IXPE

IXPE（イメージングX線偏光測定エクスプローラー）について

IXPE（Imaging X-ray Polarimetry Explorer）は、アメリカ航空宇宙局（NASA）とイタリア宇宙機関（ASI）が共同で開発したX線観測衛星です。2021年に打ち上げられ、ブラックホールや超新星残骸など、強力なX線源からの偏光を観測することに特化した、初のミッションとなります。このプロジェクトは、NASAのエクスプローラー計画における小型探査機シリーズ、SMEXの1つ（SMEX-14）として位置づけられています。

背景と開発の経緯

X線天文学における偏光観測の歴史は、1978年にNASAのOSO-8衛星によるかに星雲の観測に遡ります。しかし、当時の技術的な制約から、特定のエネルギー帯域に限定された観測しか実現できませんでした。その後、高感度かつ広帯域での偏光観測を可能にする検出器の開発は、技術的な困難から長らく実現に至りませんでした。1990年代には、コンプトン散乱を利用した検出器を搭載する計画が中止となり、2012年にはガス電子増幅器を採用したGEMSという計画も予算上の理由でキャンセルされました。このような状況の中、NASAはキャンセルされたGEMSに続くミッションとして、2つのX線偏光天文衛星案を検討し、IXPEをSMEX-14として選定しました。

IXPEは、ASIが開発した高性能の偏光検出器を使用する計画であり、NASAとASIの間で協定が締結されました。衛星本体はボール・エアロスペース社によって製造され、過去に実績のある小型衛星バスBCP-100をベースにしています。このプロジェクトには、アメリカとイタリアを中心に、12カ国の研究機関が協力しており、日本からは理化学研究所と名古屋大学が開発に参加しています。

当初、IXPEはペガサスXLロケットでの打ち上げが想定されていましたが、実際にはスペースX社のファルコン9ロケットで打ち上げられました。計画全体の費用は1億8800万ドルと見積もられています。打ち上げは2021年5月を予定していましたが、ミラー組立作業中に新型コロナウイルスの影響で遅延し、同年12月9日にケネディ宇宙センターから打ち上げられました。

観測運用

望遠鏡のブーム展開とテスト観測後、2022年1月11日にカシオペヤ座Aの観測が開始されました。IXPEは初年度に30以上の観測目標を計画しています。運用は、コロラド大学ボルダー校の大気宇宙物理学研究所（LASP）とマーシャル宇宙飛行センターが担当します。衛星との通信は、ケニア沖のルイージ・ブログリオ宇宙センターと、そのバックアップとしてシンガポールのKSAT地上局を通じて行われます。主任研究科学者は、かつてOSO-8でかに星雲のX線偏光観測に携わったマーティン・ワイスコフ博士が務めています。

IXPEによって得られた観測データは、NASAの高エネルギー天体物理科学アーカイブ研究センター（HEASARC）に保存され、各国の研究者が利用できるようになります。これらのデータを通じて、巨大ブラックホール、パルサー、クェーサー、マグネター、活動銀河核といった高エネルギー天体の回転や磁場の構造を解明し、高エネルギー宇宙物理学の新たな発見に繋がることが期待されています。

観測装置

IXPEには、同一設計の3つのX線偏光望遠鏡が搭載されています。それぞれの望遠鏡は、集光用ミラーモジュールと検出器ユニットで構成されています。ミラーモジュールは、打ち上げ後に展開するブームの先端に取り付けられており、多重ミラーを用いてX線を検出器ユニットに収束させます。各望遠鏡は、4001mmの焦点距離を持ち、12.9分角の視野と25秒角の分解能を持っています。

検出ユニットには、ASIが開発したガスピクセル検出器（GPD）が採用されています。この検出器は、2～8keVのエネルギー帯域のX線を高感度で観測できます。また、ミラーモジュールの先端には、観測対象外のX線が検出器に入射するのを防ぐためのX線シールドが設置されています。

まとめ

IXPEは、X線天文学における偏光観測の新たな時代を切り開くミッションです。その観測データは、高エネルギー天体の物理現象の解明に大きく貢献することが期待されています。

関連項目

X線天文学
高エネルギー天文学

参考資料

NASAホームページ
eoPortal Directory

もう一度検索