HIP 13044

HIP 13044

HIP 13044は、太陽系からおよそ2000光年の距離に位置する恒星です。現在の観測では天の川銀河（銀河系）の中に存在していますが、その特異な性質から、銀河系外に起源を持つと考えられています。

恒星の素性

HIP 13044は、銀河系の中心を公転する軌道の特徴から、「ヘルミ・ストリーム」と呼ばれる恒星の流れに属していることが分かっています。ヘルミ・ストリームは、過去に銀河系に衝突し、その重力によって引き裂かれ吸収された小さな伴銀河の名残だと考えられています。このため、HIP 13044は現在銀河系内にあっても、元々は別の銀河に属していた可能性が非常に高いのです。

ヘルミ・ストリームを構成する他の星々と同様に、HIP 13044は太陽に比べて金属量が極めて少ないという特徴を持っています。ここで言う金属とは、宇宙に最も abundant な元素である水素とヘリウム以外の重い元素全般を指します。金属量の指標である [Fe/H] の値は-2.1であり、これは太陽と比較して金属の割合が約0.8%しかないことを意味します。

HIP 13044の物理的な性質としては、質量は太陽の約0.8倍、半径は太陽の約6.7倍、表面温度を示す有効温度は約6025ケルビンです。恒星が一生の終わりに近づく段階の一つである「水平分枝星」に分類されます。水平分枝星は、金属量が少ない星が赤色巨星として大きく膨張した後に、一時的に収縮して安定した状態になったものです。このことから、HIP 13044も過去には現在より温度が低く、はるかに大きな赤色巨星だった時期を経たと推測されます。水平分枝星の中でも「赤色水平分枝（RHB）」という細分類に属しますが、RHBの中では比較的温度が高く、その名の「赤色」とは裏腹に太陽よりも高温です。

惑星発見報告とその顛末

2010年、ヨーロッパ南天天文台のFEROS分光器を用いたドップラー分光法による観測に基づき、HIP 13044の周囲を公転する系外惑星HIP 13044 bの発見が報告されました。この発見は、当時の惑星形成理論では説明が難しい点をいくつか含んでいたため、大きな注目を集めました。

まず、主流な惑星形成論では、原始惑星系円盤から惑星が誕生すると考えられており、円盤の組成は恒星の組成とほぼ同じと見なされます。しかし、HIP 13044のように恒星の金属量が極端に少ない場合、円盤の金属量も少ないため、巨大なガス惑星の核となる岩石質のコアが十分なサイズに成長しないと考えられていました。HIP 13044 bは比較的大きな惑星だったため、低金属量星での惑星形成メカニズムについて新たな議論を巻き起こしました。

さらに、HIP 13044が過去に赤色巨星だった時期があったとされる点も注目されました。発見が報告されたHIP 13044 bは、恒星からわずか0.12天文単位という非常に近い軌道を回っています。もし実在するならば、恒星が赤色巨星に膨張した際にその外層に飲み込まれそうになりながらも、吸収されずに生き延びた可能性があると考えられたのです。

しかし、2014年に行われた別の研究により、HIP 13044 bの検出に使用されたデータ処理方法に問題があったことが指摘されました。同様の問題が報告されていた別の惑星（HIP 11952の惑星）と共に、HIP 13044 bの検出方法を修正して再解析したところ、惑星が存在する証拠が確認できなくなってしまいました。この結果を受けて、HIP 13044 bの存在自体に現在では懐疑的な意見が出されています。

このように、HIP 13044は、銀河系外起源の可能性を持つ珍しい恒星であり、かつては理論的に興味深い系外惑星の存在が示唆された対象として、研究者の関心を集めました。

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