I/O コントローラー・ハブ

I/Oコントローラー・ハブ（ICH）とは

I/Oコントローラー・ハブ（ICH）は、マザーボード上のチップセット内で、サウスブリッジとして機能するインテルの集積回路の開発コードネームです。製品シリーズとしてはIntel 82801が正式な型番です。インテル・ハブ・アーキテクチャにおいて、ICHは他のサウスブリッジと同様に、周辺デバイスの接続と制御を担っています。

本稿では、各ICHの開発コードネームを節の名称として用いて、その詳細を解説していきます。

ICH

最初のICHは、1999年6月にノースブリッジであるIntel 810と組み合わせて発表されました。前身のPIIXが133MB/sのPCIバスでノースブリッジと接続していたのに対し、ICHは8ビット幅、266MB/sの独自のインタフェース（インテルはこれをハブ・インタフェースと呼んでいます）でノースブリッジと接続しました。

ハブ・インタフェースは、マザーボード上の異なる部品を接続するためのポイント・ツー・ポイント接続でした。また、マザーボード上でのノースブリッジとサウスブリッジの配置を、星型に置き換えるという設計上の変更も行われました。

このICHの発表以降、インテルは「ハブ」という用語を他の分野でも使用するようになりました。その結果、ICHと組み合わされるノースブリッジは、メモリー・コントローラー・ハブ（MCH）、あるいは統合グラフィックス機能を持つものはGraphics and Memory Controller Hub（GMCH）と呼ばれるようになりました。

その他、ICHの主な特徴は以下の通りです。

PCI Rev 2.2に準拠し、33MHzのPCI動作をサポート
ACPIをサポート
Ultra ATAをサポートする統合IDEコントローラ
I2Cデバイスのサポートを含むSMBus
AC'97 2.1準拠
LPCバスインタフェース
Audio and Modem Riserのサポート

ラインナップ

82801AA (ICH): Ultra ATA/66サポート、6 PCIスロット、Alert on LANサポート
82801AB (ICH0): Ultra ATA/33サポート、4 PCIスロット、Alert on LAN非サポート

ICH2

2000年、インテルはi820 MCHの失敗に直面しました。消費者は高価なRDRAMを避け、安価なi810チップセット搭載マザーボードや競合他社製のチップセットへと移行しました。そこで、PC133 SDRAM用のMCHが急遽開発され、ICH2と組み合わせてi815チップセットを構成し、ミドルクラスマザーボードでのインテルのシェアを回復しました。

ICH1と新しいICH2（360ピン）は、815MCHと共に使用されました。ファストイーサネットチップ(Intel 82559)がサウスブリッジに統合されましたが、外部のPHYチップに依存していました。これらのチップをライザーカードとして使用するため、ICHではAMRがサポートされましたが、ICH2以降ではAMRを進化させたCNRに置き換えられています。

以前のICHと比較して、PATAインターフェースはATA/66からATA/100に性能が向上し、USBポートの数は2倍の4つになりました。サウンドインターフェースは6チャネルに対応しました。

ラインナップ

82801BA (ICH2): 基本モデル
82801BAM (ICH2-M): モバイル向け基本モデル

ICH3

2001年、インテルは2種類のICH3を出荷しました。サーバー向けのICH3-SはE7501MCHと共に使用され、モバイル向けのICH3-Mはi830MCHまたはi845MCHと共に使用されました。デスクトップマザーボード向けのICH3は存在しません。

ICH2との主な違いは、PATAコントローラの「ネイティブモード」のサポート、最大6つのUSB 1.1デバイス、SMBus 2.0、動作中に省電力対応デバイスの電源を切ることを可能にする最新のSpeedStepのサポートです。このチップは421ピンです。

ラインナップ

82801CA (ICH3-S): サーバー向け
82801CAM (ICH3-M): モバイル向け

ICH4

ICH4は、2002年に発表されたインテルのサウスブリッジです。最も重要な革新は、6ポート全てがUSB 2.0をサポートしたことです。サウンドのサポートも改善され、最新のAC97仕様である2.3版に対応しました。前モデルと同様に、ICH4は421ピンです。

ラインナップ

82801DB (ICH4): 基本モデル
82801DBM (ICH4-M): モバイル向け基本モデル

ICH5

2003年、ICH5はi865MCHおよびi875MCHに合わせて開発されました。

特徴

SATAホストコントローラが統合され、SATA 1.0a規格に準拠し、150MB/秒の転送速度をサポート
ICH5RはSATAポートでRAID 0をサポート
8ポートのUSB 2.0ポートを搭載
ACPI 2.0を完全にサポート
460ピン

