HAKUTO

HAKUTO（ハクト）

HAKUTOは、日本の航空宇宙企業ispaceによって運営されていた民間の月面探査チームです。Google Lunar X Prizeという国際的な無人月面探査レースへの挑戦を目指し、その名称は日本の古き良き伝承に登場する白兎に由来しています。

このチームはしばしば「日本のみの民間チーム」と認識されがちでしたが、実際には日本を中心としつつも、国内外の様々な大学、研究機関、制作機関などが連携する多国籍な協力体制によって成り立っていました。ただし、チームを経済的に支えたスポンサー団体は全て日本の企業や組織でした。特に、オフィシャルパートナーであったKDDIは、開発した月面探査車「SORATO」から月着陸船、そして地球へと、HD画質の動画伝送も可能な高速通信を確立するという、ミッション遂行上極めて重要な役割を担いました。この他、鳥取県のような地方公共団体、日本航空といった企業、そして日本の宇宙開発を長年支えてきたJAXAやJAMSSなどもサポート団体として名を連ねていました。

HAKUTOの歩みは、2008年にオランダで設立されたホワイトレーベルスペースに遡ります。このチームは翌2009年にはGoogle Lunar XPRIZEへの参加登録を行いました。2010年9月には日本法人としてホワイトレーベルスペース・ジャパンLLCが設立され、2013年1月には活動拠点をオランダから日本へと完全に移転。この移転に伴い、チーム運営の主導権は共同設立者の一人である袴田武史氏に委ねられることとなりました。同年7月、チーム名は正式に「HAKUTO」と改称されました。開発資金確保のため、クラウドファンディングも活用され、2013年12月には3作目の試作月面車（PM-3）の開発資金調達に成功しています。

技術開発は着実に進み、2014年2月にはGoogle Lunar XPRIZEの中間賞であるマイルストーン賞の移動サブシステム部門で5チームの一つに選ばれ、さらに2015年1月にも同賞を受賞しました。当初、HAKUTOの月面車はアメリカのAstrobotic Technology社の月着陸船に「相乗り」して月へ向かう予定でしたが、計画変更により2016年12月にはインドのTeamIndus社の着陸船に相乗りする契約を締結しました。打ち上げは2017年 12月28日にインドで行われる計画でした。

しかし、運命は大きく変わります。2018年1月、TeamIndusがロケットの調達に失敗したことが明らかになり、Google Lunar XPRIZEの期限である同年3月末までの打ち上げが不可能となりました。HAKUTOチームは期限の延長を要請しましたが、1月23日にXPRIZE財団は延長を行わないことを決定。結局、2018年3月31日、勝者が決まることなくGoogle Lunar XPRIZEは終了し、HAKUTOの月面への挑戦も幕を閉じることとなりました。チームはその後、ispaceの月面探査プログラムとして、ローバー開発の経験を生かしながら月探査を目指していくことを発表しました。

HAKUTOチームは袴田武史氏をリーダーとし、日本を拠点として活動しました。技術的な柱となったのは、小惑星探査機「はやぶさ」の開発にも携わった東北大学の吉田和哉教授率いる宇宙ロボット研究室です。ispaceの運営のもと、この研究室が技術的な側面を支援しました。

開発された月面探査車は、箱型の本体から左右に伸びる脚部の先端にある計4つの車輪で走行するローバーでした。当初は「ムーンレイカー」と呼ばれ、2作目の試作機には「はくと」という名前が与えられましたが、実際に月へ送られるフライトモデルの名称は一般公募により「SORATO」と名付けられました。この「SORATO」という名前は、チームを応援する楽曲のタイトルにも採用されています。開発過程では、二輪の試作機「テトリス」も製作され、四輪ローバーとの連携探査実験も行われましたが、最終的には小型・軽量化を最優先し、四輪のローバー1機体制となりました。

Google Lunar X Prizeへの挑戦は打ち上げに至りませんでしたが、HAKUTOの開発で培われた技術や知見は、ispaceが推進する日本初の民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」へと確実に引き継がれています。HAKUTOの挑戦は、日本の民間宇宙開発における大きな一歩として記憶されています。

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