BUB3

BUB3は、ヒトにおいてBUB3遺伝子によってコードされるタンパク質です。この分子は、真核生物の細胞分裂、特に有糸分裂の正確性を保証するために極めて重要な役割を果たします。酵母のような単純な生物では必須ではありませんが、複雑な生命体である高等真核生物においては、正常な細胞増殖とゲノム安定性の維持に不可欠な存在です。

紡錘体チェックポイント（SAC）における機能

BUB3の主たる機能は、細胞周期の紡錘体チェックポイント（SAC: Spindle Assembly Checkpoint）と呼ばれる監視システムの一部として働くことです。SACは、有糸分裂の際に染色体が紡錘体の微小管に適切に結合しているかを確認し、全ての染色体が正確に整列するまで細胞周期の進行を一時停止させる機能を持っています。これにより、染色体の不均等な分配（異数性）を防ぎ、娘細胞が正確な数の染色体を受け取ることを保証します。

BUB3は、このSACシステムにおいて複数の重要な機能を担っています。

1. キネトコアへのタンパク質リクルート: 有糸分裂の前中期において、BUB3は他の主要なチェックポイントタンパク質（例: BUB1）が染色体のキネトコア（微小管が結合する領域）へ適切に局在化するのを指揮します。これはSACの活性化に不可欠なステップです。
2. 二方向型接着の保証: キネトコアに微小管が正しく結合する過程、特に染色体が両極からの微小管とバランス良く結合する二方向型接着（biorientation）の確立を支援します。BUB3を含むSACシステムは、この適切な接着が完了するまで細胞周期を停止させます。
3. 後期促進複合体（APC/C）の阻害: SACが活性化している間、BUB3は後期促進複合体/サイクロソーム（APC/C: Anaphase-Promoting Complex/Cyclosome）と呼ばれるユビキチンリガーゼの活性を抑制します。APC/Cの活性化は後期への移行を引き起こしますが、BUB3を含むSAC複合体はAPC/Cの活性化因子であるCdc20との相互作用を通じてAPC/Cの作用をブロックし、時期尚早な後期への突入を防ぎます。
4. セキュリンとサイクリンBの安定化: APC/Cの阻害により、姉妹染色分体の分離を調節するセキュリンや、細胞周期進行に関わるサイクリンBといったタンパク質の分解が防がれます。セキュリンはセパラーゼという酵素の働きを阻害することで姉妹染色分体を繋ぐコヒーシン複合体を維持します。これらのタンパク質が安定化されることで、全ての染色体が正しく整列するまでの間、「待て」のシグナルが維持されます。

BUB3は、特に同じくSAC構成要素であるBubR1（Mad3）と恒常的に結合しており、この複合体としてSACの阻害機能に中心的に関与します。キネトコアへの微小管の接着が全て完了し、SACのシグナルが消滅すると、APC/Cの阻害が解除され、細胞は後期へと移行し染色体分離が開始されます。

構造的特徴

BUB3タンパク質の結晶構造解析から、その分子が特徴的なWD40リピートを複数持ち、全体として7枚のブレードからなるβプロペラ構造を形成していることが明らかになっています。それぞれのブレードは4本の逆平行βシートで構成されており、これらのブレードが中心に開いたチャネルの周囲に配置された形状をとっています。このβプロペラ構造は、多くのタンパク質において他の分子との相互作用面に利用されることが知られています。

特に、BUB3のβプロペラ構造における特定の部位、例えばブレード1や3に存在する保存されたトリプトファン残基、およびブレード5の保存されたWAVE配列は、SACの形成や活性化に必要な他のタンパク質との結合において重要な役割を果たしていることが、変異解析などから示唆されています。

BUB3は、同じWD40タンパク質ファミリーに属するRae1（mRNAの核外搬出に関わるタンパク質）と高い配列類似性を示します。両タンパク質はGLEBSモチーフを持つタンパク質に結合する能力を持ち、特にSAC構成要素であるBub1との相互作用様式においても類似性が示唆されています。しかし、BUB3はMad3やBub1といったSAC関連タンパク質に比較的特異的に結合するのに対し、Rae1は核膜孔複合体の構成要素やBub1など、より多様なパートナーと結合するという違いが見られます。

相互作用

BUB3はSACシステムを構築し機能させるために、多くのタンパク質と相互作用します。主要な相互作用パートナーとして以下が知られています。

BUB1B (BubR1/Mad3): BUB3と常に結合し、SACの機能に不可欠な複合体を形成します。
BUB1: BUB3がキネトコアへ局在化を指揮する重要なパートナーです。
Mad1: BUB1と共に複合体を形成し、BUB3もこの複合体と相互作用します。
Mad2: Mad3/BubR1との相互作用に関与し、その結合を調節する役割も持ちます。
Cdc20: APC/Cの活性化因子であり、BUB3はBubR1/Mad3と共にCdc20を捕捉・阻害することでAPC/Cの活性化を防ぎます。
HDAC1, HDAC2: ヒストン脱アセチル化酵素であり、これらのタンパク質とも相互作用することが報告されています。

これらの相互作用を通じて、BUB3は紡錘体チェックポイントの複雑なネットワークの中枢として機能し、染色体の適切な分離とゲノムの正確な伝達を保証する上で不可欠な役割を担っています。BUB3の機能不全は染色体異常を引き起こし、細胞死やがんなどの疾患につながる可能性があります。

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