DXペディション

DXペディションとは

DXペディション（DX-pedition）とは、アマチュア無線において、常駐のアマチュア無線局が存在しない、または極端に少ない場所へアマチュア無線家が遠征してアマチュア無線の運用を行うことです。ここで言う「DX」とは、無線用語で「距離」や「遠方」を意味し、転じて「遠距離無線通信」の意味で使用されます。つまり、DXペディションは「遠距離通信のための遠征」と言えるでしょう。

対象となる場所は、国、地域、島（DXCCにおけるエンティティ）や、地理的なグリッド（グリッド・ロケーターなど）です。アマチュア無線家たちは、これらの場所から世界中の無線局との通信を試みます。

DXペディションの歴史

初期のDXペディションは、1920年代後半から1930年代にかけて、探検や地理的遠征の際に、本国との長距離通信を行うためにアマチュア無線家が探検隊に同行したのが始まりです。彼らは探検の合間に、新しい国との通信を求める世界中のアマチュア無線家と通信を行いました。

著名な初期の事例

リチャード・バード探検隊の南極探検: 南極という未知の地からの通信は、多くの無線家を魅了しました。
1924年のスクーナー・カイミロア号による南太平洋の航海: 船のオーナーが航海を楽しむ傍ら、アマチュア無線家がアメリカのアマチュア無線家たちと通信を行い、QSLカードを送っていました。

第二次世界大戦後には、探検へのアマチュア無線家の参加が再開され、1948年のアッティリオ・ガッティらのアフリカ探検には、2人のアマチュア無線家が同行しました。また、1947年のトール・ヘイエルダールによるコンティキ号による航海では、通信にアマチュア無線のみが使用されました。

アマチュア無線による通信を目的とする遠征は、ARRL元会長のロバート・W・デニストンによって開拓されました。彼の1948年のDXペディションは、バハマで行われ、前年のヘイエルダールのコンティキ号探検になぞらえて「Gon-Waki」と呼ばれました。

DXペディションとアワード

DXペディションは、アマチュア無線のアワード（賞）の獲得を目的として企画・実施されることがあります。様々な組織が、多くの異なる国・地域との通信によって獲得できるアワードを主催しており、その中でも最も有名なのが、ARRLが主催するDX Century Club(DXCC)です。

DXCCは、世界の異なる「エンティティ」との通信数に応じて授与されるアワードで、最終的には全てのエンティティとの通信を目指します。

エンティティとは？

現在、DXCCのルールで定められているエンティティは340あります。エンティティは通常は国単位ですが、政治的・物理的に隔絶されている島や地域は本国とは別エンティティとなります。例えば、アラスカ州とハワイ州は、アメリカ合衆国の一部ですが、地理的に隔絶されているため、アメリカ本国とは別エンティティです。

イギリス無線協会が発行するIslands on the Air(IOTA)は、通信を行った島の数を表彰するものであり、アマチュア無線局のない島へのDXペディションが行われています。また、電波の到達距離が比較的短いVHF・UHF帯のために、グリッド・ロケーターを対象とするアワードも発行されており、同様にアマチュア無線局のないグリッドへのDXペディションが行われています。

DXペディションの場所

多くのDXペディションは、電源や物資などが十分に確保されている場所で行われます。カリブ海や太平洋の島国、ヨーロッパの小国家の多くは、人口は少ないものの、宿泊施設や信頼性の高い電源があり、アマチュア無線の運用許可を容易に得ることができます。このような場所は、休暇に合わせてDXペディションを行うアマチュア無線家にとって人気があり、DXバケーションと呼ばれています。

しかし、アマチュア無線家が通信機器を使用することについて厳しい見解を示している国もあります。そのような国で免許を取得しているアマチュア無線家は非常に少なく、訪問者が運用許可を取得したりアマチュア無線機器を持ち込んだりすることは非常に困難または不可能です。そのような国でDXペディションが行われるのはごく稀です。

また、ピョートル1世島、キャンベル島、クリッパートン島、ナヴァッサ島のように、極端なアクセスのしにくさからアマチュア無線の運用がほとんど行われない場所もあります。

DXペディションの機器と運用

DXペディションの参加者は、使用する無線機にも多くの注意を払っています。珍しい場所から運用する場合、一度に何百もの局が通信を求めてくることがあります（これを「パイルアップ」という）。このため、DXペディション参加者は、世界中に強い信号を送り、パイルアップをコントロールし続けるために、できるだけ多くの周波数帯で強力で利得の高いアンテナを使用することを目指します。運用者はまた、パイルアップの信号に邪魔されることなく、遠隔地の局に自分の声が聞こえるようにするために、送信と受信の周波数を分ける「スプリットオペレーション」という運用方法をとることもあります。

DXペディション参加者は、目的地に到着したら、無線局をセットアップして運用を開始します。インターネットを利用してログをアップロードすることで、成立したか疑わしい通信を素早く確認できるようになり、QSLカードの交換もインターネット上で行えるようになりました。

DXペディションとコンテスト

DXペディションは、コンテストに合わせて行われることもあります。これは、DXペディションでは多くの無線局と通信することになるため、コンテストに有利になるからです。

最も多くの通信を行ったDXペディション

2011年10月、Five Star DXers Associationが行ったキリバス・キリスィマスィ島へのDXペディション(T32C)では、213,169回の通信を記録しました。

著名なDXペディション

2016年、ハード島(VKØEK)
2015年、[ナヴァッサ島]
2014年、[アムステルダム島]
2013年、[クリッパートン島]
1990年 ブーベ島（3Y5X）
1980年 サウスサンドウィッチ諸島（LU3ZY）

これらのDXペディションは、アマチュア無線家の冒険心と技術を結集した活動として、無線通信の歴史に名を刻んでいます。

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