EL/M-2075

AEW&Cシステム ファルコン (EL/M-2075)

概要

EL/M-2075、通称「ファルコン」は、イスラエル・エアロスペース・インダストリーズの子会社であるエルタ・システムズが開発した早期警戒管制機（AEW&C）システムです。「ファルコン」という名称は、Phased Array L-band Conformal Radar（フェーズドアレイ式Lバンドコンフォーマルレーダー）の頭文字に由来しています。

本システムの中心をなすのは、Lバンドのアクティブ・フェーズドアレイレーダーです。最大の特徴は、レーダーアンテナを機体に沿うように設置する「コンフォーマル」方式を採用した点にあります。この方式により、一般的なAEW&C機に見られる回転式レドームが不要となり、機体構造への組み込みが容易になりました。これにより、全周の監視が可能となり、さらにシステムや機体の稼働率・信頼性の向上、運用コストの削減に貢献しています。

特筆すべきはその高いスキャン速度です。従来の回転式レドームを用いたシステムが目標エリアのスキャンに20秒から40秒を要するのに対し、ファルコンはわずか2秒から4秒で完了できます。このレーダーアンテナは、敵味方識別装置（IFF）の機能も兼ね備えています。

機能面では、標準的なAEW&Cシステムと同様に、広範な空域や地上の目標を監視・追尾し、友軍機を管制する能力を持ちます。加えて、電子戦に関する情報の収集能力も有しています。これらの情報は統合され、オペレーターが使用するコンソールパネルに表示されます。

レーダーの探知性能は高く、戦闘機サイズの目標であれば約400km、ヘリコプターサイズの目標は約180km、低空を飛行する目標でも約100kmの距離で探知可能です。同時に追尾できる目標数は60から100個程度とされています。システム全体の能力は、アメリカのE-3 AWACSと同等、あるいは部分的にはそれを上回るという評価もあります。アメリカ科学者連盟は、1999年および2008年の報告において、ファルコンを当時最も先進的なAEW&Cシステムの一つとして挙げています。

一方で、コンフォーマル式ながらも機体後部にはレーダーアンテナが装備されないため、探索範囲が機体前方約260度に限定されるという点が欠点として挙げられます。

搭載可能なプラットフォームは多岐にわたり、ボーイング707、767、747などが検討されています。最低でもC-130輸送機程度の大きさがあれば、他の様々な航空機にも搭載が可能です。

発展と改良

初期のEL/M-2075システムは、コンフォーマル式とはいえアンテナの張り出しが大きく、空気抵抗が大きいという課題がありました。また、価格がE-3の約3分の1程度と比較的安価であったにもかかわらず、チリに1機が販売されたにとどまったことから、システムの改良とプラットフォームの見直しが進められることになりました。

IAIはシステムの小型化を図りつつ、新たなプラットフォームを模索しました。1999年2月には、オーストラリアのAEW&C機選定計画「プロジェクトAIR5077（ウェッジテイル）」に対し、レイセオンやアンセット・オーストラリア航空と共同で提案を行っています。この提案では、エアバスA310-300型機をベースとし、改良型のファルコンレーダー（探知距離約350km）を固定式のレドーム内に3面配置するという方式が採用されました。オペレーターワークステーションにはオープンアーキテクチャのDEC ALPHAシステムを統合する計画でしたが、コスト面がネックとなりこの案は落選しました。この選定結果を受け、IAIはより安価な航空機をベースとする方向へと戦略を転換していくことになります。

EL/W-2090

より安価なプラットフォーム戦略の一環として、ロシアのAEW&C機であるA-50にEL/W-2090システムを搭載する計画が浮上しました。EL/W-2090はEL/M-2075の発展型で、最大探知距離は約800kmに向上し、同時に約60目標を追跡可能です。このシステムをA310提案時と同様の固定レドーム方式でA-50に搭載した機体はA-50Iと呼ばれました。

中国がA-50Iの発注を行い、イスラエルで改修作業が進められましたが、アメリカ合衆国からの政治的圧力により計画はキャンセルされました。ただし、機体自体は中国に引き渡され、これが後に中国独自のAEW&C機であるKJ-2000の基盤となったと言われています。一方、インドが同様のシステムを発注したことで計画は再び動き出し、インド空軍向けにA-50EIとして輸出が実現しました。

EL/W-2085 (G550 CAEW)

A-50へのシステム搭載と並行して、イスラエル自身が採用したプラットフォームがガルフストリーム G550ビジネスジェットでした。この機体に、小型化されたEL/W-2085のアンテナを、初期のファルコン707と同様に胴体側面、機首、尾部に沿わせるコンフォーマル方式で設置しています。胴体側面のアンテナはLバンド、機首と尾部のアンテナはSバンドを使用します。探知距離は約370kmから400km、同時に約100目標の追尾が可能です。

このシステムを搭載した機体はG550 CAEW（Conformal Airborne Early Warning）と呼ばれ、イスラエル航空宇宙軍のほか、シンガポールなどが採用しました。2010年からは、海洋監視能力も追加されています。

運用状況

• - イスラエル

イスラエル航空宇宙軍はかつてボーイング707ベースのファルコン707を運用していましたが、後にE-2C AEW&C機の導入に伴い退役させました。

• - インド

インド空軍はA-50EIを3機導入し運用を開始しました。後に2機を追加発注しています。

• - チリ

チリ空軍は、ラン航空で民間機として使用されていた中古のボーイング707を改造したファルコン707を1機購入し、1995年から「コンドル」の愛称で運用しています。

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