CSA

1999年以降、266MB/秒のハブ・インターフェースがボトルネックと見なされるようになりました。この世代のチップで、インテルはギガビットイーサネットコントローラをMCHに直接接続するオプションポートを提供しました。CSA（Communication Streaming Architecture）技術の目的は、メモリへの直接アクセスを通じてギガビットイーサネットの遅延を低減し、ICHとMCH間のハブインターフェースのバス帯域をハードディスクやPCIのデータトラフィックのために開放することでした。

不良率増加

2004年の中頃から、主要なマザーボードメーカーはICH5を搭載したマザーボードの不良率が増加していることに気づきました。原因は、特定のICH5のステッピングで静電気耐性が不十分であったためです。特に、PCケースのフロントパネル側でUSBデバイスを接続した際に、USBコネクタを囲む樹脂製ベゼルに蓄積された静電気の放電によってICH5が故障するケースがありました。インテルは、静電気耐性を向上させたICH5を出荷することでこの問題に対処しました。未対策のICH5に対する事後対策は、USBポートにサージ防護部品を追加することでしたが、この電子部品はUSB 2.0の高速信号の波形を歪ませるため、通信品質を低下させる可能性がありました。

ラインナップ

82801E (C-ICH): 通信機器用
82801EB (ICH5): 基本モデル
82801ER (ICH5R): RAID対応モデル
82801EBM (ICH5-M): モバイル向け基本モデル
6300ESB (ESB): エンタープライズ向け

ICH6

ICH6は、インテル初のPCI Expressサウスブリッジです。4つのPCI Express x1ポートを利用できます。より高速なx16ポートはMCH側に配置されています。ボトルネックとなっていたハブインターフェースは、1方向あたり1GB/sの新しいDMI（実際には「PCI Express x4リンク」と言える）に置き換えられました。インテルHDオーディオのサポートも追加されました。旧来のAC97とPCI 2.3のサポートは継続されました。

SATAポートは2つ追加され計4つになりましたが、PATAポートは2ポート4デバイスから1ポート2デバイスへと半減しました。PATAポートは最速規格であるATA133ではなく、ATA100に留まりました。派生のICH6Rは、RAID 0, 1, 0+1とインテル独自の「Matrix RAID」（インテル・ラピッド・ストレージ・テクノロジーに含まれる）をサポートしました。SATAの技術仕様はICH5と同様に「SATA 1.0a」で、150MB/秒の転送速度を維持しました。ICH6RとICH6-Mに内包されるSATAコントローラはAHCIに対応しました。ICH6RはRAID構成でない場合でもAHCIを利用できました。このチップは652ピンです。当初、インテルはICH6WとICH6RWという派生チップを発売する予定でしたが、これらはソフトウェアアクセスポイント機能を含んでいたものの、販売されることはありませんでした。

ラインナップ

82801FB (ICH6): 基本モデル
82801FR (ICH6R): RAID対応モデル
82801FBM (ICH6-M): モバイル向け基本モデル
6311ESB (ESB2): エンタープライズ向け
6321ESB (ESB2): エンタープライズ向け

ICH7

ICH7は、2005年中頃にインテルの新しいハイエンドMCHである82995Xと組み合わせて「i955Xチップセット」として出荷されました。2つのPCI Express x1ポートが追加され、SATAコントローラのデータ転送性能は300MB/秒に向上しました（デスクトップ向けのみ）。また、インテルの「アクティブ・マネージメント・テクノロジー」が追加されました。基本モデルであるICH7を除いたモデルがAHCIをサポートしています。ICH7Rは、ICH6Rと比較してRAID 5を新たにサポートしています。

ICH7は、945/955/975シリーズの他に、P31/G31/G41チップセットのサウスブリッジとしても使用され、Atom (Pineview)と組み合わせて用いられるNM10もICH7に近い仕様となっています。

ラインナップ

82801GB (ICH7): 基本モデル
82801GR (ICH7R): RAID対応モデル
82801GDH (ICH7DH): デジタルホーム向け
82801GBM (ICH7-M): モバイル向け基本モデル
82801GHM (ICH7-M DH): モバイル向けデジタルホーム
82801GU (ICH7-U): ウルトラモバイル向け

ICH8

ICH8はいくつかのバージョンで提供され、965クラスのMCHチップと共に使用されました。モバイル向け以外のICH8は従来のPATAインターフェースを持たず、1つのAC97のみを搭載していました。実際には、多くのマザーボードメーカーがJMicronやMarvell製のチップを追加してPATA接続をサポートしていました。ICH8では、eSATAとギガビットイーサネット（以前はMCHに内蔵）を制御します（ただしeSATAはデスクトップ版のみ）。基本モデルは4つのSATA 2.0ポートのみをサポートしています。また、モバイル向け製品でもSATA 3Gbpsをサポートするようになりました。

