I級駆逐艦 (初代)

I級駆逐艦の概要

I級駆逐艦は、イギリス海軍が第一次世界大戦前に建造した駆逐艦の艦級です。当初はネームシップである「アケロン」にちなんでアケロン級と称されていましたが、後にI級として再分類されました。この艦級は、当時の海軍の財政状況と技術的な挑戦の両方を反映した興味深い存在です。

開発の背景

1908年、イギリスではアスキス内閣が成立し、社会保障の財源確保のために海軍増強計画の見直しが進められました。その結果、1908-9年度計画ではビーグル級（後のG級）、1909-10年度計画ではエイコーン級（後のH級）と、コストを重視した駆逐艦が建造されるようになりました。

1910-11年度計画でも、エイコーン級をベースにした小改正型が予定されていましたが、この時期にはドイツ帝国海軍の大型水雷艇の速力が30ノットに達しており、従来のイギリス駆逐艦では対抗できない懸念がありました。そこで、イギリス海軍は民間造船所の技術力に着目し、海軍本部の基本設計とは別に、各造船所に大幅な自由裁量を認めた特型を建造することにしました。

設計の特徴

I級駆逐艦の基本設計は、エイコーン級を踏襲しており、船型もE級以来の船首楼型が採用されています。ただし、機関部の短縮を図るため、艦橋がH級よりも約3メートル後方に移動しました。また、凌波性を改善するため、船首楼だけでなく艦橋付近の舷側にもフレアが設けられています。

アドミラルティ型では、機関構成は基本的にH級のものが踏襲されましたが、主ボイラーは1基減らされて3基となりました。主機にはパーソンズ・タービン（3軸推進）とブラウン・カーチス・タービン（2軸推進）の2種類があり、出力13,500馬力で速力27ノットを発揮しました。

特型では、速力向上のために主機出力が増大されており、出力は15,500～16,000馬力、速力は28～29ノットに達しました。ヤーロウ特型とソーニクロフト特型は従来通りの直結タービン方式でしたが、パーソンズ特型では初めて減速機を介したパーソンズ・セミ・ギヤード・タービンが採用されました。この方式は、高圧タービンと巡航タービンの効率向上に貢献しました。

さらに、ヤーロウ社に発注された特型のうち最後の3隻は、20,000馬力のパーソンズ直結タービン（2軸推進）を搭載したファイアドレーク特型として建造されました。

装備

兵装面では、エイコーン級の構成が踏襲され、船首楼甲板と後部甲板に40口径10.2cm砲（BL 4インチ砲Mk.VIII）が1門ずつ、後部甲板に40口径7.6cm砲（QF 12ポンド砲）が2門装備されました。水雷兵装としては、53.3cm単装魚雷発射管が2基搭載されています。

特型の意義

I級駆逐艦の特型は、イギリス海軍が初めて民間造船所の技術力を積極的に導入した事例として、非常に重要な意味を持っています。この成功が、その後のイギリス海軍における駆逐艦設計の多様化と技術革新を促進するきっかけとなりました。

まとめ

I級駆逐艦は、コスト削減と技術革新という相反する要求に応えようとしたイギリス海軍の努力の結晶です。特に特型の建造は、民間造船所の技術力を活用することで、駆逐艦の性能向上に大きく貢献し、その後の海軍艦艇設計に大きな影響を与えました。この艦級は、第一次世界大戦前のイギリス海軍における駆逐艦開発史を語る上で欠かせない存在です。

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