Hibワクチン

Hibワクチンとは

Hibワクチン（ヘモフィルス・インフルエンザb型菌ワクチン）は、小児を中心に重篤な感染症を引き起こすインフルエンザ菌b型（Haemophilus influenzae type b; Hib）から身を守るために開発された予防接種です。この細菌は、しばしば誤解されますが、季節性インフルエンザの原因となるインフルエンザウイルスとは全く異なります。主に乳幼児の健康を脅かし、生命に関わる重い病気を引き起こす可能性があります。

予防対象となる疾患

Hib菌に感染すると、特に免疫機能が未熟な乳幼児において、重症化しやすい様々な病気を発症する危険性があります。代表的な疾患としては、脳や脊髄を覆う膜に炎症が起こる細菌性髄膜炎、肺に炎症を起こす肺炎、そして喉頭が腫れて気道閉塞を引き起こす可能性のある急性喉頭蓋炎などが挙げられます。かつて、Hib菌は日本を含む世界各国で、小児の細菌性髄膜炎の主要な原因菌の一つであり、重い後遺症や死亡に至るケースも少なくありませんでした。

推奨される接種スケジュール

Hibワクチンは、世界保健機関（WHO）やアメリカ疾病予防管理センター（CDC）をはじめとする世界の多くの公衆衛生機関によって、小児の定期予防接種に含めることが強く推奨されています。具体的な接種回数やスケジュールは国や地域のガイドラインによって異なりますが、一般的には生後6ヶ月までの早期に複数回（2回または3回）接種することが推奨されています。例えば、日本では生後2ヶ月から接種を開始し、決められた間隔で複数回接種する標準的なスケジュールが設定されています。米国では、生後12ヶ月から15ヶ月の間に最終接種を行う4回接種が推奨されるなど、細部は異なりますが、早期からの複数回接種が共通しています。初回接種は生後6週間頃から可能とされており、再接種の間隔は最短で4週間を空けることが推奨されています。定められた回数を完了できなかった場合でも、追加接種によって免疫を獲得することが勧められています。

ワクチンの有効性

Hibワクチンの導入は、Hib感染症の発生状況に革命的な変化をもたらしました。定期予防接種としてHibワクチンが広範に実施されている国々では、重症のHib感染症の発生率が劇的に減少し、その減少率は90%以上にも及ぶことが報告されています。この高い有効性のおかげで、かつてHib菌によって引き起こされていた小児の細菌性髄膜炎、肺炎、急性喉頭蓋炎といった重篤な病気の患者数は大幅に減少しました。Hibワクチンの普及は、世界中の子どもたちの命と健康を守る上で、計り知れない貢献をしています。

副反応について

Hibワクチンの接種後に報告される副反応は、ほとんどが軽度であり、重篤なものは非常に稀です。最も頻繁に見られる副反応は、ワクチンを注射した部位における痛み、赤み、腫れなどで、接種を受けた人の約20%から25%に一時的に現れることがあります。また、約2%の人に発熱が見られることがありますが、通常は数日で自然に改善します。アナフィラキシーなどの重いアレルギー反応については、ワクチン接種との明確な因果関係が常に確認されているわけではありませんが、他のワクチンと同様に発生する可能性はゼロではなく、接種後の観察は重要です。

ワクチンの歴史と普及

Hibワクチンの開発は1970年代に始まり、最初のワクチンは1977年に登場しました。しかし、初期のワクチンは、特に免疫機能が未熟な乳幼児に対する効果が限定的でした。その後、より効果的なワクチンを開発するための研究が進められ、1990年代には、細菌の表面にある多糖体（糖の鎖）にタンパク質を結合させる「結合型ワクチン」と呼ばれる新しいタイプのHibワクチンが登場しました。この結合型ワクチン技術は、1929年にその原理が発見されていましたが、ヒト用ワクチンとして初めて実用化されたのが1987年のHibワクチンでした。この技術改良により、乳幼児に対しても高い免疫応答を引き出すことが可能となり、ワクチンの有効性が飛躍的に向上しました。改良型Hibワクチンは世界中に急速に普及し、2013年には世界の184ヶ国で定期予防接種として採用されるまでになりました。その有効性と安全性から、Hibワクチンは世界保健機関（WHO）の必須医薬品リストに掲載されており、基本的な医療システムにおいて不可欠な薬剤の一つと位置づけられています。ワクチンの価格は、地域や購入方法によって異なりますが、例えば2014年のデータでは、発展途上国向けに供給されるHibを含む5価ワクチンの卸売価格は約15.40米ドル（1投与あたり）であり、米国では1投与あたり約25〜50ドル程度でした。

日本における状況

日本では、Hibワクチンは2007年に承認され、その後の2009年には肺炎球菌ワクチン（当初は7つの血清型に対応したPCV7）も承認されました。Hib菌と肺炎球菌は、小児における細菌性髄膜炎の二大原因として知られており、これら二つのワクチンの導入は、日本の小児が重症の感染症から守られる上で大きな進歩となりました。当初、Hibワクチンは任意の予防接種として開始されましたが、後に定期接種へと移行しました。さらに、2024年4月からは、従来のジフテリア、百日せき、破傷風、ポリオを予防する四種混合ワクチンにHibワクチンが追加され、五種混合（DPT-IPV-Hib）ワクチンとして定期接種が実施されるようになりました。これにより、保護者の接種回数に関する負担が軽減されるとともに、より多くの小児がHib感染症を含む複数疾患から同時に守られることが期待されています。

まとめ

Hibワクチンは、インフルエンザ菌b型によって引き起こされる重篤な感染症、特に細菌性髄膜炎などから子どもたちを守るための極めて重要な予防策です。ワクチンの開発と普及により、これらの疾患の発生率は世界的に大幅に減少し、多くの小児の命と健康が救われてきました。日本においても、定期接種として広く行われるようになったことで、Hib感染症のリスクは大きく低下しています。子どもたちをHib感染症から守るためには、推奨される時期に正確なスケジュールでHibワクチンを接種することが強く推奨されます。

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