Dvorak配列

Dvorak配列

Dvorak配列（ドヴォラックはいれつ）は、タイプライターやコンピュータのキーボードで使用されるキー配列の一種です。この配列は、1932年にアメリカのワシントン大学で教育心理学者を務めていたオーガスト・ドヴォラック博士によって考案されました。

特徴と設計思想

Dvorak配列の最大の目的は、タイピングにおける打鍵の誤りを減らし、入力速度を向上させ、タイピング従事者の疲労を軽減することにあります。この目的を達成するため、英文におけるアルファベットの出現頻度や文字同士の関連性を詳細に分析した結果に基づいて設計されました。そのため、Dvorak配列は英文入力に特化しており、他の言語での使用は想定されていません。

配列の設計においては、利用頻度の高い文字をホームポジション（キーボードの中段）に集中させ、上段や下段の使用頻度を低くすることで、指の移動距離（運指距離）を最小限に抑える工夫が凝らされています。具体的には、母音を左手のホームポジションに配置し、子音を右手側に、母音に続く頻度が高い順に並べています。これにより、母音と子音を左右交互に打鍵することが促進され、効率的かつ高速な入力を実現しようとしています。

実際、Dvorak配列は、キーボードを用いた文字入力速度の世界記録樹立にも使用された実績があります。

普及状況と課題

Dvorak配列は、QWERTY配列に比べて理論上多くの優位性を持つとされています。しかし、現実世界における普及率は極めて限定的です。その理由として、市販されているタイピング練習用の書籍やソフトウェアのほとんどがQWERTY配列を前提としており、Dvorak配列に対応したものが非常に少ないことが挙げられます。

また、コンピュータのキーボードは、文字入力だけでなく、オペレーティングシステム（OS）やアプリケーションの操作において、複数のキーを同時に押すショートカット操作にも多用されます。多くのOSやアプリケーションでは、これらのショートカットがQWERTY配列を前提に設計されているため、Dvorak配列で利用すると、ショートカット操作の際に指の動きが非効率になったり、操作性が低下したりする問題が生じます。

日本語入力への適用

Dvorak配列は元々英文入力のために設計されており、日本語入力に特化した配慮はありません。しかし、日本語のローマ字入力においては、特に使用頻度の高い母音（「い」の「i」を除く）が左手のホームポジション近くに配置されているため、比較的短い運指で入力できるという利点もあります。

一方で、日本語入力で頻出する子音である「か行」の「k」や「や行」の「y」も左手側に配置されているため、左手の打鍵数が多くなる傾向があります。この左手への負荷集中を軽減するため、Dvorak配列をベースに改良を加えた日本語入力方式が複数考案されています。代表的なものに、DvorakJP、ACT (AZIK on Dvorak)、JLOD、蒼星などがあり、これらは負荷を右手へ分散させたり、カ行の子音を「k」から「c」に置き換えるなどの工夫により、日本語入力時の操作性向上を目指しています。

利用環境

Dvorak配列で入力を行うためには、対応するキーボードを使用するか、OSやアプリケーションの設定を変更する必要があります。

ハードウェアレベルでDvorak配列に対応しているキーボードも存在します。例えば、KinesisやTypeMatrix、ErgoDox EZなどの製品は、QWERTY配列とDvorak配列を物理的なスイッチなどで切り替える機能を備えています。また、かつてのTRONキーボードでは英語キー配列にDvorak配列が採用されていました。ドイツのメーカーであるペリックスのように、オンデマンドでDvorak配列のキーボードを製造するサービスを提供している例もあります。

ソフトウェアによる対応は、各OSで行うことができます。

macOS: 標準機能としてDvorak配列を選択できます。「システム環境設定」の「キーボード」内にある「入力ソース」で「Dvorak」を追加し、選択します。日本語入力時も「英字のレイアウト」でDvorakを選択することで対応可能です。ショートカット操作時に一時的にQWERTY配列になる「Dvorak - Qwerty ⌘」配列も用意されています。より詳細な設定を行う場合は、Karabiner（旧称 KeyRemap4MacBook）のようなキーリマップユーティリティの導入も有効です。
Windows: 標準設定でDvorak配列に変更すると、日本語入力が難しくなる場合があります。レジストリを操作してキー配列を変更したり、DvorakJなどの外部アプリケーションを導入することで対応が可能です。これらのアプリケーションの中には、修飾キー（Ctrl, Alt, Shiftなど）の配置はQWERTY配列のままにする機能を持つものもあります。Windows 10以降では、設定アプリとレジストリ操作を組み合わせることで、アプリケーションなしにDvorak配列を使用する方法も知られています。
FreeBSD: コンソール環境では、`kbdcontrol -l us.dvorak` コマンドで一時的に設定できます。`/etc/rc.conf` ファイルに `keymap=us.dvorak` と記述することで、システム起動時に自動でDvorak配列を適用できます。
Unix系OS (X Window System): `setxkbmap dvorak` コマンドを実行することでDvorak配列に切り替えることができます。X Window System起動時に自動で設定するには、Xmodmapなどのツールを利用する方法があります。

また、Dvorak配列には、片手で操作する場合を想定した右手用および左手用の配列も存在します。

派生配列

Dvorak配列をベースに、特定の目的のために改良された派生配列も開発されています。これらには、物理的な配列を一部変更したものや、日本語入力の効率化を目指したものなどがあります。

modified Dvorak: 荻野周史氏が考案した、物理配列を一部変更した配列。
DvorakJP: 物理配列の変更なく、日本語入力の負荷軽減を目指した配列。
ACT: 物理配列を一部変更した配列。
蒼星: Shiftキーの活用による機能強化が特徴で、ACTやM式などを参考に考案された配列。
iDvorak
JLOD配列: Japanese Layout on Dvorakの略称。

Dvorak配列は、理論的な効率性を追求した配列として、現在でも一部のユーザーに利用されていますが、QWERTY配列がデファクトスタンダードとなっている現代においては、普及面やソフトウェア対応面でいくつかの課題を抱えています。

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