Copland

コープランド・プロジェクト：幻の次世代Mac OS

コープランド・プロジェクトは、1994年にAppleが発表したMacintosh用次世代オペレーティングシステムの開発コードネームです。System 8（後のMac OS 8とは異なる）として1995年に発売が予定されていましたが、開発は難航し、1996年に中止となりました。このプロジェクトは、当時のAppleが抱えていたOSの課題と、次世代OSへの期待、そして開発の困難さを象徴する出来事でした。

開発の背景

1980年代後半、Mac OSは初期の設計から限界を迎えつつありました。メモリ保護の欠如、プリエンプティブマルチタスク機構の不在、サードパーティ製機能拡張による不安定化など、問題が山積していました。PowerPC搭載モデルが登場しても、OSコアに残る68K時代のコードが足かせとなり、PowerPCの性能を十分に引き出せない状況でした。

同時期、NeXTSTEP、Windows NT、Solarisといった、メモリ保護やプリエンプティブマルチタスクを備えた堅牢な次世代OSが台頭し、市場を席巻し始めていました。こうした状況を受け、Appleは次世代OSの開発を急務としました。

1988年3月にAppleの技術マネージャー達が今後のMac OSの開発計画を策定した。カラー化の様な短期的に達成が可能なアイデアを青いインデックスカードに、マルチタスクといった中長期的な目標をピンクのインデックスカードに、そして実現が難しそうな物を赤色のインデックスカードにまとめた。既存のOSを改修するBlueチームと、新OSを開発するPinkチームとの2つのプロジェクトに分かれてそれぞれ開発が行われた。当初は1990年から1991年にかけてBlueチームが既存のOSのアップデートをリリースし、93年頃にPinkチームが新OSをリリースする予定であった。

コープランドの概要

1994年、デビッド・ネーゲル上級副社長を中心に、コープランド計画が正式にスタートしました。発表された計画では、以下のような新要素が約束されていました。

Nukernelマイクロカーネルによる先進的なメモリ管理
完全なプリエンプティブマルチタスク
先進的なオブジェクト指向環境
新しいルックアンドフィール
旧Systemとの完全な上位互換性

テーマファイルを切り替えるだけで外観を大胆に変えることができるアピアランス・マネージャも搭載される予定でした。また、Newtonテクノロジーの融合やOpenDocによるドキュメント環境の改革も目指されました。

1995年5月のWWDCでは、1995年中に開発版が配布され、1996年初旬に正式版がリリースされると発表されました。しかし、これらの計画は実現しませんでした。

プロジェクトの中止

1996年、ギル・アメリオがCEOに就任し、開発現場の立て直しを図りました。しかし、コープランドは各モジュールがバラバラに開発されている状態で、OSとして組み上げられない状態でした。7月には、エレン・ハンコックがCTOとして迎えられ、プロジェクトの収拾に当たりましたが、コープランドの完成は不可能と判断されました。また、OpenDoc計画も中止となりました。

迷走の原因

コープランドの開発が迷走した原因は、多岐にわたります。

Apple経営上層部の混乱
既存のToolbox APIが68000に強く依存し、上位互換性の維持が困難
開発チーム間の連携不足
営業サイドからの過大な要求による計画の肥大化
メモリ保護やプリエンプティブマルチタスクを搭載したWindows NTの登場
TaligentやKaleidaといった別OSの開発計画との並行
NewtonやGeneral Magicなど、別OS/デバイスの開発計画との並行

その後

コープランド計画の中止後、予定されていた機能は「Tempo」「Allegro」「Sonata」として段階的にリリースされることになりました。そして、1997年1月には、「Mac OS」という呼称が初めて公式に採用されたSystem 7.6が発売されました。コープランドの技術の一部は、Mac OS 8、9、そして現在のmacOSにも引き継がれています。ファイルシステムのHFS+や、アピアランス・マネージャ、キーチェーンなどがその例です。

コープランド計画は失敗に終わりましたが、次世代OSへの挑戦は、その後のMac OS Xの開発へと繋がりました。AppleはNeXTを買収し、NeXTSTEPをベースとしたRhapsody計画を開始し、それがMac OS Xへと発展しました。

コープランド・プロジェクトは、Appleの歴史における苦い経験でしたが、そこから得られた教訓は、その後のOS開発に大きく貢献したと言えるでしょう。

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