D60形ディジタル交換機
D60形デジタル交換機
D60形デジタル交換機は、日本電信電話公社（現NTT）と日本電気、富士通、日立製作所、沖電気の4社が共同で開発した、INSネット（ISDN）の中継用途に特化したデジタル交換機です。
概要
1982年、東京の大手町局で最初のサービスが開始され、その後、市外回線のデジタル化に向けて中継交換機として急速に普及しました。信頼性の高さから、他社との接続点となる関門交換機などでは、1990年代後半になっても改良型の改D60形が導入されました。既存設備の増設も2000年代に入っても行われていましたが、2015年に新ノード（NS-8000）への集約に伴い、全てのD60形交換機が撤去されました。
技術
通話路スイッチ
D60形交換機の通話路スイッチは、16個の時間スイッチと、それぞれ16本の入出力を備えた空間スイッチを組み合わせることで、1024多重のスイッチ網を構成しています。この設計により、ハードウェアの規模と設置に必要なフロアスペースが大幅に縮小されました。
ハードウェア
D60形交換機は、複数の32[[ビット]]プロセッサ、交換機特有の周辺装置、そして操作者がシステムと対話するための端末から構成されています。交換機自体は、ラックに収められたプロセッサや周辺装置で構成されています。
プロセッサ
D60形交換機は、電話交換に特化した独自の命令セットを持つプロセッサを採用しています。このプロセッサは、IBMの大型汎用機の影響を強く受けており、1台の交換機に少なくとも2つ以上のプロセッサが搭載されたマルチプロセッサ構成となっています。通常は8つ以上のプロセッサが搭載され、各プロセッサは役割に応じて異なる名称が付けられていますが、ハードウェア自体はほぼ同じであり、実行されるソフトウェアによって異なる機能を発揮します。
CNP (Connection Control Processor)
CNPは、回線交換動作を行うプログラムを格納・実行するプロセッサで、各種電話サービスの制御をソフトウェア的に行います。交換機の処理負荷に応じて、稼働中に増設や減設が可能です。CNPは「コンプ」と呼ばれることもあります。
MCP (Master Control Processor)
MCPは、D60形交換機全体の起動や、各プロセッサ間の連携を統括するプロセッサです。通常、1台のD60形交換機には2つのMCPが搭載されており、1つがMCPとして動作し、もう1つはCNPとして動作します。このCNPは、MCPのホットスタンバイとしても機能します。また、MCPも余力をCNPの機能に割り当てています。MCPとCNPはハードウェア的には同じであり、ラック上の特定の場所に設置することで、MCPとして動作します。
その他のプロセッサ
CNP、MCP以外にも、4～5種類のプロセッサが実装されています。
主記憶（メモリ）
各プロセッサは、1ワード32[[ビット]]のメモリを16Mワード持っています。アドレス空間は24[[ビット]]ですが、各プロセッサが自由に使えるわけではなく、一部は共有メモリ（CM：Common Memory）として使用され、残りの各プロセッサ固有の領域は個別メモリ（IM：Individual Memory）として使用されます。
付帯装置
加入者階梯交換機として使用されるD60形交換機には、加入者回路に対応するトランクと呼ばれる装置が、回線数に応じて接続されています。
端末
通常、D60形交換機には、2セットの端末と1つのコンソール（CPUの起動・停止やメモリ書き換えなどのデバッグ機能を持つハードウェア）が接続されています。初期型の端末はプリンタ、キーボード、紙テープリーダで構成されていましたが、後期型ではプリンタ、CRTディスプレイ、キーボード、FDDで構成されていました。現在では、専用端末の確保が難しいため、汎用的なパーソナルコンピュータに置き換えられています。
ソフトウェア
FB（機能ブロック）
NTTが策定したD100B規格に基づいて、ソフトウェアはFB（機能ブロック）と呼ばれる単位に分割して開発されました。FBとは、ある程度まとまった機能を持つように分割されたソフトウェアの単位です。このFB分割の手法は、D100B規格から独立した21世紀においても継続されており、例えばFOMA用のNTTドコモ交換機のソフトウェア開発にも用いられています。FBは、機能単位であると同時に開発単位でもあり、NTTの協力会社が分担して開発を担当しました。FBの規模は様々で、小さなものでは1000行程度、大きなものでは10万行にもなります。1台のD60形交換機には、100～200個程度のFBが実装されていました。
各プロセッサに実装されるFBの構成は、プロセッサの機能によって異なり、交換機が中継系か加入者系かによっても実装構成が異なります。
OS
交換機としての運用には、OSに相当するソフトウェアレイヤはありませんが、EXCと呼ばれるFBが、メモリ割り当てや割り込み制御などのOSに近い役割を担っています。EXCの開発は日本電気に固定されていました。
開発
言語
ソフトウェア開発には、主にCHILLという交換機用プログラミング言語が使用されましたが、一部にはアセンブリ言語も使用されました。バグ修正のためのプログラム（パッチ）は、多くがアセンブリ言語で開発されました。CHILLは、CCITT（当時）が策定したシンプルな仕様の言語で、PL/I|PL_Iを簡略化したような言語です。
環境
FBごとに分割して開発が行われたため、各FBのソースプログラムは、各社が独自の環境で作成していました。コンパイルとリンクは、DEMOS-E上でソースを転送し、DIPSのCHILLコンパイラ・リンカで行われました。
歴史
関連情報
関連項目
外部リンク
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