GNU LilyPond

GNU LilyPondは、クロスプラットフォームで動作する楽譜作成ソフトウェアです。GPLライセンスに基づいた自由ソフトウェアとして提供されており、C++で記述され、SchemeライブラリであるGNU Guileによって組み立てられています。ユーザーは、独自のカスタマイズや拡張を行うことも可能です。

LilyPondの最大の特徴は、音楽をテキストとして記述し、それをコンパイルすることで楽譜を出力できる点です。出力形式はPDFやSVGなどがサポートされており、印刷物としてだけでなく、ウェブ上での利用にも適しています。また、MIDIファイルを出力することも可能なので、作成した楽譜を演奏させることもできます。

FinaleやSibeliusといったGUIベースの楽譜作成ソフトウェアとは異なり、LilyPond自体はグラフィカルなユーザーインターフェースを持ちません。そのため、楽譜の作成にはテキストエディタを使用する必要があります。しかし、その一方で、LilyPondは手作業で楽譜が作成されていた時代の浄書のルールを忠実に再現することを目標としており、非常に高品質な楽譜を作成することができます。プログラマーの技術によっては、大手出版社の出力水準を凌駕するほどの美しい楽譜を作り出すことも可能です。

LilyPondは、楽譜作成ソフトウェアでありながら、プログラミング言語のような側面も持っています。音符の配置や記号の指定などをテキストで記述するため、音楽的な知識だけでなく、ある程度のプログラミング的な思考も必要となります。しかし、その分、より自由で柔軟な楽譜表現が可能であり、高度な音楽表現を追求するユーザーにとっては非常に強力なツールとなります。

LilyPondで作成された楽譜は、IMSLP（国際楽譜図書館プロジェクト）などのサイトで公開されていることが多く、多くの人がそのクオリティを高く評価しています。また、ミュートピアプロジェクトやミュージペディアといったプロジェクトでも、フリーの楽譜を配布する目的で使用されています。

LilyPondのソースファイルは、テキストベースで記述されます。行の先頭にパーセント記号（%）を書くと、その行はコメントとして扱われ、プログラムの実行には影響を与えません。音符の記述は、音名、オクターブ、音価の順に行います。オクターブを指定するには、引用符（'）とコンマ（,）を使用し、それぞれ基準音から1オクターブ上、1オクターブ下を表します。例えば、a'4と記述すると、440Hz付近のA音の四分音符を表します。LilyPondの文法の特徴的な点として、括弧の扱いがあります。[d8 c]のように書きたくなる場合でも、d8[ c]と書く必要があります。これは、括弧内の処理が直前の音符の属性として扱われるためです。

LilyPondには、絶対入力と相対入力の2つの入力方式があります。絶対入力では、音符のオクターブを毎回指定する必要があります。相対入力では、直前の音符から最も近いオクターブが自動的に選択されます。例えば、c gと記述した場合、G音はC音から完全四度下のものが選択されます。完全五度上のものを選択したい場合には、c g'と記述する必要があります。

文字コードはUTF-8のみが使用可能であり、一つのファイル内で異なる言語の文字を混在させることもできます。ソースファイルの1行目には、EmacsなどのテキストエディタがUTF-8でファイルを読み書きするように指示する命令を記述することが推奨されます。

LilyPondは、GUIを持たないため、最初はとっつきにくい印象を持つかもしれませんが、その自由度と表現力は非常に高く、高品質な楽譜を作成するための強力なツールとして、世界中の多くの音楽家や出版関係者に利用されています。

関連ソフトウエアとして、LilyPondのGUI環境を提供するDenemoや、統合開発環境であるFrescobaldiがあります。また、ミュートピアプロジェクトは、著作権の切れた作品の楽譜を公開するプロジェクトであり、LilyPondで作成された楽譜を提供しています。その他、Karaoke（*.karファイル）やGUIDO music notationといった楽譜作成に関連するプロジェクトや規格も存在します。

より詳しい情報は、LilyPondの公式サイトや、有志による日本語訳ドキュメントを参照してください。また、LilyPondのメーリングリストを検索可能なフォーラムや、Wikiなども活用できます。

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