IPX/SPX

IPX/SPX：NetWareを支えた通信プロトコル

IPX/SPXは、かつてノベルのオペレーティングシステムであるNetWareで主に利用されていた通信プロトコルです。IPXはInternetwork Packet Exchangeの略で、ネットワーク層（OSI参照モデルの第3層）に対応し、SPXはSequenced Packet Exchangeの略で、トランスポート層（OSI参照モデルの第4層）に対応します。SPXはIPXの上位プロトコルとして機能し、ネットワーク上の2つのノード間でコネクション型のサービスを提供します。

プロトコル階層と機能

IPXとSPXは、Xerox Network ServicesのIDPとSPPプロトコルから派生しました。IPXは、ネットワーク層プロトコルとして、データパケットのルーティングを担当します。SPXは、トランスポート層プロトコルとして、データの信頼性のある転送を保証します。SPXは主にクライアントサーバ型のアプリケーションで利用され、データの順番やエラー訂正を管理します。

IPX/SPXは、TCP/IPと類似したサービスを提供します。IPXはIPに相当し、SPXはTCPに近い機能を持っています。IPX/SPXはLAN環境での利用に特化して設計されており、LAN内での性能は一般的にTCP/IPよりも優れていました。しかし、WANやインターネットでの性能でTCP/IPが優位であったこと、そしてTCP/IPがグローバルスタンダードとして成熟したプロトコルであったことから、TCP/IPがデファクトスタンダードとなりました。

NetWareとの関係

IPX/SPXはNetWareの通信において必須ではありませんでした。NetWareの通信ではNCP（NetWare Core Protocol）が必須であり、トランスポート層以下のプロトコルはIPX/SPXまたはTCP/IPのどちらでも選択可能でした。これは、NetWareが単一のプロトコルスタックに依存していなかったことを示しています。

実装

1980年代後半から1990年代中盤にかけて、ノベルはIPXをベースとしたネットワークプロトコルでパーソナルコンピュータのネットワーク市場を独占していました。

DOS環境

ノベルの最初のNetWareクライアントはDOS向けに開発されました。初期のバージョンでは、ネットワークカードごとに実行ファイルを作成する必要があり、これらのファイルはブート時にロードされ、メモリに常駐していました。その後、プロトコルスタックの動的なロード/アンロードが可能となり、クライアントの保守が大幅に容易になりました。

Windows環境

1990年代のLAN環境ではIPX/SPXが主流であったため、マイクロソフトはWindows for WorkgroupsおよびWindows NTからIPX/SPXをサポートしました。この実装はNWLinkと呼ばれ、NetWareとの接続を可能にしました。ただし、IPX/SPXはSMB/NetBIOSのネイティブなトランスポート層として機能しており、NetWareとの接続にはNCPクライアントの追加インストールのみが必要でした。NWLinkはWindows 2003までサポートされていましたが、TCP/IPの普及によりWindows Vistaではサポートが終了しました。

その他の環境

ノベルは、OS/2用のNetWareクライアントも提供していました。また、各種UNIX/Linuxへの実装も行われました。特に、ノベルのUnixWareはデフォルトでIPX/SPXをサポートしていましたが、UnixWareをサーバとして利用するには追加のパッケージが必要でした。Caldera OpenLinuxもクライアントとしてIPX/SPXを実装していました。しかし、ノベルがリリースしたNovell Open Enterprise ServerのLinux版では、IPX/SPXのサポートは終了しました。

移行の経緯

インターネットの普及とともに、TCP/IPが主流となり、IPX/SPXの利用は減少していきました。ノベルは、TCP/IPをクライアントプロトコルNetWare/IPとしてサポートし、IPXをIPパケット内にトンネリングするという方法を採用しました。これにより、NetWareクライアントとサーバはTCP/IPネットワーク経由で通信可能になりましたが、実装が複雑であったため、性能は低下し、特別な場合のみ採用されました。NetWare 5.xでは、NCPをTCP/IP上に直接実装することが可能になりました。NetWareの後継であるNovell Open Enterprise Serverでは、IPX/SPXをサポートしたOES-NetWareと、TCP/IPのみをサポートしたOES-Linuxの2種類が提供されました。

マイクロソフトとノベルは、ファイアウォール経由のIPX/SPX利用をサポートしていました。これにより、ネットワーク基盤がIPX/SPXであっても、Winsockを使ったアプリケーションでインターネット接続が可能でした。これは移行を単純化するだけでなく、外部からの侵入を困難にするという側面もありました。

IPX/SPXの活用

IPX/SPXの有益な利用法として、プリンタやディスク共有をIPX/SPXで行い、外部からのTCP/IPによるそれらの利用を防ぐというセキュリティ対策があります。

まとめ

IPX/SPXは、かつてLAN環境で広く利用された通信プロトコルでしたが、TCP/IPの普及によりその役割を終えました。しかし、その歴史と技術的な側面は、ネットワーク技術の進化を理解する上で重要な要素です。