DTSS
DTSS（Dartmouth Time-Sharing System、ダートマス・タイムシェアリングシステム）は、計算機史において極めて重要な位置を占めるシステムです。特に、世界で初めて成功裏に大規模なタイムシェアリングシステムとして運用された点が高く評価されています。このシステムの開発は、当時既に存在していたBolt, Beranek and Newman（BBN）がPDP-1上で構築したタイムシェアリングシステムに影響を受けて始まりました。
DTSSの構想は、1962年にダートマス大学のジョン・ケメニー教授とトーマス・カーツ教授によって推進されました。彼らの主要な目的は、大学のあらゆる分野の学生や教職員が、当時非常に高価で希少だった計算機資源に、学科や専門に関わらず容易にアクセスできる環境を整備することでした。この教育支援を目的としたシステム開発のために、彼らは国立科学財団（NSF）に資金援助を申請し、1964年に承認を得ました。システムの具体的な実装は、ケメニーとカーツの指導のもと、学生たちのチームによって1963年に開始されました。そして、わずか1年後の1964年5月1日午前4時には、システムは公式に稼働を開始しました。
初期のDTSSは、ゼネラル・エレクトリック（GE）製のGE 235というコンピュータを中核として構築され、ユーザーからの端末入力を処理するフロントエンドとしてGE Datanet 30という専用プロセッサがGE 235を制御する形態でした。後に、システムはより高性能なGE 635コンピュータ上に再構築されましたが、この際も端末制御には引き続きDatanet 30が用いられました。GE 635を基盤とするDTSSは、1970年代にはピーク時には300台近くの端末を同時にサポートする能力を持ち、これは当時の基準から見ても非常に大規模なタイムシェアリング環境の実現でした。システムの設計において最も重視されたのは、その主要な目的である「教育」のために、コンピュータの専門家でなくても直感的に利用できる使いやすさでした。
DTSSは、現代の統合開発環境（IDE）の先駆けともいえる、先進的なソフトウェア環境を提供しました。これはコマンドベースのシステムで、ユーザーは特定のコマンドを入力することでプログラムの作成、編集、保存、実行といった一連の作業を行いました。例えば、新しいプログラムを開始するための`NEW`、既に保存されているプログラムを呼び出す`OLD`、現在作業中のプログラムの内容を表示する`LIST`、編集中のプログラムを保存する`SAVE`、そしてプログラムを実行する`RUN`といったコマンドがありました。これらのコマンドは、DTSS上で広く使われたプログラミング言語であるダートマスBASICと組み合わせて利用されることが多かったため、多くのユーザーはこれらをBASIC言語固有の機能だと誤解していました。しかし実際には、これらのコマンドはシステム自体が提供する機能であり、BASICだけでなく、ALGOLやFORTRANといった他の言語で書かれたプログラムをDTSS端末経由で利用する際にも共通して使用されました。
当時の標準的なインターフェースだったテレタイプ端末での利用を前提としていたため、DTSSの入力方式には独特の特徴がありました。ユーザーが入力した行頭に数値（行番号）が付いている行は、プログラムコードとして扱われ、現在のプログラムに追加または同じ行番号の既存の行と置き換えられました。一方、行番号が付いていない入力行は、プログラムの一部として記憶されるのではなく、即座にシステムによってコンパイルされ実行されました。また、行番号だけを入力するという特殊な操作は、その行番号に対応する既存のプログラム行を削除する効果を持っていました。このシンプルながらも効果的な入力方式は、当時の低速なテレタイプ端末での編集作業に適していました。
DTSSは単なるスタンドアロンの計算システムに留まらず、黎明期のコンピュータネットワークにもその影響を広げました。1968年から1970年代中ごろにかけて、東海岸地域の他の教育機関や研究施設がDTSSに接続されました。具体的には、ゴダード大学、フィリップス・アカデミー、海軍兵学校などが、標準的なテレタイプ端末であるASR-33と音声帯域のモデムを介してDTSSを利用しました。さらに、DTSSはユーザー間のコミュニケーション機能も提供しており、簡単なメッセージを他のユーザーに送信できる電子メールに類似した機能や、UNIXの`talk`コマンドの原型ともいえるリアルタイムのチャット機能も備えていました。
DTSSシステムは、技術の進歩に伴いその役割を終えるまでの長期間にわたり運用されました。公式な運用は1999年末まで続けられ、これはタイムシェアリングシステムの歴史の中でも特に長い期間にわたる稼働例と言えます。しかし、その歴史的価値は失われることなく、2000年にはDTSSシステムをソフトウェアで忠実に再現するシミュレータ開発プロジェクトが実施されました。これにより、Microsoft WindowsやMacintoshといった現代のパーソナルコンピュータ上で、DTSSの環境を体験し、その歴史に触れることが可能となっています。
DTSSは、タイムシェアリングという概念を単に技術的に実現しただけでなく、それを教育の現場で誰もが利用できる現実的なシステムとして普及させた点で画期的でした。その使いやすさを追求した設計思想や、統合開発環境、初期のネットワーク接続とコミュニケーション機能の実装は、その後のパーソナルコンピュータの発展やオンラインサービスの登場にも間接的ながら影響を与えたと言えるでしょう。
