FM TOWNS マーティー

FM TOWNS マーティー：家庭用ゲーム機への挑戦と挫折

FM TOWNS マーティーは、1993年2月16日に富士通が発表、同月20日に発売した、家庭用ゲーム機として開発されたマルチメディア機です。当時のキャッチコピーは「マーティーにチャンネルを合わせろ」。ワニのキャラクター「Mr.T」をイメージキャラクターに起用し、郵便局のCMにも登場するなど、大々的なプロモーション展開が行われました。

開発の背景

富士通が開発した「LIST方式」と呼ばれる画像処理技術が、マーティー開発のきっかけとなりました。この技術により、640×480ドット（VGA相当）の高解像度画像を家庭用テレビで表示することが可能になったのです。当時、家庭用ゲーム機やパソコンの画面解像度は320×240ドットが一般的だったため、この技術は画期的でした。

家庭用テレビへの接続に特化して小型化されたFM TOWNSであるマーティーは、本体色を白で統一。CPUには80386SX（16MHz）相当品を搭載し、性能的には初代FM TOWNSと同程度でした。RGB端子の代わりにS端子を備え、マウスの代わりに専用ジョイパッドで操作が可能。ジョイパッドにはZOOMボタンが搭載されており、対応ソフトでは画面の拡大表示もできました。キーボードは別売り。トップローディング方式のCD-ROMドライブと3.5インチ2HDフロッピーディスクドライブをそれぞれ1基ずつ搭載。PCカードスロットも備え、専用のモデムカードを使用することもできました。背面には拡張バスがありましたが、蓋がモールドされていたため、拡張性は限定的でした。

ソフトウェア戦略

FM TOWNS向けのCD-ROM ソフトウェアの多くがそのまま利用できることが、マーティーの大きな特徴でした。しかし、実際にはマーティー発売後のFM TOWNSタイトルは、パッケージに「マーティー対応」の注意書きがないと使用できませんでした。マーティー発売後のFM TOWNSタイトルには、マーティー専用IPLが書き込まれたソフトウェアと、旧来のFM TOWNS用ソフトのIPLが書き込まれたソフトウェアのみがそのまま起動し、FM TOWNS専用IPLが書き込まれたソフトは、マーティー本体のプロテクトにより起動しませんでした。

マーティー発売以前に発売されていたTOWNSタイトル約660本のうち、約200本がマーティー対応とされ、新作ソフトを含めると発売時点で約250本のソフトがマーティーに対応していました。富士通は、家庭用ゲーム機ビジネスを参考に、ソフトウェアベンダがハードベンダにライセンス料を支払うロイヤルティ徴収方式のビジネスモデルを描いていました。

市場の反応と失敗

当初、富士通は発売から3年で販売台数100万台という目標を掲げていましたが、売り上げは低迷。1993年12月末時点での累計出荷台数は4.5万台にとどまりました。その原因として、以下の点が挙げられます。

搭載メモリの容量が2MBと、当時としても小さかったこと。
SCSIがなく、拡張バスも活用しづらかったため、ハードディスクなどの拡張機器が登場しなかったこと。
性能の割に本体価格が9万8000円（税込み10万円）と高価で、価格競争力がなかったこと。
そもそもFM TOWNSに、ゲーム機市場に対抗できるようなキラーソフトが少なかったこと。

1994年には、本体価格を6万6000円に下げ、色をグレーにした「マーティーモデル2」が投入されましたが、性能は変わらず、販売は不調に終わりました。

マーティーの突然の発表と失敗は、一時は堅調になってきたかと思われたFM TOWNSの市場に水を差す結果となりました。当時流行していた「マーフィーの法則」をもじって、「売れる可能性のない物は売れない」＝「マーティーの法則」と揶揄されることもありました。

カーマーティー

1993年10月のモーターショーでは、カーナビゲーション機能を備えたカーマーティーが発表され、1994年に富士通テンから発売されました。これは富士通初のカーナビゲーション市場参入であり、当時としては初めて一方通行を考慮したルート検索が可能でした。別売の3.5インチFDDでルート情報や地点登録、走行軌跡などを保存・交換できるなど、現在のカーナビの原点とも言える機能が搭載されていました。通常のマーティー向けソフトウェアも動作し、メニューキーを素早く2回押すと、画面上の自車キャラクターがレーシングカーから犬に変わるという遊び心も盛り込まれていました。

まとめ

FM TOWNSマーティーは、家庭用ゲーム機市場への参入を目指した富士通の意欲的な試みでしたが、価格設定やソフトラインナップ、拡張性の低さなどが災いし、商業的には成功を収めることができませんでした。しかし、その先進的な技術やコンセプトは、後のゲーム機やカーナビゲーションシステムに影響を与えたと言えるでしょう。

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