S端子

S端子：アナログ映像接続端子の歴史と概要

S端子（エスたんし）は、かつてテレビやビデオデッキ、レーザーディスクプレーヤーなどで広く利用されていた映像信号の入出力用接続端子です。その名称は、映像信号を輝度信号と色信号の2系統に分離して伝送する方式に由来しています。そのため、セパレート端子と呼ばれることもあります。S端子規格は、日本ビクター（現JVCケンウッド）が1987年にS-VHS規格を発表した際に同時に導入されました。その後、S-VHS規格を採用したビデオデッキやテレビを中心に普及し、ED BetaやHi8といった他の規格のビデオデッキにも搭載されるようになりました。

S端子の登場以前は、コンポジット[[映像信号]]が主流でした。コンポジット信号は輝度信号と色信号を混ぜ合わせて伝送するため、信号の劣化が避けられませんでした。これに対し、S端子は輝度信号と色信号を分離して伝送することで、より鮮明で高画質な映像を実現しました。ただし、S端子で伝送される映像信号は、SD画質（標準画質）であることに留意が必要です。

S端子ケーブルは、両端が同じ形状のコネクタで構成され、S映像ケーブルやS映像コードと呼ばれていました。ステレオ音声用のケーブルと一体となった3本ケーブルも市販されており、10メートル程度のケーブルも容易に入手できました。また、S端子はプラグの向きがあり、内部のピンが折れやすい構造のため、頻繁な抜き差しには向いていませんでした。そのため、接続時に注意が必要でした。

S端子の種類と機能

S端子には、S1端子とS2端子が存在し、それぞれ異なる機能を備えています。

S1端子: 4:3映像と16:9映像の判別が可能です。16:9映像の場合は、左右を圧縮した状態で4:3映像として伝送され、対応テレビで引き伸ばして表示されます。
S2端子: S1端子の機能に加え、16:9映像の上下に帯を追加したレターボックス信号（LB信号）の識別も可能です。対応テレビでは、横方向にズームし、上下の帯をカットして16:9映像を表示します。

これらの拡張機能は、色信号にバイアス電圧を加えることで実現されています。ただし、C線は本来直流信号の伝送を想定されていなかったため、交流結合された機器を接続経路に挿入すると識別が不可能になるという弱点がありました。このため、垂直帰線期間に特殊な識別信号を重畳する「ID-1」などの対策も存在します。

S端子の衰退とHDMIへの移行

2000年代に入ると、高画質・高音質のAV信号を1本のケーブルで伝送可能なHDMI端子が登場しました。HDMI端子は、S端子に比べ大幅に高画質で、デジタル信号のため劣化も少ないため、急速に普及しました。2006年にはHDMIリンク機能も追加され、機器間の連動操作も容易になったことで、S端子は徐々にその地位を失っていきました。

2010年秋冬モデル以降は、多くのテレビでS端子入出力端子が廃止されるようになりました。現在では、S端子を搭載したテレビやビデオデッキは非常に少なくなっています。しかし、レトロゲーム機や古いビデオカメラなど、S端子接続を必要とする機器も存在します。これらの機器を使用したい場合は、S映像をHDMIに変換するアップスキャンコンバーターなどを利用することで、現代のテレビでも接続できます。

S端子と他の映像端子との比較

S端子は、コンポジット[[映像信号]]やコンポーネント映像信号と比較して、画質において中間的な位置付けです。コンポジット[[映像信号]]に比べれば高画質ですが、コンポーネント映像信号には及びません。また、RCA端子やD端子、SCART端子なども映像信号の伝送に使用される端子ですが、それぞれ異なる規格や特性を持っています。HDMI端子は、これらの端子に比べ、はるかに高画質でデジタル信号であるため、現代の映像機器では標準的な接続端子となっています。

S端子接続機器の現在

S端子搭載のVHSデッキ、古いビデオカメラ、レトロゲーム機などをS端子の画質で楽しみたいユーザーもいます。そのような場合は、市販のアップスキャンコンバーターを利用することで、S映像をHDMIなどの規格に変換し、現代のテレビで視聴することができます。また、一部のAVセレクターやAVアンプは、S映像信号を入力し、超解像技術によって擬似的に解像度を補完してD端子やHDMI端子から出力できる機能も備えています。しかし、S映像ケーブルの生産は2020年までに国内メーカー全社で終了しており、今後入手が困難になる可能性があります。

S端子は、かつて家庭用AV機器で広く使われた接続端子でしたが、技術の進歩によってHDMIなどの新しい技術に取って代わられました。しかし、レトロゲーム機や古いビデオ機器など、現在でもS端子接続が必要となる機器があるため、その歴史的意義は依然として重要です。

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