DTSSの構想は、1962年にダートマス大学のジョン・ケメニー教授とトーマス・カーツ教授によって推進されました。彼らの主要な目的は、大学のあらゆる分野の学生や教職員が、当時非常に高価で希少だった計算機資源に、学科や専門に関わらず容易にアクセスできる環境を整備することでした。この教育支援を目的としたシステム開発のために、彼らは国立科学財団（NSF）に資金援助を申請し、1964年に承認を得ました。システムの具体的な実装は、ケメニーとカーツの指導のもと、学生たちのチームによって1963年に開始されました。そして、わずか1年後の1964年5月1日午前4時には、システムは公式に稼働を開始しました。
初期のDTSSは、ゼネラル・エレクトリック（GE）製のGE 235というコンピュータを中核として構築され、ユーザーからの端末入力を処理するフロントエンドとしてGE Datanet 30という専用プロセッサがGE 235を制御する形態でした。後に、システムはより高性能なGE 635コンピュータ上に再構築されましたが、この際も端末制御には引き続きDatanet 30が用いられました。GE 635を基盤とするDTSSは、1970年代にはピーク時には300台近くの端末を同時にサポートする能力を持ち、これは当時の基準から見ても非常に大規模なタイムシェアリング環境の実現でした。システムの設計において最も重視されたのは、その主要な目的である「教育」のために、コンピュータの専門家でなくても直感的に利用できる使いやすさでした。
DTSSは、現代の統合開発環境（IDE）の先駆けともいえる、先進的なソフトウェア環境を提供しました。これはコマンドベースのシステムで、ユーザーは特定のコマンドを入力することでプログラムの作成、編集、保存、実行といった一連の作業を行いました。例えば、新しいプログラムを開始するための`NEW`、既に保存されているプログラムを呼び出す`OLD`、現在作業中のプログラムの内容を表示する`LIST`、編集中のプログラムを保存する`SAVE`、そしてプログラムを実行する`RUN`といったコマンドがありました。これらのコマンドは、DTSS上で広く使われたプログラミング言語であるダートマスBASICと組み合わせて利用されることが多かったため、多くのユーザーはこれらをBASIC言語固有の機能だと誤解していました。しかし実際には、これらのコマンドはシステム自体が提供する機能であり、BASICだけでなく、ALGOLやFORTRANといった他の言語で書かれたプログラムをDTSS端末経由で利用する際にも共通して使用されました。
当時の標準的なインターフェースだったテレタイプ端末での利用を前提としていたため、DTSSの入力方式には独特の特徴がありました。ユーザーが入力した行頭に数値（行番号）が付いている行は、プログラムコードとして扱われ、現在のプログラムに追加または同じ行番号の既存の行と置き換えられました。一方、行番号が付いていない入力行は、プログラムの一部として記憶されるのではなく、即座にシステムによってコンパイルされ実行されました。また、行番号だけを入力するという特殊な操作は、その行番号に対応する既存のプログラム行を削除する効果を持っていました。このシンプルながらも効果的な入力方式は、当時の低速なテレタイプ端末での編集作業に適していました。
DTSSは単なるスタンドアロンの計算システムに留まらず、黎明期のコンピュータネットワークにもその影響を広げました。1968年から1970年代中ごろにかけて、東海岸地域の他の教育機関や研究施設がDTSSに接続されました。具体的には、ゴダード大学、フィリップス・アカデミー、海軍兵学校などが、標準的なテレタイプ端末であるASR-33と音声帯域のモデムを介してDTSSを利用しました。さらに、DTSSはユーザー間のコミュニケーション機能も提供しており、簡単なメッセージを他のユーザーに送信できる電子メールに類似した機能や、UNIXの`talk`コマンドの原型ともいえるリアルタイムのチャット機能も備えていました。
DTSSシステムは、技術の進歩に伴いその役割を終えるまでの長期間にわたり運用されました。公式な運用は1999年末まで続けられ、これはタイムシェアリングシステムの歴史の中でも特に長い期間にわたる稼働例と言えます。しかし、その歴史的価値は失われることなく、2000年にはDTSSシステムをソフトウェアで忠実に再現するシミュレータ開発プロジェクトが実施されました。これにより、Microsoft WindowsやMacintoshといった現代のパーソナルコンピュータ上で、DTSSの環境を体験し、その歴史に触れることが可能となっています。
DTSSは、タイムシェアリングという概念を単に技術的に実現しただけでなく、それを教育の現場で誰もが利用できる現実的なシステムとして普及させた点で画期的でした。その使いやすさを追求した設計思想や、統合開発環境、初期のネットワーク接続とコミュニケーション機能の実装は、その後のパーソナルコンピュータの発展やオンラインサービスの登場にも間接的ながら影響を与えたと言えるでしょう。
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