BT-4

BT-4ロケットエンジン

BT-4は、日本のIHIエアロスペース（旧・石川島播磨重工業航空宇宙事業部）によって開発・製造されている、推力約500ニュートン級の液体燃料ロケットエンジンです。主に人工衛星の軌道制御や静止軌道への投入に使用される、高精度が求められるエンジン分野で重要な役割を果たしています。

開発の歩み

BT-4エンジンの開発は、日本の月探査機LUNAR-Aの月周回軌道投入用スラスタとして開発されたプロトタイプを基盤として始まりました。このプロトタイプの成果を踏まえ、商用衛星市場への展開を目指して改良が加えられ、2000年にBT-4として完成しました。特に、静止衛星を最終的な運用軌道である静止軌道へ投入するためのアポジキックエンジンとしての利用が想定されました。

開発されたBT-4は、世界の主要な衛星メーカーであるオービタル・サイエンシズ社（OSC）やロッキード・マーティン（LM）といった顧客に供給されることとなりました。2002年にはOSC向けに量産型の納入が開始され、その最初の実運用は2005年11月16日、欧州のアリアン5ロケットで打ち上げられたインドネシアの静止通信衛星TELKOM-2において、アポジキックエンジンとして行われました。これにより、BT-4は国際的な商用衛星市場での実績を築き上げました。

技術的な特長

BT-4は、推進剤を加圧したタンクから直接燃焼器に供給する圧送式サイクルを採用した2液式ロケットエンジンです。使用される推進剤は、燃料としてヒドラジン（N2H4）、酸化剤として微量（3%）の一酸化窒素を添加した四酸化二窒素（MON-3）の組み合わせです。この推進剤の組み合わせとエンジンの設計により、BT-4は同クラスの2液式ロケットエンジンとして世界最高水準の比推力を達成していることが大きな特長です。比推力はロケットエンジンの燃費のようなものであり、この数値が高いほど、同じ推進剤量でより大きな速度変化を得られるため、衛星の軽量化やミッションの柔軟性向上に貢献します。

なお、国際宇宙ステーション（ISS）への補給を行う日本の宇宙機である宇宙ステーション補給機（HTV）で採用された後継のエンジンHBT-5では、燃料がヒドラジンからモノメチルヒドラジン（MMH）に変更されていますが、BT-4はヒドラジンを使用しています。

主な採用実績

BT-4およびそのプロトタイプは、様々な宇宙機や衛星バスに採用されてきました。

プロトタイプ：
LUNAR-A（月探査機）
こだま（DRTS、データ中継技術衛星）
かぐや（SELENE、月周回衛星）
BT-4：
きずな（WINDS、超高速インターネット衛星）
シグナス（Orbital ATK/Northrop GrummanのISS補給船）
採用衛星バス：
オービタル・サイエンシズ社 STAR-2 Bus
ロッキード・マーチン社 A2100-AXS / A2100-M
採用ロケット：
アンタレスロケット（オプションの第3段であるBi-Propellant Third Stage (BTS)にて3基搭載）

HTVでは、実証機、2号機、4号機を除く機体でHBT-5が採用されています。

主要諸元

BT-4エンジンは、日本の宇宙技術の粋を集めた高性能エンジンとして、国内プロジェクトから国際的な商用衛星まで、幅広いミッションの成功に貢献しています。

もう一度検索