エバンス・アンド・サザランド

エバンス・アンド・サザランド（E&S）の概要

エバンス・アンド・サザランド（Evans & Sutherland Computer Corporation、略称E&S）は、1968年に設立されたアメリカのコンピュータグラフィックス（CG）システム開発企業です。ユタ州ソルトレイクシティに拠点を置き、フライトシミュレータ、コンピュータ支援設計（CAD）、製造（CAM）向けのリアルタイム3次元（3D）CGシステムの開発でその名を馳せました。その後、全天周映像などの高品質な大型ディスプレイシステムでも知られるようになります。

創業と初期の苦難

E&Sは、ユタ大学コンピュータサイエンス学科の教授であったデビッド・エバンスと、アイバン・サザランドによって設立されました。エバンスは学科の創設者であり、サザランドは「スケッチパッド」の開発者として知られています。彼らは大学での研究を商業化することを目的とし、CG技術を実用化しようとしました。しかし、創業当初は資金繰りに苦しみ、エバンス自身の借金で操業資金を賄うこともありました。

1969年には最初の製品である高級ディスプレイシステムLDS-1を発売しますが、これは数台しか売れず、経営は赤字続きでした。しかし、このLDS-1は世界初の商用3DCGシステムとして、E&Sの技術力を示す上で重要な役割を果たしました。

1970年代：フライトシミュレータの成功

1970年代に入ると、E&SはLDSシリーズの後継機を開発し、さらにゼネラル・エレクトリック社のCG技術者を迎え入れ、パイロット訓練用の模擬視界装置の開発に注力します。その結果、民間航空会社向けのNOVOVIEWや、より高性能な画像生成器を持つCTシリーズを完成させました。

英国のフライトシミュレータ販売会社Redifonとの提携により、NOVOVIEWの安定供給が可能となり、E&Sの業績は向上。1974年にはついに黒字化を達成しました。第一次石油危機による燃料費高騰も追い風となり、実機訓練の代替としてE&Sのフライトシミュレータは広く普及しました。世界の民間航空会社のパイロットの多くがE&Sのシミュレータで訓練を積んだとされています。また、E&SはCAD/CAM向けのグラフィック装置開発にも力を入れ、PSシリーズを発売しました。

この時期の成功により、E&Sは従業員数と売上を大幅に拡大し、1978年には株式を上場しました。創業者の一人であるエバンスは、会社の成長とともに大学の職務よりもE&Sの業務に時間を割くようになり、経営に軸足を移しました。一方、もう一人の創業者であるサザランドは、1974年に大学とE&Sの役職を辞任し、取締役会の一員としてのみ名前を残しました。

1980年代：軍事需要と多角化

1980年代、E&Sは軍事用フライトシミュレータの製造にも成功し、アメリカ軍を顧客としました。レーガン政権下での軍事支出拡大も手伝い、E&Sは更なる成長を遂げました。

また、E&Sは集積回路の製造技術を獲得し、自社製回路によるCG描画能力の向上を実現しました。分子情報分析に3DCGを導入し、分子構造の可視化技術を確立するなど、事業の多角化にも取り組みました。さらに、ディジタル・イクイップメント・コーポレーション（DEC）と協業し、高速グラフィックシステムを備えたワークステーションを開発しました。

この時期には、映画『トロン』や『スタートレックII カーンの逆襲』の特殊撮影技術にもE&Sの技術が活用されました。さらに、プラネタリウム分野にも参入し、デジタルプラネタリウム「デジスター」を開発しました。初期には課題もありましたが、改良を重ねることで、プラネタリウムの更新機や新設機として広く採用されるようになりました。

1980年代末には、従業員数1400人以上、年間売上1億3860万ドルを超える企業へと成長しました。

1990年代：変革と苦戦

1990年代に入ると、E&Sはスーパーコンピュータ事業への参入を試みましたが、競争激化により撤退を余儀なくされました。また、冷戦終結とソ連崩壊による軍事支出の削減により、業績は縮小傾向に転じました。フライトシミュレータの独占的な供給契約も打ち切られ、経営は困難を極めます。

経営陣は交代し、E&Sは中核事業に経営資源を集中させる戦略に転換します。CAD事業の売却、仮想現実アトラクションの開発、PC用グラフィックスチップセットの開発など、新たな事業展開も行われました。しかし、国内市場では苦戦が続き、海外市場での売上が中心となります。

2000年代以降：再編と新たな展開

2000年代に入ると、E&Sは再び苦境に陥ります。PCの急速な普及による市場構造の変化に対応できず、売上は大幅に減少、赤字が続きました。プラネタリウム分野に注力する一方で、初期からの主力事業であったシミュレーション事業を売却し、企業規模は縮小しました。

2006年には、プラネタリウム業界のライバルであったスピッツ社を買収し、プラネタリウム分野における世界最大の顧客基盤を持つ企業となりました。2020年にはElevate Entertainment社に買収され、Cosm社の子会社として、全天周映像システムなどの提供を続けています。

主な製品

ディスプレイシステム:
LDS-1: 世界初の商用3DCGシステム。線で描画するランダムスキャン方式を採用。
LDS-2: ミニコンピュータで動作するようになり、ラスター・スキャン方式を採用。
PSシリーズ: バッファを導入し、高速な描画を実現。
ESVシリーズ: CGワークステーション。

模擬視界装置:
NOVOVIEW: 民間航空会社向けフライトシミュレータ用模擬視界装置。
CTシリーズ: 軍用高性能模擬視界装置。
ESIGシリーズ: SPシリーズとCTシリーズを統合した模擬視界装置。

CAD:
ROMULUS: シェープデータ社が開発したCADパッケージ。
CDRS: E&Sが独自に開発したCADシステム。

プラネタリウム・全天周映像:
デジスター: 世界初のデジタルプラネタリウム。
DomeX: ドーム型LEDディスプレイによる全天周映像システム。

アトラクション:
Virtual Adventures: アイワークスと共同開発した仮想現実映像システム。
Virtual Hang Glider: ハンググライダーシミュレータ。

著名な在籍者

E&Sには、CGやIT業界に多大な影響を与えた人物が多数在籍していました。
ジョン・ワーノック（アドビ共同創業者）
ジム・クラーク（シリコングラフィックス、ネットスケープコミュニケーションズ創業者）
ジェームズ・カジヤ（レンダリングの先駆者）
ゲーリー・ディモス（CGIの大家）

まとめ

E&Sは、CG技術の黎明期から常に最先端を走り続けてきた企業です。フライトシミュレータやCADシステム、プラネタリウムなど、様々な分野で革新的な製品を開発し、社会に大きな影響を与えてきました。その歴史は、技術革新と市場変化への対応の難しさを物語るとともに、未来への可能性を示唆しています。

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