の通りです。

燃焼サイクル: 圧送式サイクル
推進剤: MON-3（酸化剤） / N₂H₄（燃料）
推力: 21.5ニュートン（±0.5 Nの許容範囲）
比推力: 295秒（秒は推進剤1単位質量あたりが得られる速度変化に相当する指標で、推進効率を示す）
混合比: 0.78（±0.02の許容範囲、酸化剤の質量流量と燃料の質量流量の比）

これらの諸元は、BT-6が約22Nクラスのスラスターとして、人工衛星の精密な姿勢制御や小規模な軌道修正タスクを遂行するのに適した性能を有していることを示しています。特に比推力295秒という値は、このクラスの推進剤と圧送式サイクルを用いたエンジンとしては標準的であり、推進剤の消費効率が良好であることを意味します。

BT-6は、その堅牢な設計、信頼性の高い推進剤の組み合わせ、そして実績ある圧送式サイクルにより、人工衛星の重要なミッションにおける信頼性の向上に貢献しています。

関連項目

BT-4

外部リンク

* 22N Mon Hydrazine Thruster (IA)（英語）

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