DMX512-A

DMX512-Aとは

DMX512-Aは、EIA-485規格に基づいた通信プロトコルで、主に舞台照明や特殊効果機器の制御に使用されています。このプロトコルは、1986年に米国劇場技術協会（USITT）の技術委員会によって開発が始まり、1990年には「USITT DMX512/1990」として規格化されました。その後、1998年にエンターテイメント・サービス＆テクノロジー協会（ESTA）がANSI規格として改訂を開始し、2004年11月には「E1.11、USITT DMX512–A」として正式にANSI規格に承認されました。現在では、単に「DMX512-A」とも呼ばれ、ESTAがその維持管理を行っています。

DMX512の歴史と特徴

DMX512は、当初、各社が独自に開発していたプロトコルの共通インターフェースとして、「最小公分母」となることを目指して開発されました。しかし、すぐにコントローラと調光器の接続だけでなく、演出機器や特殊効果デバイスの制御にも広く使われるようになりました。DMX512の基本的な仕組みは、コントローラから制御対象機器へ一方的に信号を送信するものであり、自動的な誤り検出や訂正機能は備わっていません。そのため、パイロテクニクスなど人命に関わる用途での利用は推奨されておらず、MIDIショーコントロールなどの代替手段が用いられます。

技術的解説

接続方法

DMX512対応機器は、一般的にデイジーチェーン接続されます。各機器にはDMX512入力（in）コネクタと出力（out）コネクタ（またはthruコネクタ）が備わっています。コントローラのDMX512出力からケーブルを最初の機器の入力に接続し、そこから次の機器へと順に接続していきます。通常、最後の機器の出力にはターミネータプラグ（インピーダンス整合用の抵抗器）を装着します。ただし、一部の機器には自動ターミネート機能が搭載されており、ターミネータプラグは不要です。

コネクタとケーブル

コネクタは5ピンXLRが一般的ですが、実際に使用するのは3ピンのみです。一部には3ピンXLRやフォーンプラグを使用する機器も存在しますが、これらはDMX512-A規格に違反しています。DMX512-Aでは、5ピンXLR以外の使用は原則禁止されており、スペースの制約で5ピンXLRを使用できない場合は、アダプタを付属させることになっています。

ケーブルに関しては、2004年に規格策定プロジェクトが開始され、ポータブル用と恒久的設備用の規格が定められました。これらの規格は、インピーダンスとキャパシタンスの基準を規定し、マイクケーブルなどの不適切なケーブル使用によるデータエラーを防ぐためのガイドラインを提供しています。

ピン配置

DMX512-Aのピン配置は以下の通りです。

Data Link Common
Data 1- （主データリンク）
Data 1+ （主データリンク）
Data 2- （補助データリンク）
Data 2+ （補助データリンク）

一部のメーカーでは、2番ピンと3番ピンの極性を逆転させている場合があり、アダプタが必要になることがあります。しかし、多くの照明制御卓には極性セレクタが搭載されており、全体的な極性が逆であればアダプタは不要です。

データ形式

DMX512データリンクでは、まず開始コードを送信し、その後に512チャンネル分の8ビットデータが続きます。これにより、1本のケーブルで最大512個の調光または制御が可能です。より多くの制御が必要な場合は、複数のDMX「ユニバース」を使用します。ユニバースとは、DMX512の1つのデータリンクとそのリンク上の全ての機器を指し、制御を分離するために使用されることもあります。

データ転送

DMX512のデータはEIA-485の電気的仕様に基づいており、250kbit/sでシリアルに転送されます。1度に送信されるパケットは最大513バイトで、1バイトはDMX512-Aでは「スロット」と呼ばれます。パケットの先頭には、最低88マイクロ秒のブレーク信号と、それに続く最低8マイクロ秒のMAB（Mark After Break）があります。ブレーク信号は、データが続くことを受信側に知らせる役割を果たします。最初のスロットは「開始コード」で、データの種類を示します。

リフレッシュレート

最大長のパケット送信には約23ミリ秒かかるため、リフレッシュレートは約44Hzです。リフレッシュレートを高くするには、送信チャンネル数を減らすことができます。ただし、受信側が短いパケットに対応できない場合も多いため、多くの送信機は512チャンネルを常に送信します。

チャンネルと制御

一般的な調光器は複数の照明を制御するため、複数のスロットを使用します。各スロットは1つの照明の調光レベルに対応し、レベル数値の解釈は様々です。例えば、線形プロファイルでは、スロットの値がそのまま照明の強度に対応します。自動で照明を動かす場合、連続するチャンネルを使用して、調光、色、ゴーボー、水平移動、垂直移動などの制御を行います。

DMX512の実際の利用

DMX512は、その単純さゆえに堅牢で、多少の乱暴な扱いにも耐えることができます。ただし、機器のチャンネル設定ミス、ケーブル接続ミス、コントローラのデータエラーなどによって問題が発生することがあります。ケーブルに問題があると、機器が間欠的に誤動作するなどの奇妙な現象が起こることがあります。

補助データリンク

補助データリンク用のピンは、2つ目のユニバースを送信することを意図していましたが、最近ではほとんど使用されていません。一部のメーカーでは、規格で禁止されている3ピンコネクタを使用しており、これはミキシングコンソールに誤って接続されると、オーディオ信号によって照明機器が損傷する可能性があるため危険です。また、一部メーカーではXLRコネクタのエクストラピンを電力供給に使用しており、これもDMX512対応機器との接続時に損傷のリスクがあります。

高精度制御

照明の向きは、わずかな角度の違いで舞台上への光の当たり方が大きく変わるため、正確な制御が求められます。DMX512では、1スロットのレベルは0から255までしか指定できないため、より細かい制御が必要な場合は、パンやチルトにそれぞれ2チャンネルを使用し、0から65535の値で制御する機器もあります。

無線DMX

近年では、ケーブル敷設が困難な場合に、無線LAN技術を使用したDMX512アダプタも登場しています。これらのアダプタは、理想的な環境下で約900メートルまで通信可能ですが、メーカーは一般的に300～400メートル程度を有効範囲としています。

DMX512の発展

DMX512のチャンネル数制限、単方向通信、誤り検出訂正機能がないといった欠点に対処するため、様々な拡張が提案されています。その一つが、複数のDMXユニバースのパケットをCAT5ケーブルで送信し、ブレイクアウトボックスから複数の機器に信号を送る方式です。この方式は各メーカーが独自に拡張したものですが、ESTAが現在標準化に取り組んでいます。

2004年版のDMX512-Aでは、RDM（Remote Device Management）プロトコルが拡張として規定されました。RDMは、各機器の診断フィードバックをコントローラに送る双方向通信を可能にするもので、2006年にANSIに承認され、急速に普及しています。

ESTAは、さらに信頼性の高い転送機構を提供するACN（Architecture for Control Networks）プロジェクトも進めています。ACNには、機器が自身の仕様（制御方法など）をコントローラに通知するデバイス記述言語も含まれています。

外部リンク

ESTA Technical Standards Program
* USITT

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