他のチップと同様に、ICH8R (RAID)は6台のSATAデバイスを接続することができます。さらにICH8DHはクイックリジュームが可能で、P965MCHやG965MCHと合わせてIntel Viiv適合システムで使用されます。ICH8DOはQ965MCHに対応し、これらを合わせることでIntel vProに対応します。

ラインナップ

82801HB (ICH8): 基本モデル
82801HR (ICH8R): RAID対応モデル
82801HDH (ICH8DH): デジタルホーム向け
82801HDO (ICH8DO): デジタルオフィス向け
82801HBM (ICH8M): モバイル向け基本モデル
82801HEM (ICH8M-E): モバイル向け拡張モデル

ICH9

ICH9は2007年5月にIntel 3 SeriesのMCHと合わせて発表されました。ICH8と同様にPATAをサポートしていませんが、多くのマザーボードメーカーは追加のチップを使うことでPATAの提供を継続しました。ICH9R, ICH9DH, ICH9DOチップのみがAHCIをサポートしています。

最大4レーンで構成可能な6つのPCI Expressポートを搭載していますが、そのリビジョンは1.1（通称Gen1）であり、組み合わせて用いられることが多かったIntel 3 Series MCHの持つ16レーンPCI Expressポートのリビジョン2.0（通称Gen2）とは乖離がありました。Intel 3 Series搭載製品の中には、ICH9を含む構成であってもPCI Expressポートのリビジョンを（MCHの16レーンである）「2.0(Gen2)」としか表記しないものが多く、全てのポート（すなわち全てのPCI Express 拡張カードスロット）がGen2であるとの誤解を招く場合がありました。この乖離は、後継製品のICH10で解消されました。

ラインナップ

82801IB (ICH9): 基本モデル
82801IR (ICH9R): RAID対応モデル
82801IH (ICH9DH): デジタルホーム向け
82801IO (ICH9DO): デジタルオフィス向け
82801IBM (ICH9M): モバイル向け基本モデル
82801IEM (ICH9M-E): モバイル向け拡張モデル
82801IUX (ICH9M-SFF): モバイル向けSFFモデル

ICH10

2008年6月、インテルはICH10を開発コードネームがEaglelakeであったMCHと組み合わせ、Intel 4 Seriesとして出荷しました。ICH10はMCHとのインターフェースとして、10Gbit/秒の双方向DMIを実装しています。ICH10は各種の「低速」周辺機器をサポートすると同時に、ハウスキーピング機能をサポートしています。

ICH10はPATAやLPTを直接サポートしていません。SATAポートはAHCIモードを使用することでホットスワップ機能をサポートしています。ICH10はCPUの負荷を低減し、消費電力を削減する機能も提供しています。ICH10RはRAID対応版であり、「Turbo Memory」という新しい機能をサポートしています。これはマザーボード上のフラッシュメモリを使用してキャッシングを高速化するものです。

周辺機器のサポート

PCI Express 2.0 (Gen2、ただし速度はGen1相当の2.5GT/s)を6ポート。4ポートは1x4つ、または4x1つとして設定可能。
PCIバス
レガシーIDEやAHCIモードを持つ、3Gbps SATAを6ポート。外部のeSATAもサポート可能。
インテルHDオーディオ
ギガビットLANを統合
6つのUSB 2.0コントローラ

ラインナップ

82801JIB (ICH10): 基本モデル
82801JIR (ICH10R): RAID対応モデル
82801JD (ICH10D): コーポレートベース
82801JDO (ICH10DO): デジタルオフィス向け

ICH10は、インテルにおけるI/Oコントローラーハブの最終製品です。Intel 5 Seriesでは、最初に登場したBloomfieldにおいてこのICH10が使用されましたが、次に登場したLynnfieldでは「ノースブリッジ+サウスブリッジ」という構成が廃止され、サウスブリッジであるI/Oコントローラーハブも廃止されました。ただし、従来のサウスブリッジに相当する機能は、プラットフォームコントローラーハブと名前を変えた1チップ構成のチップセットが担っており、それらが実質的な後継と言えます。

RAIDシステム

ICH5RとICH6RのRAIDシステムはインテル Matrix RAIDです。ICH7RからICH10RのRAIDシステムは、Matrix RAIDから改名したインテルラピッドストレージテクノロジー（Intel RST）によってサポートされています。

I/O コントローラー・ハブ