Bendix G-15

Bendix G-15：黎明期の真空管式コンピュータ

Bendix G-15は、アメリカの航空機部品メーカーであるベンディックス社が1956年に発表した真空管式コンピュータです。科学技術計算や工業分野での利用を目的として開発され、その革新的なアーキテクチャと設計思想は、後のコンピュータ開発に大きな影響を与えました。

ハードウェアの特徴

G-15は、約1.5メートル四方のサイズで、重量は約438キログラム。当時のコンピュータとしては比較的小型でありながら、その性能は非常に高く評価されました。基本システムの価格は約49,500ドル、平均的な構成では約60,000ドルと高価でしたが、月額1,485ドルでのレンタルも可能でした。

アーキテクチャ

G-15の最も特徴的な点は、磁気ドラムメモリを利用した「recirculating delay line memory（再生循環レジスタ）」と呼ばれるアーキテクチャです。これは、アラン・チューリングが関与したACEの影響を受けたもので、以下のような仕組みで動作します。

磁性体が塗布された円筒（磁気ドラム）の表面にトラックが並んでいる。
レジスタとして使用するトラックには、読出しヘッドと書込みヘッドが存在する。
ビット列を読み出し、必要であれば加工して即座に書き戻すことで、データが循環する。

この仕組みにより、任意の長さの「遅延線」を生成することが可能となり、高速なアクセスを可能にする短い遅延線も備えていました。また、アキュムレータも磁気ドラムメモリ上に実装することで、真空管の数を減らし、コスト削減にも貢献しています。

ただし、G-15は停止するとレジスタの内容を保持できませんでした。工場で設定されたタイミング補正用の2つのトラックのみが内容を保持し、バックアップとして機能しました。

その他ハードウェア

180個の真空管と300個のゲルマニウムダイオードを使用。
磁気ドラムメモリの容量は29ビットワードで2,160ワード。
平均メモリアクセス時間は14.5ミリ秒だが、プログラムの最適化で大幅に短縮可能。
加算時間は270マイクロ秒、単精度乗算は2,439マイクロ秒、倍精度乗算は16,700マイクロ秒。

周辺機器

G-15は、様々な周辺機器を接続することが可能でした。主なものとして、以下のようなものがあります。

タイプライター：出力用。数字は毎秒10文字、英数字は毎秒3文字印字可能。
高速光電式紙テープ：プログラムの読み込みやデータ保存に使用。
紙テープさん孔装置：高速タイプ(毎秒60文字)や標準タイプ(毎秒17文字)がある。
テレタイプ端末：AN-1オプションで利用可能。
パンチカード：CA-1/CA-2オプションで利用可能。
ペンプロッター：PA-3オプションで利用可能。
磁気テープ装置：MTA-2オプションで最大4台接続可能。
微分解析機：DA-1オプションで微分方程式を解くのに利用。

ソフトウェア

G-15のソフトウェアには、以下のような特徴があります。

最小アクセスコーディング：逐次型メモリの待ち時間問題を解決するため、各命令に次の命令のアドレスを付与。
アセンブリ言語：1950年代後半に登場。
スーパーバイザープログラム、Intercom(浮動小数点インタプリタ)、ALGOL 58 などのプログラミング言語も存在。
浮動小数点数はソフトウェアで実装。

G-15の意義と影響

G-15は、そのインタラクティブなIntercomシステムから、世界初のパーソナルコンピュータとみなされることもあります。低コストで専任操作員が不要なため、ユーザーがマシンを占有して使用することができました。400台以上が製造され、アメリカ国内だけでなく、海外にも輸出されました。特に土木工学分野で広く利用されました。

日本への影響

日本では、1956年に伊藤忠商事が販売代理店となり、G-15の取り扱いを開始しました。国鉄鉄道技術研究所に導入され、マルスシステムのアーキテクチャに影響を与えたほか、三菱電機もG-15を輸入し、後のコンピュータ開発の基礎としました。

現在、東京理科大学近代科学資料館にはG-15が展示されており、国内で常設展示されている唯一の真空管コンピュータです。

G-15の開発者

G-15の主任設計者であるハリー・ハスキーは、かつてアラン・チューリングの下でACEの開発に従事し、SWACの開発経験も持つ人物です。また、G-15プロジェクトに関わった技術者の一人であるデービッド・エバンスは、後にコンピュータグラフィックス分野で大きな業績を残し、アイバン・サザランドと共にエバンス・アンド・サザランドを設立しました。

参考文献

星野力(著)『甦るチューリング』NTT出版(2002年)、ISBN 4-7571-0079-5
情報処理学会歴史特別委員会(編)『日本のコンピュータ発達史』オーム社(1998年)、ISBN 4-274-07864-7

外部リンク

Bendix G-15 Computer 東京理科大学近代科学資料館
The Bendix G-15
Bendix G15 computer
Another G-15 reference
Bendix G-15 documentation
内部の写真
Describes Harry Huskey's involvement with ACE

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