IT-1

IT-1：ソ連の異端なるミサイル戦車

IT-1（ロシア語: ИТ-1）は、ソビエト連邦が開発した対戦車ミサイルを主武装とする駆逐戦車であり、「ロケット戦車」とも呼ばれました。1960年代に、対戦車ミサイルの発展を受けて開発されたこの車両は、ソ連独自の思想を反映した特異な存在です。

開発の経緯

1950年代後半、ソ連では誘導ミサイルの発達に着目し、既存の戦車にミサイル発射装置を搭載する計画が立ち上がりました。当初はT-54/55戦車をベースとする案もありましたが、最終的にはT-62戦車の車体を流用した「Объект 150」として開発が進められました。

1964年には試作車が完成し、各種テストを経て、1965年に「IT-1」として制式採用、量産が開始されました。

特徴

IT-1の最大の特徴は、砲塔に搭載されたミサイル発射装置です。主砲の代わりに、3M7ドラコーン対戦車ミサイルを搭載し、砲塔内部に15発の予備弾を格納。発射時には、砲塔上部から発射アームが展開し、ミサイルを発射する方式を採用していました。誘導方式は無線によるSACLOS方式で、最大射程は3,300メートルを誇りました。副武装として、7.62mm PKT機関銃も搭載しています。

車体はT-62を流用しているため、同時期のミサイル搭載車両と比較して装甲が厚く、防御力に優れていました。また、T-62と同様に、シュノーケル装置による潜水渡渉能力も有していました。

運用と評価

IT-1は「ロケット戦車大隊」として実戦部隊に配備されましたが、運用開始後、いくつかの問題点が浮上しました。3M7ドラコーンミサイルが大型で重量過多であったこと、より小型で扱いやすい9M14マリュートカ（AT-3サガー）対戦車ミサイルが普及したことなどから、IT-1の存在意義は薄れていきました。

結果として、生産数は約60輌に留まり、1968年から1970年の間に生産は打ち切られました。配備された車両も程なく部隊から引き上げられ、武装を撤去後、装甲回収車に改造されました。

その後

ソ連ではIT-1の他にも、様々な“ロケット戦車”が開発・試作されましたが、量産され実戦部隊に配備されたのはIT-1のみでした。歩兵携行可能な対戦車ミサイルの発達により、大型で複雑なミサイル戦車を運用するメリットが薄れたことが、その要因と考えられます。

IT-1の退役後、ソ連/ロシア軍では、戦車砲から発射するガンランチャー式の対戦車ミサイルが主流となり、IT-1のような特異なミサイル戦車が再び用いられることはありませんでした。

現存車両

装甲回収車に改造されなかった1輌のIT-1が、ロシアのクビンカ戦車博物館に現存しています。

登場作品

WarThunder

参考文献・参照元

『GRAND POWER』2023年3月号 「ソ連軍主力戦車T62(2) \"IT-1 2K4 ミサイル搭載戦車駆逐車\"」 ガリレオ出版：刊 2023年
GlobalSecurity＞IT-1 + 3M7 / 2K4 Drakon ※2023年2月14日閲覧
Article about rocket tanks (ロシア語) ※2023年2月14日閲覧
WeaponSystems.net＞3M7 Drakon ※2023年2月14日閲覧

関連項目

対戦車ミサイル

外部リンク

Kubinka tank museum＞Tank destroyer IT-1
Tank Encyclopedia＞IT-1
* IT-1- The rocket tank - YouTube

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