BUB1B

BUB1B (BubR1)

BUB1Bは、別名BubR1としても知られるプロテインキナーゼ酵素です。ヒトにおいては、BUB1B遺伝子からの情報に基づいて合成されます。このタンパク質の主要な役割は、細胞が増殖・分裂する過程、特に有糸分裂において、細胞の持つ染色体が娘細胞へと正確に分配されるように調整することにあります。

機能

BUB1Bは、細胞分裂の制御機構である「紡錘体チェックポイント（SAC）」の重要な構成要素として機能します。このタンパク質は、分裂期の細胞で染色体上のキネトコアと呼ばれる構造体に結合します。そして、細胞が分裂の後期へと進むためのシグナルを出す後期促進複合体（APC/C）の働きを一時的に抑えることで、細胞周期の進行を遅らせます。これにより、すべての染色体が紡錘体微小管に適切に接続され、整列するまでの時間を確保します。この厳密な制御によって、染色体数が異常な細胞（異数性細胞）が生まれるのを防ぎ、細胞の遺伝的な安定性を保ちます。SAC機能の障害は、多くの種類のがんで観察されることが報告されています。

臨床的意義

BubR1は、がんや老化、染色体数のモザイク異常が生じる多彩性異数性モザイク（MVA）症候群、さらには心疾患など、多様な生物学的プロセスや病態への関与が示唆されています。

加齢との関連では、ヒトを含む複数の種で、BubR1タンパク質の細胞内レベルが年齢とともに低下する傾向が示されています。マウスを用いた研究からは、BubR1の発現量を実験的に増加させると、その個体の健康寿命が延びるという興味深い結果が得られています。逆に、若いマウスでBubR1の量が減少すると、老化が加速し、以下のような様々な加齢関連疾患が早期に現れることが明らかになっています。

心機能不全
創傷治癒の遅延
白内障
脊柱後弯（せむし）
脂肪の喪失や筋肉の萎縮（悪液質）
腫瘍形成

これらの知見は、BubR1が単に細胞分裂の正確性維持だけでなく、全身の生理機能や老化の速度にも深く関わっている可能性を示唆しています。

DNA修復との関連

化学療法と放射線療法を組み合わせる化学放射線療法（CRT）は、がん細胞にDNA損傷を与えることで治療効果を発揮します。しかし、CRT後に再発した膀胱がん患者の腫瘍組織を調べた研究では、治療前と比較してBUB1Bの発現が増加していることが報告されました。この発現の増加は、DNA損傷を修復する際に利用される「代替非相同末端結合（A-NHEJ）」という、ややエラーを生じやすい修復経路を促進する可能性が考えられています。その結果、CRTによって生じたDNAの損傷が不正確に修復され、新たな遺伝子変異が蓄積することで、腫瘍細胞がCRTに対して抵抗性を獲得する一因となる可能性が指摘されています。

相互作用因子

BUB1Bは、以下のような様々なタンパク質と物理的に相互作用することが知られています。

AP2B1
BRCA2
BUB3
CDC20
MAD2L1
CBP
SIRT2
PLK1
PP2A-B56
HDAC1
HDAC2/HDAC3
SNCG

結び

このように、BUB1B（BubR1）は細胞分裂時の染色体分配の精度を維持する中心的機能に加え、異数性の抑制、さらにはがんや老化といった複雑な生命現象にも関わる多面的なタンパク質であり、その重要性は生命科学の多くの分野で注目されています。

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