Frizzled

Frizzled（フリズルド）

Frizzled（Fz）は、生物の発生や細胞の機能調節において中心的な役割を果たす、非典型的Gタンパク質共役受容体のファミリーです。主にWntシグナル伝達経路の主要な受容体として機能しますが、それ以外の経路にも関与することが知られています。Frizzledが細胞外からのシグナルを受け取ると、細胞質の情報伝達因子であるDishevelledタンパク質などが活性化され、下流への信号伝達が開始されます。

種分布

Frizzledタンパク質およびそれをコードする遺伝子は、生物界において非常に広く分布しています。単純な構造を持つ海綿動物から、高度に発達したヒトに至るまで、多くの動物種でその存在が確認されており、生命にとって基本的な機能に関わることが示唆されています。

機能

Frizzledタンパク質は、細胞の正確な配置と形態形成（細胞極性）、個体が発生していく過程（胚発生）、神経細胞間での情報伝達を担うシナプス形成、細胞の増殖など、発生期から成熟した個体の生理機能に至るまで、多岐にわたる重要な過程の制御に深く関与しています。

これらの機能は、主に以下の3つの主要なシグナル伝達経路を介して実行されます。

1. 古典的Wnt/β-カテニン経路: 細胞の増殖や分化などに関与します。
2. Wnt/カルシウム経路: 細胞運動や形態変化などに関与します。
3. 平面内細胞極性（PCP）経路: 上皮組織における細胞の向きの整列などに関与します。

ヒトにおいては、特定のFrizzled受容体、特にFrizzled-4（FZD4）が、網膜や硝子体に影響を与える希少な遺伝性疾患である家族性滲出性硝子体網膜症の発症と関連があることが報告されています。

また、古くから発生学の研究で利用されてきたショウジョウバエを用いた研究では、frizzled (fz) 遺伝子座が上皮細胞の細胞骨格を適切に配置し、クチクラの毛や剛毛を特定の方向に平行に整列させる役割を担っていることが明らかにされています。野生型のショウジョウバエの翅では、全ての毛が体軸の遠位側（先端方向）を向いていますが、fz遺伝子に変異があると、個々の毛の向きがバラバラになり、全体としても不規則になります。

発生過程にあるショウジョウバエの翅において、Fzタンパク質は二重の機能を持っています。まず、細胞内に極性を示すシグナルを体の近位（根本方向）から遠位（先端方向）へと正しく伝えるために不可欠です。さらに、細胞がこの極性シグナルを認識し、それに応答して自身の構造や動きを適切に調整するためにも必要とされます。

構造

Frizzledは、細胞膜を7回貫通する構造を持つ膜内在性タンパク質であると考えられています。細胞外に突き出したドメイン、細胞膜を貫通するドメイン、そして細胞内に位置するドメインを持ちます。これらのドメイン、特に細胞外ドメインと細胞質ドメインが、外部からの極性情報を受け取ったり、内部で情報伝達を行ったりする機能に関わると推測されています。

システインリッチドメイン（CRD）

Frizzledタンパク質の細胞外ドメインには、システインリッチドメイン（CRD）と呼ばれる特徴的な構造が存在します。このCRDは、Frizzledファミリーだけでなく、いくつかの受容体型チロシンキナーゼなど、他の様々なタンパク質にも保存されているドメインです。キイロショウジョウバエにおける研究などから、FrizzledファミリーメンバーのCRDは、Wntリガンドが結合する主要なドメインとして機能していると考えられています。

FrizzledのCRDは、発生に関わる受容体型チロシンキナーゼであるMuSK、NSK2、ROR1、ROR2などのCRDと配列に類似性が見られます。このドメインの立体構造は解析されており、主にαヘリックスによって構成されていることがわかっています。構造内には、10個の保存されたシステイン残基が存在し、これらが規則正しく5つのジスルフィド結合を形成することで、ドメインの安定した構造が維持されています。

ヒトのFrizzledメンバー

ヒトでは、以下の10種類のFrizzled受容体が存在することが知られています。

Frizzled-1（FZD1）
Frizzled-2（FZD2）
Frizzled-3（FZD3）
Frizzled-4（FZD4）
Frizzled-5（FZD5）
Frizzled-6（FZD6）
Frizzled-7（FZD7）
Frizzled-8（FZD8）
Frizzled-9（FZD9）
Frizzled-10（FZD10）

薬剤標的としての可能性

Frizzled受容体は、がんなどの疾患において異常なシグナル伝達に関与することがあるため、創薬の標的としても注目されています。例えば、バンチクツマブは、複数種類のFrizzled受容体（5種類）に結合するモノクローナル抗体であり、がん治療薬としての開発が進められています。

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