I LOVE YOU (オフコースのアルバム)

オフコース10作目のオリジナルアルバム『I LOVE YOU』：制作秘話と魅力に迫る

1982年7月1日、オフコースの10枚目のオリジナルアルバム『I LOVE YOU』がリリースされました。前作『over』からわずか2週間後という短い期間でレコーディングが開始された本作は、多くのエピソードと共に、彼らの音楽性と制作への情熱を深く感じさせる作品となっています。

ロサンゼルスではなく東京でのレコーディング

これまでのアルバムでは、メンバー全員が渡米し、ロサンゼルスのチェロキー・スタジオでレコーディングが行われていましたが、『I LOVE YOU』では事情が異なりました。リリース時期の都合上、コンサートツアーと並行しての制作を余儀なくされたため、ミックス・ダウンを担当したビル・シュネーが来日し、東京のスタジオでレコーディングが行われたのです。

先行シングル「YES-YES-YES」は、ビルの来日を待たずにメンバー自身の手でミックス・ダウンされました。ボーカルレコーディングは木村史郎と蜂屋量夫という2人のミキサーが、それぞれのスタジオで並行して作業を進めたという、まさに時間との闘いを象徴するエピソードも残されています。

各楽曲に秘められた物語

アルバム収録曲にも注目すべき点が多くあります。例えば、「素敵なあなた」と「愛のゆくえ」は、後に鈴木康博がソロアルバム『FORWARD』でセルフカバーしています。また、「哀しき街」は『over』のレコーディング時にバックトラックのみ録音されていた楽曲で、当初は小田和正以外のメンバーが作詞を担当する予定でしたが、なかなか納得のいく詞が完成せず、小田がたった一晩で作詞したという逸話があります。この曲は後に松尾一彦がセルフカバーし、さらにオフコース解散後に松尾、清水仁、大間ジローが結成したユニット“A.B.C”でも演奏されたという経緯を持っています。

「きっと同じ」では、アコースティックギターの音作りにこだわったエピソードがあります。小田自身で演奏を試みたものの納得がいかず、最終的には鈴木が演奏したものが採用されたという逸話は、メンバー間の信頼関係と、音楽に対する妥協のない姿勢を示しています。

「かかえきれないほどの愛」に使用されている子供たちのSEは、マネージャーの上野博氏の子供たちとその友人たちを公園に集めて録音されたものです。こうした細やかな演出にも、アルバム全体を彩る工夫が凝らされていることがわかります。

そしてタイトル曲「I LOVE YOU」は、アルバムのために再レコーディングされ、ミックス段階でジョン・レノンの死を報じる新聞記事を、ビルの友人がニュース風に朗読した音声が重ねられています。このアレンジは、時代背景や小田自身の想いを反映した、興味深い試みと言えるでしょう。

アルバムジャケットとリリース履歴

レコードジャケットには、“We are”ツアーでのライブ映像の静止画像が使用されています。2005年には、レコードデビュー35周年を記念してオリジナルアルバム15タイトルが紙ジャケット仕様で再リリースされ、『I LOVE YOU』も24ビット・デジタル・リマスタリングされた形で含まれています。2009年にはSHM-CDフォーマットでも再発されています。これらのリマスター盤は、音質の向上だけでなく、当時のパッケージデザインを再現した紙ジャケット仕様も大きな魅力となっています。

まとめ

『I LOVE YOU』は、レコーディング環境や制作過程における様々な困難を乗り越えて生まれた作品であり、その過程で生まれた数々のエピソードは、楽曲の魅力をさらに深めるものとなっています。音楽そのもののクオリティはもちろんのこと、その背景にある物語を知ることで、『I LOVE YOU』をより深く理解し、楽しむことができるでしょう。様々な困難を乗り越えて制作された、オフコースの真摯な音楽への姿勢を垣間見ることができる、まさに名盤と言える作品です。

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